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二章 子供たちの冒険編
58話 戦利品
しおりを挟むガルムさんたちに付着した毒霧は、スラ丸が【浄化】を使って綺麗にしてくれた。なんだかんだで、この子も大活躍しているよね。
スラ丸とティラとブロ丸、今回のMVPはどの子かな?
私はみんなの働きを評価しながら、地下室の出入り口を塞いでいた【土壁】を消した。
すると、スラ丸が一目散に、私の胸に飛び込んできたよ。
その後ろから、ガルムさんたちが雪崩れ込んできて、スイミィ様の安否を確認する。
「お嬢様っ、ご無事ですか!?」
「……ガルム、おひさ」
「……ご無事、みたいですね」
ガルムさんはスイミィ様の無事を確認して、ホッと胸を撫で下ろした。
そして、イビルスネークの死体を見て驚き、私と目を合わせて更に驚く。
「ガルムさん、私も助かりました。心から感謝します」
「あ、ああ……。まさか、おチビちゃんまで捕まっていたとは……。外にいるチビっ子たちの仲間は、おチビちゃんだったのか」
「そうです。それと、こっちの彼、シュヴァインくんも」
私がシュヴァインくんを前に出すと、彼はガチガチに緊張しながら直立して、直角に腰を折り曲げた。
「あ、ありがとうございました……!!」
「お嬢様のついでに助けたようなもんだから、あんま気にしないでくれ。それより、そこのイビルスネークは……まさか、おチビちゃんと坊主が倒してくれたのか……?」
「はいっ、そうです! 頑張りました!」
私はガルムさんの質問に、胸を張って即答したよ。……けど、【土壁】で自分たちを囲えば、回避出来る戦闘だったことは、内緒にしておく。
無駄にスイミィ様を危険に晒したって、責められるかもしれないからね。
そんな私の内心なんて露知らず、ガルムさんは私たちを褒めてくれた。
「よくやってくれた。どうやら感謝しないといけないのは、俺たちの方らしい。入り口に出していた【土壁】も、おチビちゃんかそっちの坊主の仕業なんだろう?」
「そうです。ああしておけば、私たちが人質として引っ張り出されることは、ないと思いまして」
「そいつは英断だったな。おかげでお嬢様も無事だったし、これは褒賞が出るかもしれん」
褒賞という言葉を聞いて、思わず頬が緩んでしまう。
別にお礼が欲しくて行動していた訳じゃないけど、貰えるものは貰いますとも。
お貴族様からのご褒美なんて、物凄く期待しちゃうよ。
今回の一件で権力者に恩を売れたはずだし、前途洋々だね。
これを利用して成り上がってやる! みたいなことは全く考えてないけど、今後何かあったときに、少しくらい便宜を図って貰えるかも。
「そういえば、毒は大丈夫ですか? ガルムさんたち、毒霧に飛び込みましたよね?」
「鍛えているから、あの程度は問題ない。そろそろ外に出るぞ。お前さんらの仲間が、随分と心配しているからな」
ガルムさんに急かされて、私たちは宿屋の外に出た。
そこでルークスたちと合流して、お互いの無事を喜び合う。
「アーシャ!! ごめんっ、オレ……っ、守れなくて……!! そうだっ、怪我は!?」
ルークスが泣きそうな顔をしながら、私の身体をぺたぺたと触って、怪我の有無を確かめる。
くすぐったくて笑いそうになりながら、私は彼の頭を撫でた。
「大丈夫だよ。ルークスこそ、怪我はもうなんともないの?」
「オレも大丈夫! アーシャのスキルの──もがっ」
周りに騎士団の人たちがいるのに、ルークスが私のスキルに関することを喋ろうとした。
そこで間髪を入れずに、トールがルークスの口を塞いでくれたよ。
「テメェっ、馬鹿がッ!! 余計なこと喋ンじゃねェよ……ッ!!」
「あっ、ご、ごめん……」
私たちはすぐに周りを見回したけど、今の会話を気にしている人はいなかった。
騎士団の人たちは怪我人の手当てをしたり、遺体を片付けたり、気を失っているセバスを連行したりと、忙しそうにしている。
ちょっと冷や汗が垂れる一幕だったね……。そんな私たちの横では、フィオナちゃんとシュヴァインくんが、熱い抱擁を交わしていた。
「シュヴァインっ!! あたしのシュヴァインっ!! 無事で良かったわ!!」
「ふぃ、フィオナちゃんこそ、無事で何よりだよ……!!」
困難を乗り越えたヒーローと、彼の帰りを待っていたヒロイン。
この二人の様子を見ていると、背景にそんな配役が見えてくる。
普段であれば、私の独身アラサーの魂が悲鳴を上げる光景だけど、今だけは寛大な心で見守ることが出来た。
シュヴァインくん、頑張ってくれたからね。
めでたしめでたしで、彼の物語のエピローグを締め括ってあげよう。
「……あ、スラ丸。そういえば、セバスから何か盗んでたよね?」
「!!」
スラ丸は『よくぞ聞いてくれました!!』と言わんばかりに飛び跳ねて、五つのマジックアイテムを私に見せてくれた。
腕輪が一つと、指輪が四つだね。早速だけど、ステホで撮影してみる。
逆巻く嵐を内包しているような、黄緑色の宝石が嵌められた腕輪。
このアイテムの名前は『吹き荒れる追撃の腕輪』で、その効果はスキル【竜巻】を使ったときに、発生する竜巻の数が一つ増えるというもの。
消耗する魔力は変化しないから、強力なマジックアイテムだね。
小さなつむじ風を内包しているような、黄緑色の宝石が嵌められた指輪。
これらは全て、アイテムの名前が『吹き荒れる効率の指輪』だった。
腕輪の方に嵌っている宝石は大粒だけど、こっちは小粒だね。これらの宝石って、風の魔石なのかな。
四つの指輪の名前は同じだけど、半々で効果が違う。
二つはスキル【竜巻】の魔力消耗量が半減するという効果で、もう二つはスキル【突風】の魔力消耗量が半減するという効果だよ。
どれも攻撃系のスキルを強化する代物だから、私には無用の長物だった。
【他力本願】のデメリットで、攻撃系のスキルは取得出来ないんだ。
今はお金に困っていないから、これらのマジックアイテムは隠し財産として、スラ丸の中に仕舞っておこう。
……あれ? セバスから盗んだものって、私の所有物にしていいの? ガルムさんに聞いた方がいいかも。
「──と、そんな訳で、これはどうしたらいいですか?」
「おチビちゃんの好きにして構わんぞ。従魔の戦利品は、主人である魔物使いのものだ」
換金すれば一財産になるのに、あっさりと許可してくれたよ。
スラ丸と共闘していたニュート様にも、貰う権利はあると思うんだけど、文句を言い出す気配はない。
「それじゃあ、お言葉に甘えさせて貰います。これで、一件落着ですね」
「ああ……いや、何かを忘れている気が……」
喉に魚の小骨でも刺さっているような表情で、ガルムさんが首を捻った。
ようやく帰れるかと思ったけど、そう言われると帰り難い。
ここで、スイミィ様と再会の喜びを分かち合っていたニュート様が、ハッとして言葉を挟んでくる。
「ワタシが持ってきたドラゴンの魔石を回収していない。ガルム、悪いが探してくれ」
「ああっ! そうでした、それがあった!」
ガルムさんが忘れていたのは、ドラゴンの魔石のことだったみたい。
彼の号令の下、すぐに騎士団員たちが捜索を開始した。
騎士団は人材豊富で、【光球】を使える人もいたから、周囲がどんどん明るくなる。これなら、あっという間に見つかりそうだけど──残念ながら、中々見つからない。
ええっと、あの魔石はニュート様の手から、ピエールの手に渡った後、どうなったんだっけ……?
記憶を思い返すと、ピエールがガルムさんに襲われて、魔石を地面に落とした光景が蘇る。
そこから乱戦が始まって、みんなが色々なスキルを使っていたから、どこかに飛ばされちゃったのかな。
「ブロ丸、手伝って。空から探してみよう」
私はブロ丸に飛んで貰って、【感覚共有】を使いながら魔石の捜索を始めた。
そして、一分もしない内に──ゾワリと、肌が粟立つ光景を目撃してしまう。
入り組んだ裏路地で、一匹のマンティスが白い布袋を咥えていた。
それは、中にドラゴンの魔石が入っている布袋だ。
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