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三章 スライム騒動編
87話 レベル20
しおりを挟むルークス 暗殺者(20)
スキル 【鎧通し】【潜伏】【加速】
トール 戦士(20)
スキル 【鬨の声】【剛力】【強打】
シュヴァイン 騎士(20)
スキル 【低燃費】【挑発】【炎熱耐性】【堅牢】
──さて、みんなのレベルが20になったから、取得した新しいスキルを一つずつ確認していこう。
ルークスの【加速】は、瞬間的に自分自身が素早く動けるスキルだよ。
通常時の二倍くらいまで素早くなるけど、連発しているとすぐに体力がなくなるから、注意が必要らしい。
私は以前、ランサーモスキートという大きな蚊の魔物が、このスキルを使っていたことを覚えている。
シンプルかつ強力なスキルだから、大当たりって言えるんじゃないかな。
トールの【強打】は、通常の二倍くらいの威力で敵を殴打するスキルだよ。
人間にとっても、魔物にとっても、かなりメジャーな攻撃系のスキルらしい。
セイウチソードで有効活用出来ないのが残念だけど、全然悪くないと思う。
シュヴァインくんの【堅牢】は、防御力を二倍にする常時発動型のスキルで、騎士に必要不可欠だと言われている。
常に能力を上げてくれるスキルは、リソースを消耗することもないし、総じて大当たりだね。
確認が終わった後、新スキル込みでスノウベアーと戦ってみたけど、かなり余裕で倒せるようになっていた。
「オイオイ、歯応えがなくなっちまったなァ!! もうここじゃ物足りねェぞ!!」
「あたしが暇になるって、最初の頃が懐かしいわねー」
スノウベアーの頭部を鈍器で粉砕したトールが、喜び混じりの不満を露わにした。その後ろで、フィオナちゃんはスラ丸をぷにぷにして、戦場とは思えないほどリラックスしているよ。
今ならみんな、スノウベアーと一対一で戦って、勝てるんじゃないかな。無論、私を除いて。
シュヴァインくんだけは時間が掛かりそうだけど、持久戦の末に勝てるはず……。スノウベアーの攻撃なら、全部受け止められるようになったからね。
これでもう、第三階層で恐れるものは何もない。そう思っていたところで、ティラが流氷の進行方向を見据えて、唸り声を上げ始めた。
これは『警戒して!』という合図だけど、スノウベアーの存在を感知したときよりも、緊迫している。
前方にあるのは、雪が降り積もっている氷の孤島。第三階層のスタート地点じゃなくて、幾つか点在している内の一つだよ。
「ルークス、あの孤島に何か見える? ティラが凄く警戒しているんだけど……」
「んー……。いや、特に何も見えないよ」
私が問い掛けると、ルークスは首を横に振った。
この中で一番目が良いのはルークスだから、彼が何も発見出来ないなら、他のみんなも同じだね。
ティラの勘違いだとは考え難いから、スノウベアーよりも強い魔物、あるいは人間が隠れているのかもしれない。
「隠れてンなら探して殺ろうぜッ!! スノウベアーよりも歯応えのある敵なら、大歓迎じゃねェか!!」
「番犬、それは軽率だ。今はアーシャがいることを忘れるな」
トールは未知の脅威に挑む気満々で、ニュート様は慎重になるべきだと諭した。
今は護衛対象の私がいるから、それを忘れないで貰いたい。
「あたしはむしろ、アーシャがいる今こそチャンスだと思うわよ? ティラが敵の居場所を感知しているみたいだし」
フィオナちゃんはトール寄りの意見で、シュヴァインくんは静観している。
私は勿論、挑みたくない。……けど、ここで見て見ぬ振りをすると、ティラの索敵能力がない状態で、後日みんなが未知の脅威に襲われるかもしれない。
だから──
「みんなさえよければ、ティラが警戒している脅威を確かめに行かない? ティラの様子を見た感じ、手も足も出ないってことはないと思うから」
「っしゃァ!! そうこなくっちゃなァ!!」
「アーシャがそう言うのであれば、反対はしない。正直に言えば、ワタシも挑んでみたかった」
トールが凶悪な笑みを浮かべながら気炎を揚げて、ニュート様は静かに闘志を燃やした。
ルークスが気遣うような目を私に向けてきたけど、『大丈夫だよ』ってアイコンタクトを送る。
「──うん、分かった。それじゃあ、上陸しよう!」
ルークスの号令で、男の子たちがスラ丸の中から、雪掻き道具を取り出した。
そして、上陸と同時にせっせと雪掻きを行い、ティラの誘導に従って道を作っていく。
積雪は五十センチくらいあるけど、スラ丸が重機みたいな活躍をしてくれるから、かなり簡単に進めるよ。
こうして、辿り着いた先で、私たちは雪に覆われた巨大な氷塊を発見した。
大きさが二十メートルくらいあるから、この先へ進むなら迂回するか、フィオナちゃんに溶かして貰うしかない。
「ワンワン!! ワンワン!!」
「え、あれ……? ティラ、この氷を警戒しているの……?」
私が問い掛けると、ティラは何度も首を縦に振った。
大きいけど、ただの氷塊。そんなものを警戒する意味が分からない。
「無機物遺跡のゴーレムみたいな魔物……? みんな、ちょっと下がってて」
ルークスがみんなを下がらせて、自分一人で調査を始めた。何かあっても、彼一人ならすぐに距離を取れるからね。
──調査の結果、なんと氷塊の中に、一匹のマンモスが閉じ込められていると判明した。体長が十五メートルをやや超えるくらいで、長い牙と鼻を持つ象に似た魔物だよ。
普通なら、こんな氷漬けの状態で、マンモスが生きている訳がない。
でも、私はこのマンモスが生きていると、確信を持ってしまった。……だって、氷塊の中にはマンモスと一緒に、銀色の宝箱が入っているんだもの。
これってさ、宝箱が欲しければマンモスと戦えっていう、分かりやすいイベントだよね?
「オイっ、フィオナ!! さっさとこの氷を溶かしやがれッ!! マンモスをブッ殺して宝を手に入れンぞ!!」
「ええっ、任せて!! これであたしたち、間違いなく大金持ちよ!!」
興奮したトールが鈍器を振り被り、フィオナちゃんが魔力を漲らせた。
通説によれば、銀色の宝箱には無価値なものなんて、一つも入っていないらしい。これは一攫千金の大きなチャンスだ。
我を忘れるのも無理はない状況で、ニュート様が冷静に二人を制止する。
「待て、相談もなく勝手に決めるな。ルークス、どうする? 戦うのか?」
「マンモスって、第四階層だと群れている魔物だよね。ここには一匹しかいないし、試しに戦ってみたいな」
「ならば、まずは情報収集からだ。各々、ステホで奴のスキルを確認しろ」
ニュート様に促されて、みんながステホでマンモスを撮影した。
あの魔物のスキルは、【強打】【牙突】【氷雨】【氷乱柱】の四つ。
【強打】と【牙突】は存知のスキルだね。
【氷雨】は雹でも降らせるのかと思ったけど、詳細を確認してみると、超低温の液体を降らせるスキルだった。
液体窒素の雨が降ってくると思えばいいかな……。恐ろし過ぎる。
【氷乱柱】はニュート様の新スキルと同じに見えたけど、一文字違いだった。彼が取得したのは、【氷乱針】だからね。
マンモスが使えるのは、自分の足元を中心に、放射状に氷の柱を乱立させるスキルだよ。
対応し難い上下からの魔法攻撃と、強靭な巨躯から繰り出される二種類の物理攻撃。それらを使って暴れる魔物、それがマンモスなんだ。
「うーん……。とりあえず、私たちに有利な戦場を作ってみる……?」
「戦場を作る……? アーシャ、何をするつもりなのよ?」
「えっと、上下左右に【土壁】を出して、前後は開ける。この形の箱モドキを周辺に幾つも作っておけば、【氷雨】か【氷乱柱】を使われたときに、サッと逃げ込めるでしょ?」
フィオナちゃんの質問に答えながら、私は次々と箱モドキを作っていく。一つ一つが、全員で入れるくらいの大きさだよ。
パワーレベリングのおかげで、土の魔法使いのレベルが8まで上がっているから、とてもスムーズに作業を熟せた。
「ほぅ、アーシャは機転が利くな……。確かにこれなら、足元と上空からの攻撃に対応出来る」
そうでしょう、そうでしょう。準パーティーメンバー、役に立つでしょう。
私が得意げになり、ニュート様が感心している横で、シュヴァインくんがフィオナちゃんに意見を出す。
「ふぃ、フィオナちゃん……!! 【火炎槍】で、氷塊ごとマンモスを貫けたり、しない……?」
「貫けるかもしれないけど、それでいいの? あたしたちが第四階層へ挑めるかどうか、その試金石にするなら、真っ向勝負がいいわよね?」
ここでもまた、意見が割れてしまった。
トール、フィオナちゃん、ニュート様が真っ向勝負派。
私、ルークス、シュヴァインくん、スラ丸×2、ティラが不意打ち派だよ。
「じゃあ、多数決で不意打ちということで」
どう考えても、まずは不意打ちが通用するか、それを確かめるべきだと思う。
私がそう纏めると、トールが噛み付いてきた。
「待てコラ!! 痴れっと従魔まで決に入れてンじゃねェ!!」
「スラ丸とティラだって立派な仲間なんだから、入れない方がおかしいよ。仲間外れは可哀そうでしょ」
従魔たちは私に意見を合わせてくれるから、この場では私が四票も持っていることになるんだけど、細かいことは気にしない。
私がトールを丸め込んだ後、マンモスの周辺で動きやすい空間を確保するべく、みんなは自発的に雪掻きを行ってくれた。
箱モドキの設置も終わらせたところで、フィオナちゃんの先制攻撃が始まる。
彼女が片腕を掲げると、頭上で轟々と燃え盛る炎が凝縮されて、一本の槍が形成された。
「さぁ、行くわよッ!! そーーーれッ!!」
実際に槍を握っている訳じゃないけど、堂に入った投擲フォームを披露するフィオナちゃん。
彼女の掛け声と共に放たれた【火炎槍】は、凄まじい速度で真っ直ぐ飛んでいく。
そして、緋色の軌跡を描きながら氷塊を貫き、マンモスの左目に命中した。
氷塊が溶けて水となり、あっという間に水蒸気へと変わったので、視界が遮られてしまう。
あわよくば、これで倒せていると嬉しいんだけど──
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