上 下
98 / 239
三章 スライム騒動編

97話 合同依頼

しおりを挟む
 
 ──私がグレープをテイムしてから、数日が経過した。
 この日の早朝、ルークスたちが私とフィオナちゃんを呼びに来て、開店前に話がしたいと持ち掛けてきたよ。

「二人とも、おはよう! 今後のパーティーの活動方針で、軽く話し合いがしたいから、朝食でも一緒にどうかな?」

「勿論、あたしは参加するわ。アーシャも行くわよね?」

 ルークスに誘われて、フィオナちゃんが即答した。
 私は一旦、お店の商品棚を見回してから、話し合いに参加することを決める。

「うん、行くよ。開店させても、閑古鳥が鳴くような状況だから、暇なんだよね」

 棚にはもう、以前にスラ丸二号が聖女の墓標で手に入れたお宝と、タクミが作ってくれたもの、それからローズの葉っぱが数枚、売れ残っているだけだよ。
 ポーションの納品は物凄く順調だけど、お店は商品の補充をしていないから、寂れていく一方なんだ。
 この献身に見合った褒賞が貰えないと、私は暴れるかもしれない。

「かんこどり……? アーシャは時々、ワタシでも知らない言葉を使うな。本当に孤児院で育ったのか?」

「う、うん。院長のマリアさんが博識で、私は勉強熱心だったから……」

 酒場へ向かう道中、ニュート様が私の出自を疑ったけど、孤児院で育ったことは嘘じゃない。
 ただ、前世の記憶があるから、みんなが聞き慣れない言葉がたまに出るんだ。

 前世の記憶に関しては、誰にも言わないよ。
 私がアラサーで親の脛を齧って生きていたなんて、恥ずかしいから知られたくない……。この秘密は、墓場まで持っていこう。

「──それじゃあ、今後のパーティーの活動方針だけど、どうしよっか?」

 酒場に到着して、みんなが適当にメニューを注文した後、ルークスが意見を求めてきた。これに、トールが真っ先に反応する。

「第四階層に挑むっきゃねェだろ!! 歯応えがなくなっちまった第三階層で、これ以上グダグダしたくねェ!!」

「ぼ、ボクは、マンモスの群れなんて、無理だと思う……」

「テメェ……ッ、ブタ野郎!! 弱気になってンじゃねェぞッ!!」

「ひぃっ、で、でもぉ……!!」

 トールは先へ進みたがっているけど、シュヴァインくんは腰が引けている。
 私としては、シュヴァインくんの意見が正しいと思うよ。ニュート様も同意見で、トールを宥めるのと同時に建設的な意見を出した。

「落ち着け、番犬。実際問題、まだマンモスの群れは無理だ。ワタシはこのまま第三階層で、全員のレベルを30まで上げるべきだと、提案させて貰おう」

「ざけンじゃねェぞ!! スノウベアーなンざ、もう欠伸混じりで倒せちまうだろォがッ!! レベル30なンざ、この調子だと一年は掛かっちまう!!」

 スノウベアーと戦うのに適性とされているレベルは、20~30らしい。
 レベル20から徐々に伸びが鈍化して、30から先はスノウベアーを狩っても、レベルが上がらなくなるとか。

「みんなって、今はレベル幾つなの?」

「全員一緒で、22よ。スラ丸の【転移門】のおかげで、帰り道を省略出来るようになったから、狩りに費やせる時間は増えたんだけど……」

 私の質問にフィオナちゃんが答えて、やれやれと頭を振った。今のペースだと、レベル30は遠いよね。
 ルークス、トール、フィオナちゃんの三人は、もっとレベルをサクサク上げたがっている。
 ここで、ニュート様がみんなを冷静にさせる話を持ち出した。

「ワタシたちの年齢を考えれば、一年後にレベル30というのは驚異的なことだ。現状でも随分とアーシャの支援に頼っているが、これ以上先を急ぐとなると、大幅に依存度が上がるだろう。……そうやってレベルを上げたとして、本当に強くなったと言えるのか?」

 【再生の祈り】があるから、怪我が怖くなくなり、結構な無茶が出来る。
 【光球】があるから、体力と魔力が自動回復して、容易に連戦に臨める。
 【風纏脚】があるから、移動速度が上がって、攻撃を回避するのも命中させるのも楽になっている。
 
 これらの支援スキルがなくても、みんなはスノウベアーを倒せると思うけど、安全性は著しく落ちるよね。
 狩るペースだって遅くなるし、そういう状態が普通だと考えれば、現状は随分と恵まれているんだ。

「そっか……。一年後にレベル30でも、全然早い方なんだ……。オレたち、急ぎ過ぎていたのかな?」

「そうね、あたしもハッとしたわ。ニュートの言う通り、一年掛けてレベル30を目指しましょ」

 ルークスとフィオナちゃんが、ニュート様の話に納得したよ。
 これで、意見を変えていないのはトールだけだね。

「チッ、一年もぬるま湯に浸かってたら、テメェら腑抜けちまうンじゃねェのか?」

「ふむ、それは一理ある。適度な緊張感を保つために、活動の範囲を広げるというのはどうだ?」

 ニュート様はトールの疑念に理解を示して、冒険者らしく未知に挑もうと提案した。
 冒険者ギルドの依頼を受けて、街の周辺に生息している魔物を間引きしたり、盗賊退治をしたり、無機物遺跡に挑んだりと、みんなにとっての未知は多い。

「まァ、それなら悪かねェか……。いいぜ、俺様もテメェらの意見に乗ってやるよ」

「よしっ、じゃあ決まり! オレたちは一年掛けて、レベル30を目指しながら、活動の範囲を広げよう!」

 トールが納得したところで、ルークスがそう締め括った。
 私は笑顔でみんなを応援しながら、こっそりと重たい溜息を吐く。
 活動の範囲を広げるのはいいけど、盗賊退治の依頼は受けないでほしい。前世の記憶が邪魔をして、殺人に対する忌避感が強いんだ。

 ……でも、この意見は口に出さない。感情論を無視するのであれば、盗賊退治は推奨出来てしまうからね。
 生死を賭けた対人戦って、否が応でも勃発することがある。そのときに備えて、盗賊退治で対人戦の経験を積むのは、かなり合理的なんだよ。

 冒険者ギルドとしては、むざむざと冒険者を失いたくないから、万全を期して盗賊退治に挑ませる。具体的に言えば、盗賊団に数と質の両方で勝るよう、複数のパーティーに合同依頼を出すらしい。
 そんな訳で、有利な状況で対人戦の経験を積むのに、盗賊退治は打って付けだ。

「そうと決まれば、早速だけど依頼を見に行く? あたし、もう食べ終わったわよ」

 フィオナちゃんは朝食が軽めだったから、誰よりも早く食べ終わって立ち上がった。
 重めの肉料理を沢山注文していたトールは、それらを急いで口に掻き込み、ジョッキに入っているミルクで流し込む。

「──ったりめェだ!! テメェらッ、急げ!! 歯応えのある依頼がなくなっちまう!!」

 トールに急かされて、みんなもすぐに食べ終わり、冒険者ギルドへと向かうことになった。 
 この話し合いに、私って必要なかったね。注文した軽食をモグモグしているだけで、終わっちゃったよ。
 酒場を出たところで、シュヴァインくんがおずおずと、私に話し掛けてくる。

「し、師匠はどうするの……? 依頼、ボクたちと一緒に、行く……?」

「ううん、やめておくよ。私は未知に飢えてないし」

 お店は暇だけど、未知に挑むのは怖い。だから、私はここで別れる。
 みんな、頑張ってね! スラ丸三号の視界を覗き見して、応援するから!


 ──帰宅して、いつものように従魔たちと戯れてから、私はカウンター席で【感覚共有】を使った。
 フィオナちゃんのリュックの中から、スラ丸三号が身体の一部を覗かせる。
 そうして、視界を確保してみると、ルークスたちは冒険者ギルドの建物内にいたよ。

 まだ受ける依頼を決めていないのかな? と思ったけど、様子がおかしい。
 周囲には他の冒険者が五十人以上集まっていて、誰もが神妙な面持ちで、一人の男性の言葉に耳を傾けている。
 その男性は、熊みたいに毛むくじゃらで大柄な人だよ。

「──さて、今回の合同依頼は、大規模な盗賊団の討伐だ。依頼人はライトン侯爵で、報酬は銅級冒険者なら、一人当たり金貨一枚。銀級冒険者なら、一人当たり金貨十枚になる」

 熊みたいな男性の言葉に、冒険者たちは沸き立って、次々と『依頼を受ける!!』と言い出した。トールの声もその中に混じっているよ。
 侯爵様からの依頼というだけあって、破格の報酬みたいだね。
 そんな中、ベテランと思しき冒険者が冷静に質問する。

「ギルドマスター、具体的な敵の戦力を教えてくれ」

「敵は数百人、あるいは千を超える規模だ。近隣の大小全ての盗賊団が集まっている」

 熊みたいな男性は、サウスモニカの街にある冒険者ギルドの纏め役、ギルドマスターと呼ばれる人らしい。
 彼が齎した情報を聞いて、賑やかだった建物内が一気に静まり返る。

 そして、誰かがポツリと、

「な、なんでそんなことに……?」

「原因は、行商人が殆どいなくなったことにある。盗賊にとっての小さな獲物がいなくなっちまったから、力を合わせて大きな獲物でも狩ろうって魂胆だろう」

 コレクタースライムの【収納】を使った物流網。それが、行商人を駆逐してしまったんだ。
 ……まさか、そこから大規模な盗賊団の出現に繋がるなんて、私は思ってもみなかったよ。

「大きな獲物って? まさかとは思うが、この街を狙ったりしないよな?」

「連中もそこまで馬鹿じゃない。狙いはもっと小さな街や村だ」

 大規模な盗賊団とは言え、構成員の大半が有象無象だとか。
 サウスモニカの街には、侯爵家の騎士団が存在しているから、荒らされる心配はなさそうだね。

「大規模な集団戦なら、冒険者じゃなくて騎士団が対応する仕事じゃないのか?」

「今の騎士団には、少しでも人員を温存したい事情がある。近々、裏ボス攻略があるからな」

「冒険者ギルドが動員する予定の人数は? それと、想定されている依頼の拘束期間も教えてくれ」

「銅級が二百人、銀級が五十人、金級が一人だ。六日で全て終わるはずだが、前後しても報酬の増減はない」

 続々と出てくる質問に、ギルドマスターは淀みなく答えていった。
 金級冒険者が参加すると聞かされて、多くの人たちが再び沸き立つ。
 盗賊退治の定石である数の有利は取れていないけど、金級冒険者が参加するなら楽勝かもしれない。
 
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ

雑木林
ファンタジー
 現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。  第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。  この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。  そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。  畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。  斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

3521回目の異世界転生 〜無双人生にも飽き飽きしてきたので目立たぬように生きていきます〜

I.G
ファンタジー
神様と名乗るおじいさんに転生させられること3521回。 レベル、ステータス、その他もろもろ 最強の力を身につけてきた服部隼人いう名の転生者がいた。 彼の役目は異世界の危機を救うこと。 異世界の危機を救っては、また別の異世界へと転生を繰り返す日々を送っていた。 彼はそんな人生で何よりも 人との別れの連続が辛かった。 だから彼は誰とも仲良くならないように、目立たない回復職で、ほそぼそと異世界を救おうと決意する。 しかし、彼は自分の強さを強すぎる が故に、隠しきることができない。 そしてまた、この異世界でも、 服部隼人の強さが人々にばれていく のだった。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

処理中です...