上 下
8 / 239
一章 孤児院卒業編

8話 大きな進歩

しおりを挟む
 
 【再生の祈り】──これは、肉体の損傷を継続的に治してくれるスキルだった。
 ゲーム風に言うなら、再生状態のバフ効果を付与するスキルだね。

 これも【他力本願】の影響で、特殊効果が追加されている。
 それは、まさかの若返り……。権力者に知られたら、飼い殺しにされちゃうよ。
 六歳児の私が若返ると不味いから、特殊効果を切った状態で、試しに使ってみよう。

「誰に祈ればいいのか、分からないけど……お願いします。再生状態のバフ効果、私にください」

 私は地面に膝を突いて、両手を組みながら祈りを捧げた。
 すると、二十代前半になった私の姿を思わせる何者かが、純白の羽衣を纏って宙に現れたよ。
 神々しい後光が差しているので、なんだか女神っぽい。

 暫定女神が、私の頭に手を翳すと、優しい光が降り注いだ。
 そして、一言も喋らずに、彼女はスーッと消えてしまう。

「アーシャ! 今のって、誰だったの!? アーシャのお姉さん!? とっても綺麗な人だったね! ピカーってしてたから、女神様かな!?」

 修行をしていたルークスが、こちらに駆け寄ってきて、好奇心いっぱいに質問してくる。

「今のはただの、スキル演出……。ごめん、ちょっと眠いから、質問はまた後で……」

 私は抗い難い睡魔に襲われて、呆気なく意識を手放した。
 これが、魔力切れの弊害なんだって、感覚的に理解出来たよ。


 ──微睡に沈んでいくと、スラ丸との見えない繋がりに引っ張られた。
 そうして、私の意識は、暗闇の中に浮かぶ道の上に誘われる。
 その道は四本に分岐しており、それぞれの手前に一枚ずつ、看板が立てられているよ。

 左から順番に、『分裂』『ミートスライム』『カーススライム』『コレクタースライム』って、書いてある。

「これは……あっ、もしかして、スラ丸の進化先……!? 分裂は進化せずに、クリアスライムのまま、数が増えるとか……?」

 この分岐は私が選べるみたいだけど、各選択肢の詳細が分からないと、判断するのが難しい。
 詳細を知りたい。そう願うと、私の手元にステホが現れた。
 やや戸惑ったものの、これで『分裂』の看板を撮影してみると、この選択肢の詳細が判明したよ。

 予想通り、この道を選ぶとクリアスライムのまま、スラ丸が分裂するみたい。
 分裂させると、強さが半減したスラ丸が、二匹になる。この場合、私が使役出来る従魔の枠も、しっかりと二匹分潰されてしまうんだ。

 ……まぁ、分裂は真っ先に、候補から外そう。
 クリアスライムを増やしたいなら、野生の子をテイムすればいいからね。
 私は立て続けに、他の三枚の看板も撮影した。

 『ミートスライム』──粘液と生肉を足して二で割ったような、美味しい身体を持つスライムで、お肉を沢山食べると現れる進化先。腐ったお肉ばっかり食べていると、腐肉のスライムになる。
 この魔物は臭そうだから、やめておこう。スラ丸が食べていたのって、腐肉の洞窟の床とか壁だから……。

 『カーススライム』──体内に呪いを蓄えたスライムで、闇の魔石を沢山食べると現れる進化先。
 闇の魔石って、ゴーストが消滅した際に落とす、真っ黒な魔石のことだよね。
 この進化先は戦闘力が高くなりそうだから、一考の余地があるけど……私まで呪われないか、ちょっと心配になる。

 『コレクタースライム』──体内に多くの物を収納出来るスライムで、マジックアイテムを三個以上収集すると現れる進化先。
 聖なる杯、渇きの短剣、スキルオーブ。この三つが、マジックアイテムと呼ばれる代物だったんだ。
 スラ丸には今後も、腐肉の洞窟に潜って貰う予定なので、これが一番無難かな。
 クリアスライムのままだと、大きいお宝は回収出来ないけど、コレクタースライムならどうにかなりそう。

「よしっ、決めた! コレクタースライムにする!」

 私が決断すると、どこからともなくスラ丸が現れて、コレクタースライムへと進化する道を転がって行った。
 その後ろ姿を見送りながら、私の意識は徐々に浮上していく。


 ──中途半端な時間に寝てしまったので、起床したのは深夜だった。
 きちんと布団の中で寝ていたから、ルークスが運んでくれたんだと思う。
 私を含めた孤児仲間が、みんなで寝ている場所は、孤児院の二階にある大部屋だよ。起きているのは私だけで、辺りは静まり返っている。

「あ、そういえば、スラ丸は……?」

 視線を軽く巡らせると、スラ丸が私の枕元に居座っている姿を発見した。
 進化しているはずだけど、身体は小さくなったね。街中にいるクリアスライムと、あんまり見た目が変わらない。
 違いと言えば、核になっている魔石が一回り大きくて、若干灰色っぽい半透明になっていること。前は白くて微かに発光していたんだけど、今は全く光っていない。
 前までのスラ丸の魔石は、光属性っぽかったから、これは無属性の魔石かも。

 ステホでスラ丸を撮影してみると、きちんと『コレクタースライム』という種族名が表示された。
 持っているスキルは【浄化】と【収納】の二つ。
 前者はクリアスライムから引き継いだスキルだけど、威力が上がっている。
 以前までは、手のひらを綺麗にするのがやっとだったのに、今では全身を綺麗にして貰えるよ。

 後者が進化してから取得したスキルで、これを使うと異空間にものを仕舞うことが出来る。所謂、アイテムボックスというやつだね。
 異空間の中は時間が止まっていて、生物は入らない。広さは現状だと、高さ、幅、奥行きがそれぞれ十メートルくらい。スラ丸の成長と共に、広くなるんだと思う。
 ちなみに、人間であれば、商人が取得出来る可能性のあるスキルの中で、【収納】は一番の大当たりだと言われている。

「これは運気が上がってきたかも……!! そうだ、スラ丸。お宝発見のご褒美があるんだよ」

「!?」

 私は【感覚共有】を使うことで、スラ丸に味覚と嗅覚を付与する。
 そして、ポケットから若干干乾びている葡萄を取り出し、スラ丸のぷにぷにボディに押し当てた。

 スラ丸は体内に葡萄を取り込むと──初めての甘味に感極まって、プルプル震えながら蕩けちゃったよ。
 よしよし、じっくりと味わってね。

「さて、もう眠くないし、どうしようかな……」

 私は小声で独り言を漏らし、窓の外に浮かんでいる満月を見上げた。
 月は二つ。青い月と、赤い月だ。これを見る度に、ここが異世界なのだと強く実感して、深い郷愁に駆られてしまう。

 ……お父さんとお母さん、元気にしているかな?
 前世の私は一から十まで、親不孝な娘だった。働かなかったし、孫の顔も見せてあげられなかったし、親より先に死んじゃったし……。
 今世では親がいないから、またもや親孝行とは無縁の人生になりそうで、ほろりと涙が零れる。

 ……あ、でも、マリアさんが私の育ての親なんだよね。生みの親に拘らなければ、親孝行は出来そうだ。
 私は子供部屋をこっそりと抜け出して、マリアさんが寝ている部屋へと向かう。

「マリアさーん、寝てますかー……? うん、寝てるね。では早速……」

 寝ているマリアさんに、こっそりと【再生の祈り】を使う。
 今度は特殊効果をオンにした状態で。さぁ、若返れ!
 私の魔力がごっそりと抜けて、暫定女神の大人アーシャが現れ、マリアさんに優しい光を浴びせる。

「──ん、んん? なんだい、もうお迎えが来ちまったのかい……。あたしゃまだ、ピチピチの六十代だってのに……」

 ぼんやりと目を覚ましたマリアさんが、私のスキルの演出を見て、妙な勘違いをしてしまった。まだ死なないので、安心してください。
 お仕事を終えた暫定女神が消えて、マリアさんは再び眠りに就く──かと思いきや、カッと目を見開いて飛び起きた。

「い、今のはなんだい!? 夢!?」

「わっ、び、びっくりしたぁ……!!」

「あん? アーシャ……? こんな時間に何してんだい?」

 マリアさんが私の存在に気が付いて、訝しげな眼差しを向けてきた。
 どうしよう、スキルのことを説明する? いやでも、若返り効果は厄ネタっぽいから、心配を掛けてしまうかも……。うん、やめておこう。
 ただ、なんの用事もないというのは不自然なので、適当な話題を捻り出した。

「えーっと、どうしても気になることがあって、眠れなくて……あの、スキルを後天的に取得出来る方法って、職業レベルを上げること以外で、ありますか?」

「ハァ……? 呆れたねぇ。スキルを三つも持っているのに、まだ欲しいのかい? まったく、欲張りな子だよ……」

「い、いやっ、そういう訳では……」

「まぁ、方法ならあるにはあるよ。スキルオーブを使えばいいさね」

 スキルオーブの存在は、一般的に知られているらしい。私が知りたいのは、その価値だ。

「それって、どれくらいの価値がありますか?」

「青天井だよ。極稀に、ダンジョンで見つかるんだけどねぇ……。この街のダンジョンから、最後にスキルオーブが出たのは、もう何年も前のことさ」

 供給は少ないけど、需要なら幾らでもある。だからこその青天井。
 数年前に発見されたスキルオーブには、【冷水連弾】という攻撃魔法が内包されており、それはオークションに掛けられて、白金貨三十枚で売れたらしい。
 スキルの名前からして、冷たい水をいっぱい飛ばすのかな?

 白金貨は一枚で、金貨百枚分の価値がある。
 金貨一枚が日本円で、十万円相当だとして……白金貨一枚、一千万円……それが三十枚だから……三億円!?
 凄い、宝くじの一等だよ。スラ丸がスキルオーブを見つけたの、本当に大金星だったね。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

公爵家御令嬢に転生?転生先の努力が報われる世界で可愛いもののために本気出します「えっ?私悪役令嬢なんですか?」

へたまろ
ファンタジー
ここは、とある恋愛ゲームの舞台……かもしれない場所。 主人公は、まったく情報を持たない前世の知識を持っただけの女性。 王子様との婚約、学園での青春、多くの苦難の末に……婚約破棄されて修道院に送られる女の子に転生したただの女性。 修道院に送られる途中で闇に屠られる、可哀そうな……やってたことを考えればさほど可哀そうでも……いや、罰が重すぎる程度の悪役令嬢に転生。 しかし、この女性はそういった予備知識を全く持ってなかった。 だから、そんな筋書きは全く関係なし。 レベルもスキルも魔法もある世界に転生したからにはやることは、一つ! やれば結果が数字や能力で確実に出せる世界。 そんな世界に生まれ変わったら? レベル上げ、やらいでか! 持って生まれたスキル? 全言語理解と、鑑定のみですが? 三種の神器? 初心者パック? 肝心の、空間収納が無いなんて……無いなら、努力でどうにかしてやろうじゃないか! そう、その女性は恋愛ゲームより、王道派ファンタジー。 転生恋愛小説よりも、やりこみチートラノベの愛読者だった! 子供達大好き、みんな友達精神で周りを巻き込むお転婆お嬢様がここに爆誕。 この国の王子の婚約者で、悪役令嬢……らしい? かもしれない? 周囲の反応をよそに、今日もお嬢様は好き勝手やらかす。 周囲を混乱を巻き起こすお嬢様は、平穏無事に王妃になれるのか! 死亡フラグを回避できるのか! そんなの関係ない! 私は、私の道を行く! 王子に恋しない悪役令嬢は、可愛いものを愛でつつやりたいことをする。 コメディエンヌな彼女の、生涯を綴った物語です。

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

人生負け組のスローライフ

雪那 由多
青春
バアちゃんが体調を悪くした! 俺は長男だからバアちゃんの面倒みなくては!! ある日オヤジの叫びと共に突如引越しが決まって隣の家まで車で十分以上、ライフラインはあれどメインは湧水、ぼっとん便所に鍵のない家。 じゃあバアちゃんを頼むなと言って一人単身赴任で東京に帰るオヤジと新しいパート見つけたから実家から通うけど高校受験をすててまで来た俺に高校生なら一人でも大丈夫よね?と言って育児拒否をするオフクロ。  ほぼ病院生活となったバアちゃんが他界してから築百年以上の古民家で一人引きこもる俺の日常。 ―――――――――――――――――――――― 第12回ドリーム小説大賞 読者賞を頂きました! 皆様の応援ありがとうございます! ――――――――――――――――――――――

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

捨てられ従魔とゆる暮らし

KUZUME
ファンタジー
旧題:捨てられ従魔の保護施設! 冒険者として、運送業者として、日々の生活に職業として溶け込む従魔術師。 けれど、世間では様々な理由で飼育しきれなくなった従魔を身勝手に放置していく問題に悩まされていた。 そんな時、従魔術師達の間である噂が流れる。 クリノリン王国、南の田舎地方──の、ルルビ村の東の外れ。 一風変わった造りの家には、とある変わった従魔術師が酔狂にも捨てられた従魔を引き取って暮らしているという。 ─魔物を飼うなら最後まで責任持て! ─正しい知識と計画性! ─うちは、便利屋じゃなぁぁぁい! 今日もルルビ村の東の外れの家では、とある従魔術師の叫びと多種多様な魔物達の鳴き声がぎゃあぎゃあと元気良く響き渡る。

処理中です...