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三章 スライム騒動編

92話 ポーション作り

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 ──光陰矢の如し。私がポーション作りを始めてから、早くも一か月が経過した。
 私は自分のお店の裏庭に、ミスリルの大釜を設置して、ポーションを大量生産することに成功したよ。
 とは言っても、全部が成功した訳じゃない。一先ず、成功したものだけを白紙の本に書いておく。

『ローズの花弁+聖水=赤色の下級ポーション』

 これは軽度の傷を治すポーションで、しばらくは国に納品するものだね。
 最初は普通の水を使っていたけど、試しに聖水を使ってみたら品質が向上したので、このレシピを使うことにしたんだ。

 ローズの【草花生成】と、私の【耕起】を組み合わせた花弁。それを素材にしているから、更に品質が向上している。
 このポーションをヤク爺に調べて貰ったところ、中級ポーションに限りなく近いと言われた。この街どころか、この国で一番素晴らしい下級ポーションだって。

 大釜を使えば、一度で小瓶百本分も生産出来るから、強制依頼の貢献度が面白いように増えていったよ。
 ……まぁ、納品しても現段階では何も貰えないから、褒賞が貰えるまでは素直に喜べないけど。

 ポーションを入れるための小瓶に関しては、硝子工房が国に納品していて、私たちポーション職人に横流しされている。だから、そこで出費が嵩むことはない。
 私の場合、魔力と労力を延々と徴収されているようなものかな。

 当たり前だけど、今後はポーションの素材を商品棚に並べたりしないよ。ポーションにして売った方が、お金になるからね。
 少し前まで、街全体でアルラウネの花弁が品薄だったんだけど、最近になって一気に解消された。だから、私が素材を売らないといけない理由はないんだ。

 どうして一気に品薄が解消されたのかと言うと、商業ギルドが気付いたからだよ。分裂したコレクタースライム同士の【収納】が、繋がっているということに。
 そこからの動きは早かった。今までの物流の概念が壊されて、アクアヘイム王国の南部でアルラウネの花弁が足りなくなっても、東、西、北から余った分がすぐに流れてくる。

 この国の東部は穀倉地帯で、西部は果物が沢山取れる土地、南部は鉱石の産地。
 これらの特産品が一瞬で、安全に、しかも費用を大幅に削減した状態で東西南北へと流れるので、アクアヘイム王国全体が日に日に活性化している。

 サウスモニカの街でも、色々なものがどんどん安くなって、高級品だった果物が手頃な価格で食べられるようになった。
 穀物だって、穀倉地帯の東部で買うのと殆ど変わらない値段になったから、市民たちは大喜びしているよ。

 ……あ、そうそう。コレクタースライムと言えば、ゲートスライムに進化させるための条件。その情報を誰に伝えようか悩んでいたけど、私はバリィさんに託したんだ。
 ほら、第二王子の護衛中だって言っていたし、彼の口から王族の方に話してくれたら、それが一番確実かなって。

「──っと、いけない。思考が脱線しちゃった」

 私は改めて、大量生産に成功したものを書き留める。

『イエローリリー+水=麻酔薬』

『ピンクリリー+水=睡眠薬』

『パープルリリー+水=毒薬』

 これら三つは聖水を使うと、品質が下がってしまったから、普通の水を使った。
 多分だけど、聖水を使って品質が上がるのは、身体に良い薬効のものだけだね。
 全ての薬は、花弁をそのまま食べたときより、二倍くらい効き目が良くなっている。

 麻酔薬は痛み止め、睡眠薬は不眠用に、ぼちぼち売れ始めた。商品棚に新しいものを並べると、店主として誇らしい気分になるよ。
 毒薬は危ないから、商品棚には並べていない。けど、ルークスにはプレゼントしておいた。毒薬があれば、暗殺者としての強さに磨きが掛かるからね。

『グリーンリリー+聖水=緑色の下級ポーション』

 緑色は状態異常を回復させるポーション。品質は並みだけど、私が作った毒薬の効果を打ち消してくれるから、これもルークスに持たせてある。事故がないとも限らないからね。
 ポーションは何色であっても、強制依頼の納品物になる。でも、赤色の方が貢献度を稼げるから、緑色は仲間内で使う分しか用意していない。

「ここまでが、成功したものなんだけど……一番期待していたコレが、上手くいかないんだよね……」

 私はそうぼやいて、ドラゴンローズの花弁を手に取った。
 この素材を使ってポーションを作ろうとしても、悉く失敗するんだ。
 千切ったり乾燥させたり磨り潰したり、どんな状態で水に入れても、水が急速に熱くなって蒸発してしまう。

 普通のポーション作りは薪を燃やして、大釜の底から熱を入れるんだけど、ドラゴンローズの花弁を素材にするときは、雪を使って冷やしてみた。
 それでも熱くなる方が早くて、やっぱり蒸発するから、もうお手上げだよ。

「にゃあ……? ご主人、元気がにゃいね。どしたの?」

「うーん……。良い案が思い浮かばなくて……」

 庭に作った小さな菜園。そこの水遣りをしていたミケが、私を心配して隣にやって来た。
 街で買える野菜とか果物が安くなったから、家庭菜園の必要性は薄れたけど……【耕起】を活用したくて、用意したんだ。

「みゃーも一緒に考えるから、元気を出すのにゃ」

「そう? それじゃあ、お言葉に甘えて──」

 私はドラゴンローズの花弁のことで、完全に行き詰っている現状を説明して、ミケに解決案を出して貰う。

「にゃるほどー。それって、減った傍から水を足すのは、駄目にゃの?」

「それをやったら、最終的に残るのがただの水なんだよね。多分、大事な成分が水蒸気と一緒に飛んじゃうんだと思う」

「にゃあ……。氷水を使うとか……?」

「熱を吸収しきれなくて、すぐに溶けて蒸発しちゃったよ」

 氷に塩を掛けて溶かすと、周りの熱が奪われるようになるんだけど、それも駄目だった。
 ここまでくると、ドラゴンローズの花弁を水と組み合わせるのは、無理があるんじゃないかと思えてくる。
 もう諦めようかな……と思っていると、

「氷の魔石を入れてみるのは、どうかにゃあ……? あれはひんやりしているけど、溶けたりしにゃいよ?」

 ミケの口から光る意見が出てきた。魔石を使うって発想、私にはなかったよ。
 砕いて粉末にするか、そのまま投入するか、どうしようか……。
 とりあえず、ルークスたちがスノウベアー狩りに勤しんでいるから、氷の魔石を幾つか売って貰おう。

 早速、ステホでルークスに連絡を取ってみる。

『──もしもし、アーシャ? どうかした?』

「実は、スノウベアーの魔石を売って欲しいの。大丈夫かな?」

『全然いいよ。スラ丸の中に入っているから、好きなだけ持っていって』

「ありがとう! みんなにもお礼、言っておいて!」

 私は早速、スラ丸の中からスノウベアーの魔石を取り出した。
 黎明の牙に派遣中のスラ丸三号には、代金を吐き出すよう伝えておく。

 ──さて、まずは魔石をそのまま、ミスリルの大釜に投入。
 次に聖水を入れて、最後に乾燥させた粉末状のドラゴンローズの花弁を入れていくよ。慎重に、ゆっくり、ゆーーーっくりとね。

 そうして掻き混ぜていると、急速に沸騰し始めた。でも、今回はいつもと違う。
 魔石が冷気を放ち、水が加熱されるのを抑制したんだ。
 普通の冷気じゃなくて、魔力そのものみたいな冷気だから、効果があるのかもしれない。

 細かい作用なんて分からないけど、上手くいくならそれでいいよね。
 スノウベアーの魔石、一個だと足りなさそうだから、もう一個追加しよう。

 ──しばらくして、魔石は力尽きたのか、色と輝きを失ってしまった。
 しかし、役目はきちんと果たしたみたいで、液体が気化することなく残っている。

「にゃにゃっ!? 遂に上手くいったのかにゃあ!?」

「どんな薬効があるのか、分からないけど……液体は残ったね」

 ドラゴンローズの花弁、一枚分の粉末を全て混ぜ込んだ液体。それが大釜の中に溜まっているよ。 
 その液体は、燃える炎のような橙色の輝きを放っていた。
 下級ポーションではあり得ない輝きだけど、赤でも青でも緑でもなく、橙色というのが謎だ。

 ステホで撮影してみると、これまた名称『未登録』の代物だった。
 一応、アルラウネの花弁から派生した素材で作った訳だし、赤色のポーションに近いものだとは思うんだけど……。

「にゃんだか、飲んだらお腹が焼けちゃいそうにゃ……。これ、誰が試飲するのかにゃあ……?」

「私は嫌だよ。ミケ、ここは男気を見せる場面じゃない?」

「にゃあっ!? い、嫌にゃ!! みゃーが死んじゃったらどうするのぉ!?」

 死ぬなんてそんな、大袈裟な……って、笑い飛ばせればよかったんだけど、ドラゴンが絡んでいる代物だし、ちょっと笑えない。
 あの魔物、肉体がなくなって魔石だけになっても、生きていたからね。常識では測れない存在なんだ。

「仕方ないから、またヤク爺に依頼して、薬効を調べて貰おうかな」

「ヤク爺のお墓、立てておくのにゃ」

 この後、私はヤク爺のところに橙色のポーションを持ち込んで、『ダンジョン産の未知のポーションです』と嘘を吐き、薬効を調べて欲しいという依頼を出した。

 結果が分かるのは、数日後になる。
 
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