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三章 スライム騒動編

86話 パーティー名

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 ゴマちゃんはスラ丸の【転移門】を使って、私のお店に直送した。
 門の向こう側にいるミケに、ゴマちゃんを手渡すと、彼はカッと目を見開いて戦慄する。

「にゃにゃっ!? こ、こいつぅ!! みゃーの強力なライバルだにゃあ!!」

「なんでライバル視……? ゴマちゃんとは仲良くしなきゃ駄目だよ」

「ご主人を癒すのはみゃーの役目にゃ!! フシャーーーッ!!」

 ミケはすっかりと、ゴマちゃんを敵視してしまった。これにはゴマちゃんも困り顔だよ。
 ここで、ローズがミケの頭を叩いて、ゴマちゃんを優しく引き取ってくれた。

「ゴマちゃんのことは妾に任せよ。ミケの調教もしておくのじゃ」

「うん、ありがとう。よろしくね」

 ローズに任せておけば安心かな。私は彼女に感謝してから、スラ丸の【転移門】を閉じた。
 この後、ペンギンと子供アザラシの襲撃を受けたけど、みんなは呆気なく一掃したよ。
 ゴマちゃんを仲間にした直後だったから、子供アザラシと戦うのは苦しかった。

 そんなこんなで、私たちは無事に第二階層へと到着。
 この階層の天候は、どんよりと曇っている。景色を楽しむような観光気分が消えて、私は気持ちを引き締めた。
 第一階層の魔物なんて、小動物だから全然怖くなかったけど、第二階層で出現する大人アザラシとセイウチは、普通に怖い。

 大人アザラシは、【吹雪】と【氷塊弾】を使って戦う後衛タイプ。
 セイウチは、【牙突】と【水壁】を使って戦う前衛タイプ。
 どちらも容易く、新米冒険者を屠れるだけの強さを持っている。

 私たちが流氷に乗って、先へ進むこと数分──

「アーシャ、セイウチの突進を【土壁】で受け止められるか、試して貰ってもいい?」

「わ、分かった! やってみる!」

 セイウチの群れが流氷に乗り込んできたとき、私はルークスにお願いされて、突進してくる奴らの前に【土壁】を出した。
 スキル【牙突】は、通常の二倍くらいの威力がある刺突攻撃だ。
 セイウチはそのスキルと長い牙を使って、【土壁】に激突したけど──無傷。
 微動だにしていないし、流石はみんなの壁師匠だね。

「ワタシの【氷壁】より、遥かに硬いな……。これなら、スノウベアーの攻撃も受け止められそうだ」

 ニュート様は私のスキルに感心しながら頷き、【氷乱針】を使ってセイウチたちを一掃する。
 扇状に広がった氷の針の絨毯が、セイウチの下腹部に突き刺さって、そのまま氷結させちゃったよ。……つ、強すぎるかも。
 セイウチは身体が重たくて、跳躍することが出来ないので、回避する素振りすら見せなかった。

「ニュートの新スキル、ちょっと強くて生意気ね! 魔法攻撃の主役はあたしなのに!」

「フン……。今まではフィオナに、活躍の機会を譲ることが多かった。しかし、今後はそうはいかないぞ」

「へぇ、宣戦布告ってことね……!? いいわっ、上等じゃない!! このパーティー最強の魔法使いの座は、絶対に譲らないんだからっ!!」

 フィオナちゃんとニュート様が、お互いを好敵手と認め合って、宣戦布告を交わした。
 競い合う相手がいると、実力ってどんどん伸びるものだよね。
 私も魔法使いだけど、攻撃魔法が使えないから、二人と同じ土俵には上がれない。

「ちょっとだけ、羨ましいなぁ……」

 私がそう呟いて、フィオナちゃんとニュート様に羨望の眼差しを向けていると、トールが二人に噛み付いた。

「オイっ、テメェらに魔法をバンバン撃たれたら、俺様が活躍出来ねェだろォが!! せめて俺様のレベルが20になるまで、引っ込ンでろや!!」

「トールってば、それが人に物を頼む態度なの? そんなに喧嘩腰だと、今まで以上に魔法を使いたくなっちゃうわよ?」

「ワタシもフィオナと同意見だ。番犬、そろそろ場を丸く収めるための物言いを覚えろ。今は仲間内のやり取りだから構わないが、部外者を前にしてもそんな調子だと、余計な諍いを生むぞ」

 フィオナちゃんとニュート様が、二人揃って文句を言いながら、トールにジトっとした目を向けた。
 トールは反省することなく、むしろ逆切れしそうになったけど、その前にルークスが割って入る。

「トールだけじゃなくて、オレとシュヴァインのレベルも20にしたいんだ。だから、フィオナとニュートは少し手加減して! お願いっ!」

 ルークスが手を合わせて頭を下げたことで、フィオナちゃんとニュート様は毒気を抜かれて、すんなりと引き下がった。
 ルークスは仲間とのこういうやり取りも楽しいのか、いつもニコニコして場の空気を弛緩させてくれる。やっぱり、このパーティーを纏められるのは、彼しかいないね。

 話が付いたところで、シュヴァインくんがおずおずと手を挙げる。

「あ、あのさ、ここから先は、敵に先手を譲って、師匠の【土壁】で防いで貰ってから、攻勢に移る……よね? ボクたちの今日の目的、師匠のレベル上げだから……」 

「そうだね、それがいいと思う。アーシャは大丈夫そう?」

「うんっ、勿論! スノウベアーの攻撃も、きちんと受け止めてみせるから!」

 ルークスが私に確認を取って、このパーティーの戦い方が決まった。

「そ、それなら、ボクは【挑発】を控えて、体当たりしてみる……!!」

 シュヴァインくんは珍しく、アタッカーとして参加するみたい。やる気があっていいね。
 この後、私たちは戦闘を繰り返して──第二階層を抜ける頃には、土の魔法使いのレベルが8になっていたよ。
 レベル10までは上がりやすいんだけど、それにしても早い。パワーレベリングの凄さを思い知らされる。

 そしていよいよ、私たちは第三階層に到着した。
 空を覆う鉛色の雲から、冷たい粉雪が降ってくる環境だけど、ここでも私とフィオナちゃんは寒さを感じない。

 男の子たちは少し寒そうだけど、スノウベアーの毛皮を使った防寒具に装備を更新しているから、大きな問題はなさそう。こっちはマジックアイテムじゃなくて、普通の装備だよ。
 最初期に私が買ってあげた中古の防寒具は、もう用済みだから、下取りに出していた。また別の新米冒険者が、使うんだと思う。

 第三階層では、流氷の上の雪掻きという一手間が必要になる。この苦労を分かち合ってから、私たちは探索を開始したよ。
 たまに大雪が降って、視界が悪くなる。そういうときは高確率で、スノウベアーが襲撃してきたけど、私たちにはティラがいるから、不意を突かれる心配はない。

 ティラにはスキル【気配感知】があるからね。
 スノウベアーの攻撃は私が難なく【土壁】で受け止めて、トールとシュヴァインくんが挟撃する。
 隙を見て背後に忍び寄ったルークスが、着実にダメージを与えて、三分も掛からずに一匹を始末出来た。

 攻撃魔法がなくても楽勝だから、みんながレベル20になったら、スノウベアーじゃ物足りなくなりそう。かと言って、マンモスの群れは絶対にまだ早い。

「ふぅ……。アーシャとティラのおかげで、一気に安定感が増したよ。レベル上げの手伝いって話だったけど、普通に肩を並べて戦えるね」

「いやぁ、そう言って貰えると嬉しいなぁ……」

 ルークスの素直な感想を聞いて、私の頬がニマニマと緩む。
 ここで、フィオナちゃんが私に抱き着いて、本格的に勧誘してきた。

「ねぇっ、アーシャ! あんた、このまま冒険者を本業にしなさいよ! あたしたちなら、どこまでも高みを目指せるわ!」

「うーん……。たまに冒険するのは楽しいんだけど、これが日常になるのは性に合わないかも……」

「むーーーっ!! じゃあ、たまにならいいのよね!? 準パーティーメンバーってことにするわよ!?」

「何も責任を負わない立場なら、全然いいよ」

 でも、そんな中途半端な立場、他のみんなは許してくれるのかな?
 そう疑問に思って周りを見回すと、誰も不満を抱いている様子はなかった。
 こうして、私は満場一致で、準パーティーメンバーという扱いになったよ。
 このタイミングで、ニュート様が何かを思い付いて、ルークスに話し掛ける。

「ルークス、折角だからアーシャに、あの件を任せてみるのはどうだ?」

「あの件って……あっ、パーティー名のこと?」

「そうだ。全員の意見がバラバラで、このままではいつまで経っても、決まらないだろう」

「確かに……。アーシャ、オレたちのパーティーの名前、決めて貰ってもいい?」

 銀級冒険者以上の固定パーティーは、名前を決める必要があるらしい。
 ルークスたちは、その名付けに難航しているんだって。

「な、なんで私が……? ネーミングセンスには自信があるけど、そんな大事なこと、みんなで話し合って決めた方がいいよ」

「それがね、トールとフィオナがお互いの案をぶつけ合って、一歩も引かないんだ」

「えぇ……。聞くのが怖いけど、二人が考えたパーティー名って……?」

 私が尋ねると、トールが自慢げに『天下無双の最強英雄軍団!!』という、男の子らしい案を発表したよ。
 そして、フィオナちゃんが挙げた案は、『ペンギン大好きクラブ』だった。
 私の感性からすると、トールの案は論外。フィオナちゃんの案は……他のみんなが、ペンギン大好きって訳じゃないから、ちょっと微妙かな。

「ほらっ、アーシャ! トールに言ってやりなさい!! あんたのネーミングセンスは酷過ぎるって!!」

「チッ、ざけンじゃねェ!! テメェのネーミングセンスの方が酷いだろォがッ!! ンな浮ついたパーティー名じゃ、有象無象に舐められちまう!!」

 トールの意見を聞いて、私は少しだけ納得しちゃった。
 荒事に関わることが多い冒険者のパーティーなんだから、名前で侮られるのはよくないよね。
 可愛い系の名前はなしにしよう。……ただ、トールの案みたいに尖り過ぎると、絡み難い印象を与えてしまう。
 横の繋がりって大切だと思うから、もっとシンプルで憶えやすい名前にしたい。

「うーーーん……。黎明、なんてどうかな?」

 熟考の末に、私が出した案。それを聞いて、ルークスが小首を傾げる。

「れいめい……? 綺麗な響きだけど、どういう意味?」

「夜明けっていう意味だよ。私たち、みんな孤児でしょ? 最初はお先真っ暗だったけど、みんなで力を合わせて未来が明るくなったから、黎明」

「「「おおー……っ!!」」」

 ルークス、シュヴァインくん、フィオナちゃんの三人からは、好感触を得られた。賛成っぽいね。

「ワタシが孤児になったのは最近で、最初からお先真っ暗だった訳ではないが……。ふむ、悪くない。名前の響きにも品がある。賛成させて貰おう」

 ニュート様も賛成してくれたから、私は最後にトールを見遣る。
 彼は感心しながら頷いているけど、やや物足りないと言いたげに、首を捻っていた。

「まァ、俺様も概ね賛成だが……一つ付け足して、強く見せてェな。『黎明の牙』──これでどうだ?」

「それいいね! 格好いいと思う! オレは賛成!」

「ぼ、ボクも、いいと思う……!! 賛成……!!」

「品格は多少落ちるが、冒険者らしいな。悪くない」

 男の子たちの意見は、『黎明の牙』で纏まったよ。
 私はフィオナちゃんと顔を見合わせて、大丈夫だよねって頷き合う。

「それじゃあ、これで決まり!! みんなっ、改めてよろしく!!」

 ルークスがそう締め括って、私たちの団結力はより強固なものになった。

 この後、スノウベアーを狩りまくって、みんなは次々とレベル20に到達したよ。
 
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