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二章 子供たちの冒険編
55話 ドラゴンの魔石
しおりを挟む私は宿屋の地下室から脱出する方法を考えながら、【感覚共有】でスラ丸とブロ丸の視点を見せて貰った。
あの子たちはセバスに吹き飛ばされたけど、無事みたいで一安心。今はルークスたちと一緒にいるよ。
ルークス、トール、フィオナちゃんの三人は既に完治していた。毒の影響も残っていないみたいだから、これもまた一安心。
「アーシャとシュヴァインが連れ去られた……!! それに、あの子も……っ、探さないと!!」
「クソがッ!! あの野郎ッ!! 必ずブッ殺してやるッッッ!!」
ルークスとトールは焦燥感に駆られて、血が滲むほど拳を強く握り締めている。
ただ、私たちを探そうにも、方法が思い付かない様子だね。
ここで、ハッとなったフィオナちゃんが、スラ丸一号と三号を持ち上げて、ズイっと顔を近付けた。
「ねぇっ、あんたたち! アーシャの居場所なら分かるんじゃないの!? 目に見えない繋がりがあるって聞いたわよ!?」
スラ丸は大きく縦に伸縮することで肯定する。
手掛かりを得られたことで、早速行動しようとした三人だけど、
「──待て!! そこのチビっ子どもッ!!」
このタイミングで、ようやく騎士団の人たちが到着した。
ルークスたちを呼び止めたのは、なんと騎士団長のガルムさんで、彼の後ろにはモーブさんとジミィさんもいる。
もう少し早ければ、あっさりと事件が解決していたかもしれないのに……。
私は内心で不満を漏らしたけど、トールは堂々と不満を叫ぶ。
「あァ゛!? 騎士団が今更なンの用だ!? おせェンだよクソがッ!! 死ねッ!!」
「ま、待て待て! 落ち着いて、詳しい事情を聞かせてくれ! さっきまでの騒動はお前らか!? マンティスと戦っていたにしては、随分と派手だったみたいだが……」
ガルムさんは地面に片膝を突いて、ルークスたちと視線を合わせながら問い掛けた。
事情を知らない彼からすれば、トールにぶつけられた文句は理不尽なもの。それなのに、怒ったり高圧的になったりすることもなく、真摯に向き合ってくれる。これぞ人格者って感じだね。
ちょっと遅かったけど、ガルムさんが来てくれたのは幸運かな。
「全部説明します! でもっ、オレたちも急ぐから! 移動しながらで!!」
ルークスがそう言って、スラ丸に先導して貰いながら走り出した。トールとフィオナちゃんも、すぐに後を追う。
子供たちの表情が切羽詰まっているから、ガルムさんは只事ではないと判断して、文句も言わずに付いて行く。
そして、走りながら説明された事情を聞き、彼は頭痛を堪えるように額を押さえた。
「──つまり、なんだ? セバスの偽者が、子供を誘拐したと?」
「偽者かどうかは分からないわよ! 本人かもしれないでしょ!?」
「それは……ない、とも言い切れないが……」
フィオナちゃんの指摘に、ガルムさんはばつが悪そうな顔をした。セバスのこと、全く疑っていなかった訳じゃないからね。
ただ、まだ信じたいという気持ちが透けて見えるよ。
ここで、今まで黙っていたモーブさんが、ルークスたちに質問する。
「キミたちの友人が二人、攫われたのは理解した。しかし、その前に攫われていた少女は誰なんだ?」
「え、誰って聞かれても……」
ルークスたちは顔を見合わせて、お互いに首を傾げた。
そうだ、攫われていたのがスイミィ様だって知っているのは、私だけなんだ。
ルークスたちからすれば、見ず知らずの少女が攫われていたとしか分からない。
騎士団の人たちは、未だにスイミィ様が攫われたことを知らないよね……。
攫われたのがスイミィ様だって伝われば、セバスの関与が真実味を帯びる。
伝われ、伝われ、と私が念じていると、フィオナちゃんがスイミィ様の容姿を事細かに説明してくれた。
「あの子はなんか、ボーっとした顔をしていたわね。髪は青色で、かなり長かったわ。瞳は左右非対称の灰色と金色。年齢は五歳くらいで、肌が綺麗だったから相当な箱入り娘だと思うわよ」
「お、おいおい、それって……」
ここまでスイミィ様と合致する特徴が伝えられたら、気付かない訳がない。
ガルムさんたちの表情が強張って、ようやく事件の重大性を掴み始めたらしい。
彼らはすぐにステホを使って、お屋敷の誰かに連絡を取る。これで、スイミィ様とセバスの不在が確認出来た。
それどころか、ニュート様まで不在だって。
一行は緊張感を最大限まで高めた状態で、場末の宿屋に到着したよ。
「──隠れろっ、誰か喋ってるぞ」
ガルムさんが制止したことで、みんなは素早く物陰に隠れる。
宿屋の前では、セバスとピエールが誰かと会話を始めるところだった。
その誰かはローブを着て、頭から足元まで、全身をすっぽりと覆い隠している。
体格は子供みたいに小柄だけど、それくらいしか特徴が分からない。でも、すぐにその正体が判明する。
「早かったですな、坊ちゃま。約束の代物は、持って来ていただけましたかな?」
「…………いや、なかった」
セバスが『坊ちゃま』と呼んだこと。それから、声。
この二つで、ローブを着ている人物がニュート様だと判明したよ。
ガルムさんたちは動揺を抑えながら、自分の得物に手を掛けている。
死守しなければいけない侯爵家の嫡男が、夜にこんな場所にいるのだから、気が気じゃないだろうね。しかも、目の前には裏切り者と思しき人物までいるんだ。
「坊ちゃま、わたくしめはもう歳です。耳が遠くなってしまいました。……もう一度、言っていただけますかな?」
セバスは底知れない怒気を滲ませながら、それでも平静を装って、ニュート様に問い掛けた。
ニュート様は頭を振り、嘘偽りが感じられない声色で事情を説明する。
「なかった、とワタシは言ったぞ。スキルオーブは、いつの間にか消えて、行方不明になっている。父上がそう言っていた」
「はは、ははは……。な、ない、ない? ない、ない、ないないない──ないいいいいぃぃぃぃッ!? わ、わた、私は、ではっ、どうやって!? どうしたら英雄に戻れるんだ……ッ!? どうやったらこの国を壊せるんだああああああああああああああッ!? ……ああ、困った」
セバスは壊れたように笑って、それから血が出るほど頭を掻き毟り、最後には表情がストンと抜け落ちた。
そんな彼の代わりに、ピエールがニュート様に話し掛ける。
「坊ちゃん、侯爵が嘘を吐いているって可能性は、ないんスかね?」
「ない。父上は嘘が下手だからな。嘘を吐いていれば、すぐに分かる」
「んんー……。参ったッスね……。ハイそうですかって、引き下がる訳にはいかないんスけど……」
「ないものはない。どうしようもないだろう」
ニュート様は嘘を言っているようには見えない。ピエールもそう感じたのか、大きな溜息を吐く。
「はぁー……。それじゃあ、妹さんを返してやれないッスよ? 座長は壊れちゃったし、どうするんスか?」
「スキルオーブの代わりになるかは分からないが、十二分に価値のあるものを持ってきた。これでスイミィを解放してくれ」
そう言って、ニュート様が差し出したのは、綺麗な白い布袋。
ピエールがそれを受け取って中身を取り出すと、赤系統の色が入り乱れる凄まじい輝きが迸った。
目を凝らすと、その輝きは拳大の結晶が放っていると判明。その結晶がなんなのかは、ガルムさんが知っていたよ。
「あれは……っ、ドラゴンの魔石……!!」
リリア様が討伐したドラゴンの魔石。大きさこそ控え目だけど、途方もないエネルギーが凝縮されているように見える。
ピエールは舐め回すように魔石を眺めてから、満足げに袋の中に仕舞った。
「座長の夢は叶わないッスけど、対価としては十分だと思うッス。座長、どうするッスか?」
「──らない」
「え? なんスか……?」
「要らないって、言ったんだよおおおおおおぉぉぉおぉおぉぉッ!! 死ねええええええええええええッ!!」
セバスは正気を失っているのか、瞳孔を開きながら魔力を漲らせ、ニュート様に向かって手のひらを突き出した。
その瞬間に、ガルムさん、モーブさん、ジミィさんが飛び出して、セバスに急接近する。
この動きを逸早く察知したピエールが、数十本の短剣を高速で投擲。モーブさんとジミィさんは、捌き切れずに掠り傷を負う。
二人とも、それだけで身体の動きが鈍くなった。
ガルムさんだけは器用に片手で短剣を弾き飛ばし、そのままセバスに斬り掛かる。
セバスが魔法を放つ前に、ピエールは彼を引っ張って後退した。その際に、ドラゴンの魔石が入っている袋を落としたけど、誰も気にしている余裕はない。
ガルムさんも追撃せずに、ニュート様を抱えて後退。両陣営は睨み合って対峙する。
「な──ッ!? ガルム!? どうしてここに!?」
「若様、それはこちらの台詞──と言いたいところなんですが、凡その事情は把握出来ました。お嬢様が、人質に取られたんですね?」
「くっ、そうだ……!! 見ての通り、セバスが裏切った……ッ!!」
ガルムさんはニュート様と短いやり取りをしてから、筋肉を膨張させて憤怒の形相を浮かべた。
怒りの矛先は、当然だけどセバスに向けられている。
ガルムさんが彼に叩き付ける戦意は、まるで物理的な衝撃を伴っているかのように、大気をビリビリと震わせた。
ルークスたちは自分が対峙している訳でもないのに、ガルムさんの怒りに戦慄しているよ。
「ハハハッ!! 一番厄介なのが来ちまったッスね!!」
ピエールは心底楽しそうに笑って、セバスを守るべく前に出た。
もしも、私が彼の立場だったら、失禁して気絶しそう……。それくらい、今のガルムさんは恐ろしいんだ。
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