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二章 子供たちの冒険編
31話 初めての戦闘
しおりを挟むルークスたちが流氷に揺られていると、海からアザラシとペンギンが一匹ずつ飛び出してきた。
アザラシは体長が八十センチくらいで、白いフワフワの毛が生えている。円らな瞳と、丸っこい眉毛みたいな模様がチャームポイントだね。
どう見ても、子供のアザラシだ。可愛すぎて、私は思わず身悶えしちゃったよ。
テイムしたい。全然強そうじゃないし、なんの役に立つのかも分からないけど、今すぐ現地に突撃してテイムしたい……。
ペンギンの体長は九十センチくらいで、アザラシと大差ないサイズだけど、こっちは大人かな。白と黒のツートンカラーが可愛い。……でも、アザラシほどじゃないよ。
「みんなっ、手筈通りに戦おう!!」
「しゃらくせェ!! 突っ込んでブッ殺すだけだぜッ!!」
ルークスが指示を出して、みんなが役割通りに動く。
トールは真っ先に正面から突撃。ルークスは気配を消しながら、敵の側面か背後を狙う。シュヴァインくんはフィオナちゃんを守れる位置で、しっかりと盾を構えた。
「あたしの魔法で消し炭にしてやるんだからっ!! 喰らいなさい!!」
フィオナちゃんが安全な立ち位置から、【火炎弾】を撃ち出すと、ペンギンが口から冷たい水の塊を発射した。これが【冷水弾】だね。
街の外にいる白鳥の魔物、アクアスワンが同じスキルを使っていたよ。
双方のスキルがぶつかると、火炎は消されてしまったけど、冷水もすぐに蒸発して霧散した。
「くっ、相殺なんて生意気ね……!! こうなったら【爆炎球】で──」
「ふぃ、フィオナちゃん……っ、温存して……!! ぺ、ペンギンの攻撃は、ボクが受け止めるから……!!」
シュヴァインくんは緊張感を滲ませながらも、フィオナちゃんを制止した。
【爆炎球】は魔力の消耗が激しいから、使い所を見極めないといけない。今回はシュヴァインくんの判断が正しそうだよ。
彼は盾を叩いて【挑発】を行い、ペンギンの敵視を自分に向けさせた。
すぐにペンギンから、【冷水弾】が飛んできたけど、きちんと盾で防げている。水飛沫が舞うから、かなり寒そうなのが心配かな。
そんな攻防の横では、アザラシがトールに対して、氷雪混じりの冷たい息を吹き掛けていた。これがスキル【吹雪】だと思う。
「寒──ッ、く、ねええええええええええェェェェェェッ!! くたばれェ!!」
唇を真っ青にしているトールが、強がりを言いながら【吹雪】を正面突破して、鈍器でアザラシをぺちゃんこにした。
あんなに可愛い生物を攻撃することに、私としては思うところがある。……けど、これは生死を賭けた戦いだから、文句を言うべきじゃないよね。
よくよく考えてみると、ペンギンとアザラシは可愛い見た目に反して、えげつないスキルの組み合わせをしている。
【冷水弾】で相手を濡らして、【吹雪】で凍らせるって、結構殺意が高い。
「──ふぅ、こっちも終わったよ」
いつの間にか、ルークスがペンギンの背後に回り込んで、短剣を首に突き立てていた。
トールが多少のダメージを受けたから、無傷とはいかなかったけど、みんなの初戦は窮地とは無縁なまま終わったよ。
「ああもうっ、悔しい!! あたしだけ見せ場がなかったわよ!? 次はドカンとやらせなさいよねっ!!」
フィオナちゃんが地団駄を踏んでいるけど、敵の集団をドカンと出来る彼女は切り札みたいなものだから、ドッシリと構えていて貰いたい。
「フィオナの【爆炎球】の使い所、決めておこっか。シュヴァインは何匹まで、敵を受け持てそう?」
「え、えーと……。二匹……ううん、三匹までなら……なんとか……」
ルークスの質問に、シュヴァインくんは自信なさげに申告したよ。
でも、ここでトールが目尻を吊り上げながら、彼を怒鳴り付ける。
「オイっ、ブタァ!! テメェなら四匹はイケるだろォがッ!! 自分を過小評価してンじゃねェぞ!!」
「ひぃっ!? ご、ごめっ、ごめんね……ごめんね……」
トールってさ、シュヴァインくんを馬鹿にしている風な言動が目立つけど、防御力に関しては普通に認めているんだよね。
この二人が模擬戦をすると、トールが攻め切れなくて、毎回引き分けになるから。
「それじゃあ、シュヴァインが四匹を受け持って、トールが一匹ずつ真正面から倒せるとして……オレたちがフィオナの魔法なしで捌けるのは、五匹まで。それ以上の集団に襲われたら、フィオナの出番だ」
「ええ、分かったわ! 任せなさい!!」
ルークスの決定に異論は出ない。上手いことリーダーシップが取れているから、私は感心したよ。
こうして話し合いが終わったところで、ふとトールが何かに気が付く。
「あン……? オイっ、魔物の死体が消えてンぞ!! こりゃァどういうことだ!?」
折角仕留めたアザラシとペンギンが、その場から消えていた。
その代わりに、300gほどのお肉が入った氷のブロックと、ビー玉サイズの魔石が二つずつ、流氷の上に置いてある。
魔石はそれぞれ色が違って、片方が真っ青、もう片方が青白い色だった。多分だけど、水の魔石と氷の魔石だね。
魔石は魔物の体内にある石で、魔力が結晶化した代物らしい。これを魔物が沢山食べると、進化するんだ。
「ふぃ、フィオナちゃん、ギルドで貰ったやつに、何か書いてない……?」
「んー……。あっ、書いてあるわよ! ダンジョン内で魔物の死体を放置していると、こんな感じでアイテムに置き換わるんですって。ドロップアイテムって言うみたいね」
シュヴァインくんに聞かれて、ササっと小冊子を捲ったフィオナちゃんが、答えを見つけてくれた。
その情報、私も知らなかったよ。スラ丸二号が聖女の墓標で魔物を倒しているけど、不浄を消し去るスキル【浄化】をゾンビ相手に使っているから、死体が残らないんだよね。
「チッ、クソ迷惑な仕組みだなァ……。肉がこれしか落ちねェなら、自分たちで解体した方が金になンだろ」
トールが舌打ちして、お肉入りの氷ブロックを忌々しげに睨み付けた。
そんな彼を宥めるように、フィオナちゃんが別の情報を付け加える。
「安定した収入が欲しいなら、自分たちで解体した方がいいって書いてあるわ。でも、ドロップアイテムには低確率で、希少なものが交ざるらしいわよ。そっちは解体で手に入らないものだから、基本的には高く売れるって」
「希少なものォ……? 一体何を落とすってンだ?」
「ステホでダンジョン内の魔物を撮影すると、ドロップアイテムの一覧が確認出来るみたい。次に魔物が現れたら、試してみましょ」
アザラシとペンギンのレアドロップなんて、全然大したものじゃなさそう。
みんなはドロップアイテム次第で、仕留めた魔物を解体するか否か決めるらしい。
「どんなものが落ちるんだろう? なんだかワクワクするね!」
そう言って瞳を輝かせているルークスは、今回のドロップアイテムを回収して、スラ丸に【収納】させた。
この後、みんなが再び流氷に揺られていると──十分ほど経ってから、アザラシが三匹、ペンギンが一匹の集団に襲撃されたよ。
フィオナちゃんがステホで撮影したところ、アザラシはお肉と氷の魔石、それから低確率で『魔物メダル』と『冷たい手袋』という、四種類のアイテムを落とすことが判明。
ペンギンの方はお肉と水の魔石、それから低確率で『魔物メダル』と『脆い水の杖』を落とすみたい。
魔物メダルは私も知っているよ。これを集めると、ダンジョンの裏ボスに挑めるんだ。
「魔物を撮影しただけだと、ドロップアイテムの名前しか分からないわね……。みんなっ、気合を入れてレアドロップを狙うのよ!! 目指せお金持ちっ!!」
フィオナちゃんに鼓舞されて、ルークスたちが手際よく魔物と戦い始める。
敵の数はさっきの倍だけど、シュヴァインくんがしっかりと三匹も受け持ってくれた。そこからルークスとトールが、一匹ずつ確実に仕留めて、危なげなく勝利したよ。
みんなは再び魔物の死体を放置して、ドロップアイテムに変えてみた。けど、残念ながらレアドロップは見当たらない……。まぁ、そう上手くはいかないよね。
「こ、これなら、解体した方が、お肉いっぱい食べられるよ……」
「テメェは食うことしか頭にねェのか? そンなに食い物が欲しけりゃ、釣りでもしとけや」
トールがスラ丸の中から釣り竿を引っ張り出して、お腹を空かせているシュヴァインくんに押し付けた。
流水海域では魚釣りが出来るという話だったから、良い釣り竿を買っておいたんだ。魔物が現れる頻度はあんまり高くないから、釣りをする時間は十分にありそう。
他のみんなが魔物の襲撃を警戒しながら、シュヴァインくんが釣りを始めた。
すると、あっという間に獲物が引っ掛かる。
「──ッ!? お、重い……!! これ重いよ……っ!!」
「ちょっ、シュヴァイン!? 身体が引っ張られてるわよ!?」
フィオナちゃんが大慌てで、シュヴァインくんの腰にしがみ付き、獲物を引き上げる手伝いをした。
しかし、二人の身体はズルズルと、海へ向かって滑っていく。足元が氷だから、踏ん張りが利いていない。
「重いって、ここで釣れるのはサバじゃなかったっけ……? もしかして、魔物も釣れるのかな?」
サバはそんなに重たい魚じゃないけど、シュヴァインくんが持っている釣り竿は物凄く撓っていた。ルークスは首を傾げながらも、フィオナちゃんと同様にシュヴァインくんの腰にしがみ付く。
これで三人分の力が加わったのに、まだ引き上げられないから驚きだ。
複合弓と同じ材料で作られた高性能な釣り竿だから、なんとか耐えられているけど……普通の釣り竿だったら、間違いなく折れていたね。
「トールっ!! あんたも手伝いなさいよ!! こんなときのための馬鹿力でしょ!?」
「だったらテメェが周りの警戒しとけや!! オラっ、釣り竿を寄こせ!!」
真面目に周囲の警戒をしていたトールが、フィオナちゃんに急かされて、シュヴァインくんから釣り竿を取り上げた。
そして、背負い投げでもするように引っ張ると──青銅の宝箱が、海面からポーンと飛び出したよ。
「「「お、お宝だーーーッ!!」」」
みんなに交ざって、私もお店の中で声を上げちゃった。
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