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二章 子供たちの冒険編

46話 新商品

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 私が自分のお店に帰ってくると、何故か表に開店中の看板が出ていた。
 表にはティラが座っていて、私を見つけるなり尻尾をブンブンさせて、全速力で駆け寄ってくる。

「ワンワン! ワンワン!」

「よしよし、遅くなってごめんね。ほら、お土産だよ」

 帰り道にスノウベアーの干し肉なるものを買ってきたので、それをティラに与えた。ペンギンやアザラシのお肉とは食い付きが全然違うから、きっと美味しいんだろうね。

 それにしても、家を出るときは確かに閉店中の看板を出しておいたのに、どうして開店中なの……?
 このお店、働き手は私しかいないから、私がいないと開店なんか出来ないよ。

 小首を傾げながら扉を開けると、店内のカウンター席にはローズが座っていた。
 彼女は私と目を合わせるなり、ムスっとして不機嫌であることをアピールしてくる。

「むぅっ、朝帰りとはよいご身分じゃのぅ……。アーシャよ」

「ローズ? どうしてカウンター席に……? あ、これお土産の葡萄ジュースだよ」

 これまた帰り道に買っておいたジュースを手渡すと、ローズはすぐに満面の笑みを浮かべて、機嫌を直してくれた。

「妾ね、余りにも暇すぎて、フィオナに絡んでおったのじゃ。そしたら彼奴めが、『そんなに暇ならあんたが店を開けなさいよ!』と、言っての」

「それで、本当に開店させちゃったんだ」

「うむ! 客はカウンター席に座る妾を見て驚き、妾が喋ると再び驚き、妾の花弁と葉っぱの品質を見て三度驚くのじゃ! その様子を眺めるのが、存外楽しくてのぅ……。そんな訳で、今後は妾が店番をしてやろうぞ」

「お、おおー……。魔物が店番って、そんなのアリなんだ……。うん、物凄く助かるよ。ありがとう」

 従魔に商品を作って貰った上で、販売まで任せるって、他力本願もここに極まれりって感じだね。
 このままだと、私は前世と同様の駄目人間になりそう。……まぁ、それはそれで悪くないと思ってしまう辺り、性根が全然変わっていない。

「──で、そっちの動く箱は新入りかの? 妾に紹介してたも」

「この子はブロンズミミックのタクミ。スキル【宝物生成】で、お宝を作ってくれるんだ。作れるものはランダムだから、特定のものを安定供給することは出来ないけど、これで商品を増やせるよ」

「ほほぅ……。妾の商品とどちらが稼げるか、勝負じゃな!」

 ローズはタクミに対抗意識を燃やしているけど、タクミは素知らぬ顔でお店の片隅に移動して、置物のように動かなくなった。この子の性格は怠け者なんだ。
 私たちの魔力は有限だから、ローズとタクミのどちらに商品を作って貰うのか、その都度考える必要がある。

 基本的にはローズの花弁と葉っぱが優先で、在庫が溢れたらタクミの出番かな。
 とにかく今の市場には、アルラウネの花弁が不足しているみたいだから、しばらくタクミの出番はないと思っていい。
 そう結論付けて、私はきょろきょろと辺りを見回した。

「ところで、フィオナちゃんは?」

「彼奴なら早朝に子供たちが迎えに来て、そのままダンジョンへ向かったのじゃ」

「そっか……。大きく稼いだ後は休日でもいいのに、みんな働き者だね」

 疲れが溜まってないといいけど……私の【光球】が体力を回復させているから、肉体的には万全なんだ。多分、心配する必要はない。

 ──そういえば、アムネジアさんがスキルに特殊効果を追加するマジックアイテム、幾つも持っていたよね。
 ああいう代物が世間一般に知られているなら、私の【光球】に追加されている体力と魔力の自動回復効果も、マジックアイテムによるものだって説明すれば、誰も変に思わないのかも。
 今までは特異性が高くて、悪目立ちすると思っていたけど……そうじゃないなら、【光球】を売り出そう。

 まずは街の硝子工房で、可愛い小瓶を発注。
 そして、その中に私の【光球】を詰める。商品名は『希望の光』でいいかな。
 六日間も持続するし、価格設定は強気の銀貨十枚。

 友達価格じゃない以上、暴利をむさぼらせて貰う。……とは言っても、発注した小瓶が一本当たり、銀貨五枚もしたよ。だから、純利益は半減なんだ。

 その小瓶には天使の意匠が彫られていて、一目惚れだった。これを自分のお店の商品棚に並べられたら、素敵だなって思ったの。
 まぁ、【光球】一回で銀貨五枚の利益だと考えれば、十二分だよね。
 とりあえず、数量限定で販売して様子を見よう。

 新商品の開発が終わった後、私はスラ丸をぷにぷにして、ティラをもふもふして、ローズとお喋りして、タクミを布で磨く。
 そんな平和な時間を過ごしていると、あっという間に日が暮れた。
 無事にダンジョンから帰還したルークスたちが、私のお店にやってくる。

「アーシャ! これっ、オレたちからの贈り物だよ! 日頃の感謝を込めて!」

 ルークスがみんなを代表して、私に一枚のチケットを手渡してきた。
 そこには楽しげに踊るピエロと、魔物たちの姿が描かれている。
 それから、『仲良しサーカス団』『入場券』という文字も書いてあるよ。

「サーカス団……? もしかして、公演があるの?」

「うんっ! 三日後の夜、街の大広場でやるんだって! みんなで見に行こうよ!」

「分かった、ありがとう! 楽しみにしておくね!」

 私はルークスたちに笑顔を向けながら、内心ではちょっと不安になっていた。
 ピエロの絵を見ると、セバスと密会していた人を思い出してしまう。……私の記憶が確かなら、セバスは座長って呼ばれていたよね。このサーカス団との接点がないことを祈るばかりだよ。

 ──この後、みんなで近くの酒場に行って、お酒抜きの夕食をとり、お互いに昨日今日の出来事を報告することになった。
 まずは私から、無機物遺跡のことを話してあげよう。

「私ね、ニュート様たちと無機物遺跡に行ったんだけど、第一階層の難易度は思ったより低く感じたよ」

 他の冒険者がいっぱいいるから、敵との遭遇率が流水海域よりもずっと低い。
 出現する魔物は防御特化で動きが鈍いから、いざというときは簡単に逃げられる。
 搦め手を使ってくるのはブロンズミミックだけで、宝箱が魔物の可能性があると最初から知っていれば、どうとでも対処出来る。

 私の説明を一通り聞いてから、トールが忌々しげに舌打ちした。

「チッ、飯が不味くなる名前を出すンじゃねェよ! つーか、親しくもねェ男にホイホイ付いて行くな!!」

「トールってば、男の嫉妬は見苦しいわよ? 貴族の誘いは断れないんだから、仕方ないって分からないの?」

「嫉妬じゃねェ!! ちっとばかし心配してやっただけだろォがッ!!」

 にまにまと笑うフィオナちゃんに揶揄われて、トールが犬歯を剥き出しにしながら憤慨した。
 いつものフィオナちゃんなら、シュヴァインくんの背中に隠れて追撃を入れるところだけど、今回は即座に私の方に身体を寄せてきたよ。

「それでそれでっ、アーシャ! どうだったの!?」

「う、うん……? どう、とは?」

「ニュート様と、どこまで行ったのかって話よ! 側室にしてやるって言われて、なんかこう、高級宿に連れ込まれたりしなかったの!?」

 フィオナちゃんは恋バナ……いや、猥談がしたいらしい。
 彼女の年齢を考えると、随分とおませさんな気がするよ。恋する乙女は早熟なのかもね。

「フィオナちゃんが期待しているような話は、一つもないんじゃないかなぁ……。ええっと、一連の出来事を最初から説明すると──」

 図書館でスイミィ様と出会ったところから、侯爵家にお邪魔して色々あったところまで、私はみんなに要約して伝えていく。
 セバスとピエロのことは、黙っておこう。みんなが知って、どうにかなる問題でもないし、不必要な不安を煽るのはよくないよね。

 こうして、全てを聞き終えたフィオナちゃんは、自分が付けている耳飾りに触れながら首を傾げた。

「あれ? それなら、あたしの耳飾りが必要なの?」

「あっ、そう! そうなんだよフィオナちゃん! 売ったりしないから、耳飾りを貸して欲しいの! お願いっ!」

「ええ、いいわよ。侯爵夫人が仲間ペンギンに助けられたって話、他人事じゃないもの。もう一度会いたいって気持ち、よく分かるわ」

「ありがとう! 流石はフィオナちゃんっ、話が分かる!」

 よかった、思ったよりもあっさりと貸して貰えた。
 フィオナちゃんから借りた耳飾り。それを大切に仕舞って、私はスイミィ様にいつ持って行こうか考える。

 一日でも早い方が喜ばれると思うけど、彼女に【再生の祈り】を掛け直すために、三日後に侯爵家へ行く予定だから、その日でいいかな。
 連日お邪魔すると、妙な疑いを掛けられそうだし。
 
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