他力本願のアラサーテイマー ~モフモフやぷにぷにと一緒なら、ダークファンタジーも怖くない!~

雑木林

文字の大きさ
上 下
45 / 239
二章 子供たちの冒険編

45話 密告

しおりを挟む
 
 ──老執事とピエロの密会現場から離れた私は、お屋敷の壁に寄り掛かって膝を抱えた。
 今すぐ誰かに報告したいんだけど、よくよく考えてみると問題がある。

「困ったなぁ……。知り合ったばかりの私の言うことなんて、誰が信じてくれるの……?」

 老執事はこのお屋敷で、七年以上も働いているみたいだから、私よりも信頼されていることは明白。客観的に見て怪しいのは、老執事よりも私の方だよ。

「……困った? 姉さま、困ってる?」

「うわぁっ!?」

 真横から突然声を掛けられて、私は心臓が止まりそうになるほど驚いた。
 顔を向けてみると、スイミィ様が私と同じように、膝を抱えて座っていた。ブロ丸の姿もあるよ。

「……スイ、姉さまの力になる。……なんでも、言って」

 驚かされはしたけど、有難いことにスイミィ様は、私の味方になってくれるらしい。でも、死の運命を背負っている彼女に、これ以上の心労を与えることは躊躇われる。
 うーん……。協力は求めないにしても、注意だけはしておこうかな。

「スイミィ様は、老執事のことをどう思っていますか……?」

「……老執事? それ、いっぱいいる。……だれ執事?」

「えっと、図書館で私とスイミィ様が出会った日に、ニュート様と一緒にいた人です」

 スイミィ様はぼうっと宙を眺めて一考した後、無表情なままポンと手を打った。
 それから、やれやれと呆れたように頭を振る。これまた無表情で。

「……それ、セバス。……兄さまを甘やかす、ダメな人」

「あの人の名前はセバスさんですか……。それで、どう思います? あの人のこと」

「……スイ、好きちがう。……びみょう?」

 スイミィ様は老執事のセバスに、好意的じゃなかった。それだけで、とりあえずは一安心だと思えるよ。

「ええっと、いきなりこんなことを言われても、戸惑うかもしれませんが……あの人には、気を付けてください。絶対に、二人きりになったりしないように」

「……分かった。姉さま、ありがと」

「ず、随分とすんなり信じますね……。あの、事情を聞いたりとか……」

「……スイ、姉さま好き。信じる」

 真っ直ぐに好意を向けられて、私は思わずたじろいでしまった。
 好かれている理由なんて、首飾りをプレゼントしたことくらいしか、心当たりがない。
 たったそれだけで、長年勤務しているセバスより、私を信じてくれるって、ちょっと納得出来ないかも。

「その好感度の高さには、戸惑うばかりです……」

「……姉さま、首飾りくれた。……秘密のスキルも、使ってくれた」

 だから好きだと言ってくれるスイミィ様。私は目を見開いて、そんな彼女の無表情を凝視する。

「ま、待って……!! えっ、ひ、秘密のスキル……!?」

「……あ、秘密のスキル、まだ。……それ、夢で見た」

「もしかして、そのスキルって、大人になった私がピカーって出てくるやつ……ですか……?」

「……そう、それ。ピカーって」

 まだ話していない秘密のスキルを知られている。【予知夢】って、やっぱり強力というか、かなり怖いね……。
 私は頬を引き攣らせながら、おずおずと震える声で、事実確認をしておく。

「あの、そのこと、誰かに言いました……?」

「……スイ、言ってない。秘密だから」

 私はスイミィ様の言葉を聞いて、ホッと胸を撫で下ろした。そうだよね、秘密のスキルなんだから秘密だよね。

「ありがとう、スイミィ様……。それじゃあ、今から秘密のスキルを使いますね」

 私が【再生の祈り】を使うと、純白の羽衣を纏った大人のアーシャが宙に現れた。相も変わらず後光が差しているから、ピカーって感じだよ。
 私は女神を自称するつもりなんてないけど、このスキルを使うと現れる彼女のことは、女神アーシャと呼んでいる。如何にもそれっぽいからね。

 女神アーシャがスイミィ様の頭に手を翳すと、優しい光が降り注いだ。

「……姉さま、ありがと。……からだ、ポカポカする」

「これで、大抵の怪我はすぐに治るはずです。もう言うまでもないとは思いますが、このスキルのことは秘密で」

「……ん、分かった。スイ、だれにも言わない。やくそく」

 この後、【再生の祈り】の効果は三日間しか持続しないことを伝えて、どうにか三日置きに密会出来ないか聞いてみた。
 すると、スイミィ様は私が遊びにくれば、二人きりになると約束してくれたよ。

「──あっ、そうだ! いつカマキリに襲われるか分からないし、ブロ丸を貸しましょうか? そんなに強くないけど、不眠不休で警備してくれますよ」

「……!! うれしい。……丸ちゃん、話し上手で好き」

「う、うん……? 話し上手……? ブロ丸って、喋るの……?」

 私は訝しげにブロ丸を見遣った。けど、この子はウンともスンとも言わない。
 まぁ、口がないからね。喋る訳がないよ。
 私がスイミィ様に揶揄われているのか、それとも彼女が不思議ちゃんなだけか、判断に困る。

「……姉さま、そろそろ部屋に戻る。……スイ、お腹空いた」

「そうですか。それなら、私はそろそろお暇しようかな……」

 私が帰ると聞いて、スイミィ様が寂しそうな雰囲気を醸し出した。
 ごめんね、私にも帰りを待つ家族がいるんだ。
 帰る前に、ゼバスとピエロが一騒動起こすかもしれないこと、大人の誰かに伝えておきたい。……でも、スイミィ様以外に、セバスより私を信じてくれる人なんて、いるのかな?

 うーん……。駄目だ、心当たりがない。ただ、黙っておくのもどうかと思うし、ガルムさんの耳に入れておこう。
 私が侯爵家の内部分裂を狙っているとか、そんな疑いを掛けられる危険性もある。けど、彼なら即座に私を拘束するとか、そんなことはしないと思う。

「そういえば……スイミィ様、気儘なペンギンの耳飾りを手に入れる当ては、あるんですか?」

「……ない。座して待つ」

「それなら、私の友達に借りられないか、聞いてみます。売って貰うのは難しそうですけど……」

「……ペンギン、母さまに、一目見せるだけ。それで十分」

 耳飾りを持っているのはフィオナちゃんで、彼女は仲間ペンギンに命を救われてから、あの装備を大いに気に入ってしまった。
 だから、手放すことはあり得ないと思う。貸し出しも怪しいところだけど、そこはなんとか交渉してみよう。
 私たちはお喋りしながら、最初の部屋まで戻ってきた。スイミィ様と一緒だったからか、不自然な迷い方はしなかったよ。

「それでは、スイミィ様。また三日後に」

「……ん、待ってる。姉さま、ばいばい」

 私はメイド服から私服に着替えて、スイミィ様に別れを告げた。
 もう迷子になるのは御免だから、きちんとメイドさんに声を掛けて、ガルムさんがいる場所まで案内して貰う。
 背筋を伸ばしてすまし顔で道を尋ねたら、畏まって対応してくれたよ。

 ──ガルムさんは屋外にある騎士団の訓練場で、大勢の騎士と模擬戦を行っていた。千切っては投げ、千切っては投げ、大の男が次々に吹っ飛ばされている光景は、圧巻の一言に尽きる。
 あちこちに疲労困憊で倒れている人たちがいて、死屍累々のような有様だ。
 熱いからか、上半身が裸の人も少なくない。みんな筋肉が凄くて、眼福だね。

「すみません、ガルムさん。お忙しいとは思いますが、少し伝えておきたいことが……」

「おお、おチビちゃんか。丁度休憩しようと思っていたところだ。……汗臭くても大丈夫か? 気になるようだったら、水浴びしてくるが」

「全然大丈夫です。えっと、ちょっとこちらに──」

 私はガルムさんの手を引いて、訓練場の片隅に誘導した。
 そして、近くに誰もいないことを確認してから、セバスとピエロの怪しい会話内容を伝える。
 ガルムさんは一から十まで聞き終えて、釈然としない表情で首を捻った。

「──その話、信じてやるのは難しいな。セバスは若様の物心が付く前から、ずっと若様の教育係を任されているんだ。いつも真面目で、怪しい動きをしている気配なんて、一度も感じたことがない」

「そう、ですか……」

 ガルムさんは半信半疑どころか、九割九分は私の話を疑っている様子だよ。
 やっぱり信じて貰えなかったか、と私は肩を落とした。

「ああいや、別におチビちゃんが見たもの、聞いたことを全て疑っている訳じゃないぞ? 誰かがスキルやマジックアイテムを使って、セバスに化けていた可能性もあるしな」

「あっ、なるほど……。確かに、そういうこともあり得ますよね……」

「なんにしても、そいつらが近々事を起こすってんなら、警備を厳重にしておこう。報告してくれて、感謝するぞ」

 とりあえず、肩の荷が下りたと思っていいのかな。
 セバスとピエロが何者であろうと、ガルムさんが率いている騎士団を出し抜くのは、そう簡単じゃないはず……。みんな、明らかに強そうだからね。
 
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ

雑木林
ファンタジー
 現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。  第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。  この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。  そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。  畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。  斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。

47歳のおじさんが異世界に召喚されたら不動明王に化身して感謝力で無双しまくっちゃう件!

のんたろう
ファンタジー
異世界マーラに召喚された凝流(しこる)は、 ハサンと名を変えて異世界で 聖騎士として生きることを決める。 ここでの世界では 感謝の力が有効と知る。 魔王スマターを倒せ! 不動明王へと化身せよ! 聖騎士ハサン伝説の伝承! 略称は「しなおじ」! 年内書籍化予定!

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~

川原源明
ファンタジー
 秋津直人、85歳。  50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。  嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。  彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。  白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。  胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。  そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。  まずは最強の称号を得よう!  地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編 ※医療現場の恋物語 馴れ初め編

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。 魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。 だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。 見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。 「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

処理中です...