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二章 子供たちの冒険編
41話 アムネジアの実力
しおりを挟む宝箱に擬態している魔物、ブロンズミミックを探し求めて、私たちはダンジョン内を練り歩いている。
でも、ミミックは数が少ないみたいで、全然見つからないよ。
次の戦闘ではアムネジアさんの実力が見られるのに、残念ながら狩場が混雑しているから、ミミック以外の魔物ともあんまり遭遇しない。
歩いてばっかりで暇だから、少し気になっていたことを聞いてみよう。
「アムネジアさんが持っている葉っぱって、武器なんですか?」
「そうだよぉ。こぉんな見た目だけどぉ、立派なマジックアイテムなんだよねぇ」
「おおー……。ステホで撮影してみてもいいですか?」
「いいよぉ、特別だからねぇ」
アムネジアさんからの許可が下りたので、早速パシャリと撮影。
この蓮の葉っぱ、名前は『酸を乞う蛙の雨傘』で、これを装備して雨を降らせるスキルを使うと、その雨が酸性になるという効果があるらしい。
どの程度の酸なのか、それを確かめる機会はすぐに訪れた。
「敵さんのお出ましだ。アムネジア、適当に始末しろ」
路地裏から現れた魔物は、ブロンズゴーレムが三匹、ブロンズボールが一匹という編制。
ガルムさんに促されて、アムネジアさんが軽い足取りで前に出る。
「はぁい、分かりましたよぉ。僕の外れスキル、篤とご覧あれぇ」
わっさわっさと彼が蓮の葉っぱを扇ぐと、敵の集団に霧雨が降り注いだ。
無数の細かい雨粒は若干だけど黄ばんでいて、すっぱい臭いがするよ。
効果は劇的で、魔物たちは瞬く間に腐食してボロボロになり、私たちに襲い掛かる前に動かなくなった。
銅って耐食性に優れていたはずだけど、こんなに呆気なく腐食させるなんて、かなり強力な酸なのかも。
「す、凄い……。これのどこが、外れスキルなんですか……?」
「このスキルは【霧雨】って言ってぇ、本来は相手を軽く濡らすだけだからぁ、大外れなんだよねぇ」
「ああ、なるほど……。凄いのはスキルじゃなくて、マジックアイテムなんですね」
黄色い蛙の置物が乗っている蓮の葉っぱ。それを装備した姿は、ちょっと……いや、大分間抜けに見える。けど、そこに目を瞑れば、実に素晴らしいマジックアイテムだね。
それにしても、【光球】に続いて【霧雨】って、外れスキルが二つ?
宮廷魔導士なのに、装備が凄いだけで当人は今のところ、全然凄くなさそう。
「僕のマジックアイテムの自慢話ぃ、もぉっと聞かせてあげよっかぁ?」
「はい、是非ともお願いします」
ダンジョン探索を再開して、またもや暇な時間が出来たので、アムネジアさんは私に手の内を教えてくれた。
どうやら、マジックアイテムを上限いっぱいまで装備しているみたいで、まずは闇を凝縮したような手袋、『不幸の招き手』を自慢し始めたよ。
「この手袋はねぇ、外れスキルの【暗雲】にぃ、面白い効果を追加してくれるんだよぉ。本来は視界を遮るだけのスキルだけどぉ、これがあればランダムな状態異常を相手に与えられるんだぁ」
これが非常に高価なマジックアイテムで、そのお値段は白金貨三十枚だったと、アムネジアさんは得意げに語った。
お値段にもビックリしたけど、それを装備しているってことは、【暗雲】も持っているんだよね?
流石に白金貨三十枚の代物は、ブラフで身に着けたりしないと思う。……外れスキルが三つって、前世で何か悪いことでもしたのかな?
「アムネジアは外れスキルしか持っていない。それ故に、『的外れの魔導士』と呼ばれている」
「へ、へぇ……。なんて反応したらいいのか、困ります……」
ニュート様の話を聞いて、私は思わず頬を引き攣らせた。
宮廷魔導士って、外れスキルしか持っていなくても、なれるんだね……。その役職が大したことないのか、それともアムネジアさんが実は凄い人なのか、よく分からない。
私が困惑している間にも、アムネジアさんのマジックアイテム自慢は続く。
流動している泥のようなデザインの腕輪。
これは【耕起】という、土を軽く盛り上げて耕すだけのスキルに、水を含ませるという効果を追加するマジックアイテム。その名も『泥濘の腕輪』。
【耕起】が泥濘を作るスキルに変化する訳だけど、マジックアイテムに頼っても地味な感じが拭えない。
少なくとも、雨傘と手袋ほどのインパクトはないね。お値段も安かったみたいで、金貨五十枚程度だとか。……その値段でも高くない?
お次は、小粒の白い魔石が埋まっている銀の腕輪。
これは【光球】の持続時間を三倍にするマジックアイテムで、その名も『光る延長の腕輪』──って、これ、私が装備している指輪の同類だよ。
私の指輪は持続時間を二倍にするけど、アムネジアさんの腕輪は三倍。ちょっとだけ羨ましい。……でも、地味だ。宮廷魔導士とは?
最後に、鮮やかな黄緑色の宝石があしらわれた首飾り。その宝石の中には、小さな妖精が閉じ込められている。
これは【微風】という、微かな風を起こすだけのスキルに、道案内の効果を追加するマジックアイテム。その名も『風の妖精の導き』。
これを装備していると、探し求めているもの、あるいは場所まで、風が案内してくれるんだって。
「──あれっ、その首飾りがあったら、ミミックもすぐに見つかるのでは……?」
「言われるまでもなぁく、使っているんだけどねぇ。百メートル以内に探し物がないとぉ、反応してくれないんだよねぇ」
「ああ、範囲が決まっているんですね」
実際に歩いてみると、百メートルって大したことがない距離だけど、無機物遺跡は廃墟が多くて遮蔽物ばっかりだから、探索の手間が減るのは助かるよ。
ありがとう、アムネジアさん。……それにしても、この人が持っているスキルを並べてみると、かなり不憫かも。
職業選択の直後、レベル1でスキルが一つ。そこからレベル10毎に一つずつ増えるから、アムネジアさんは最低でもレベル40……いや、転職してスキルを増やした可能性もあるんだ。
なんにしても、五回もスキルを取得する機会があったのに、【光球】【霧雨】【暗雲】【耕起】【微風】って、よく心が折れなかったね。
私がアムネジアさんの立場だったら、宮廷魔導士なんて目指さずに、農家を目指していたと思う。
胡散臭い人だけど、ちょっと可哀そうだから、少しくらいは優しくしてあげようかな。
「ふぅ、やっぱり自分のマジックアイテムを自慢するのってぇ、とぉっても楽しいねぇ……」
「腕輪二つは微妙だろう。買い換えたらどうだ?」
「ニュートさまぁ……。薄給の僕にぃ、酷なこと言わないでくださいよぉ」
「戯け。腐っても宮廷魔導士のくせに、何が薄給だ」
アムネジアさんとニュート様の会話を聞いて、私はふとした疑問を口に出す。
「あの、宮廷魔導士って、どんな仕事をする人たちなんですか?」
「うん? うぅーん……。一言で現すならぁ、何でも屋……うぅん、雑用係かなぁ。色々と便利に扱き使われることが、多いんだよねぇ」
アムネジアさん曰く、宮廷魔導士には決められた仕事がないみたい。雑用係って聞くと、一気に凄さが激減だよ。
私が肩透かしを食らった気分になっていると、先頭を歩くガルムさんが振り向かずに、軽く注意してきた。
「おチビちゃん、こいつの言うことをあんま真に受けんなよ。雑に使われている宮廷魔導士なんざ、こいつくらいだからな」
「はぁ、団長さんは酷いなぁ……。これでも僕ぅ、今の立場は侯爵家の賓客だよぉ? もっと敬ってくれてもよくなぁい?」
「役に立ってないだろ。いつ帰ってくれても、一向に構わんぞ」
ガルムさんの口調からは、本気でそう思っているのがひしひしと伝わってくる。
しっしっと手で追い払う仕草までするものだから、アムネジアさんは猫背を更に丸めて、気落ちしてしまった。……流石に忍びないから、フォローしてあげよう。
「わ、私は助かっていますよ! アムネジアさんの【霧雨】は凄いし、【微風】の道案内も便利だし!」
「キミぃ、随分と優しいねぇ! 僕に気があるんでしょぉ? いいよぉ、お嫁さんにしてあげるねぇ」
「それはご遠慮します」
私は間髪を入れず、真顔になって否を突き付けた。嫌だよ、こんな胡散臭い人と結婚するの。……ハッ!? いけない、駄目だよ私。この人には優しくしてあげようって、決めたばっかりでしょ。
嫌なものは嫌だけど、オブラートに包まないとね。
「あーぁ、どうせ僕なんてぇ、誰にも好かれない人間なんだねぇ……。羽虫でごめんよぉ……」
「そ、そんなことないですよ! 私とはほら、歳の差があるからアレなだけで、同年代の方からは引く手数多だと思います!」
「僕もねぇ、婚活していた時期があるんだけどさぁ……。みぃーんな、『子供に外れスキルが遺伝したら嫌だからぁ』とか言ってぇ、逃げちゃったんだよねぇ……。ははは、はぁ……」
アムネジアさんの重たい溜息を吸い込んで、私の心まで重たくなってしまった。
独身でいいじゃないですか、結婚なんてクソですよ。独身ならお金も時間も全部、自分のために使えるんですから。……これを言うの、前世の自分を慰めているみたいで、物凄く嫌だ。
辛気臭い空気を入れ替えるために、話題を変えよう。
「そういえば、アムネジアさんはどうして、サウスモニカの街に来たんですか? 侯爵家の賓客らしいですけど、何かお仕事でも?」
パッと思い付いた話題を口に出した途端、場の空気が一気に重苦しくなった。
ニュート様とガルムさん、それからモーブさんとジミィさん。彼らが険しい表情になって、沈黙している。
もしかして、もしかしなくても、不味いことを聞いちゃった……?
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