他力本願のアラサーテイマー ~モフモフやぷにぷにと一緒なら、ダークファンタジーも怖くない!~

雑木林

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一章 孤児院卒業編

7話 スラ丸の帰還

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 ──早朝。孤児院の食堂にて、私は渋い顔をしていた。
 食事時になると、いっつもこんな顔になる。ここで出される食事は、美味しくないからね。

 ブニブニして獣臭い謎のお肉と、ピリ辛な水草が入ったスープ。これが、朝晩と二回に分けて出てくる。
 味付けは塩のみで、たまに入っている小魚の切り身に、贅沢を感じるけど……これも別に、美味しい訳じゃない。前世の食生活と比べると、雲泥の差だよ。

 私以外の孤児は、比較対象になる美味しい食事を知らないので、食事とはこういうものだと思い込んでいる。
 だから、渋い顔で食事をしているのは、私だけ……。
 そんな私の食生活にも、ほんの僅かな楽しみがある。それは、マリアさんが月一で調達してくる一房の葡萄だった。

「ガキどもっ、喜びな!! 今日はデザートがあるさね!! 一人一個だから、横取りなんてするんじゃないよ! 特にトール!!」

「チッ、クソババア!! 一々名指しすンじゃねェ!!」

 朝食をとった後、マリアさんがトールを注意してから、葡萄を一粒ずつみんなに配っていく。
 貴重な甘味を貰えて、子供たちが喜色満面の笑みを浮かべた。
 一人で一房食べるなんて贅沢は出来ないけど、一粒だけでも幸せを噛み締めることが出来るんだ。

「うーん……。この葡萄、もしかしたら使えるかも……」

 みんなが葡萄を口に放り込んでいく中、私はそれをジッと見つめた。
 この葡萄を差し出せば、スラ丸のご機嫌を取れるかもしれない。
 スキル【感覚共有】を使って、スラ丸に味覚を付与し、甘いものを食べさせてあげれば、きっと喜んでくれると思う。

 無論、私は葡萄を自分で食べたい。けど、成長したスラ丸に復讐されるのが怖いので、この葡萄は命綱として取っておくことにした。
 今現在、スラ丸は私との繋がりを辿って、ダンジョンの出入り口を目指している。
 何事もなければ、今日中に帰って来ちゃうよ。

「あ、アーシャちゃん……。ぶ、葡萄、た、食べない、の……?」

 私の隣に座っている孤児仲間の少年が、私が食べていない葡萄を物欲しそうに見つめながら、ぼそぼそと喋り掛けてきた。
 彼は丸顔で目や鼻も丸く、身体まで丸っこいという、太っちょな六歳児。名前はシュヴァインくん。

 やや短めの髪は緑色で、瞳は山吹色。私よりも背が低くて、いつもオドオドしているので、頼りない印象を受ける。
 でも、道端に咲いている野花を人に踏まれない場所へ移したり、泣いている子供の傍に何日でも寄り添ったりと、優しさに定評があるんだよ。

「今は食べないだけなの。あげないからね」

「そ、そっか……。い、いらなくなったら、ボクに言ってね……?」

 ご覧の通り、シュヴァインくんは食い意地が張っている。……実は私、彼のことを疑っているんだ。
 みんなと同じ食生活を送っているはずなのに、この孤児院で太っているのは、彼だけなんだもの。

 ……盗み食い、しているんじゃないのかなって。

「アーシャっ、今日も修行させて! お願いっ!」

「うん、分かった。それじゃあ、庭に出よっか」

 ルークスにお願いされて、私は壁師匠を庭に用意した。
 最近の彼は、垂直の壁を駆け上がる修行も始めたので、高さマシマシの壁師匠だよ。
 ルークスが修行をしている間、私は【感覚共有】を使って、スラ丸の様子を確認するのが、ここ最近の日課になっている。

 スラ丸の視点の高さが、以前の二倍になっているので、身体の大きさも二倍っぽい。
 それと、スラ丸は身体の中に、お宝と思しきものを幾つか溜め込んでいる。
 短剣とか宝玉とか、金目のものが数点。復讐は怖いけど、お宝は楽しみだね。

「──あのっ! ぼ、ボクも、修行! さ、させて、貰えたり……しない……?」

 突然声を掛けられて、私の肩がビクッと跳ねた。
 振り向くと、オドオドしているシュヴァインくんの姿がある。

「……え? 修行って、ルークスがやってるやつだよ? シュヴァインくん、本気なの?」

「ほ、本気だよ……!! ボク、守りたい子が、いるんだ……!!」

「ふぅん……。一応言っておくけど、修行を頑張っても、ご褒美はないからね? 葡萄もあげないよ?」

「う、うん……っ、わ、分かってるから……!!」

 シュヴァインくんは吃っているけど、その眼差しと声色からは、とても強い意志が感じられた。
 心意気は買う。でも、ルークスがやっている修行は暗殺者用なので、彼には合わないかも……。

「うーん……。そもそも、どうして私に声を掛けたの? 修行なら、一人でも出来るよね」

「る、ルークスくんが、目に見えて、強くなってるから……。あれ、アーシャちゃんの、お陰かなって、思って……」

「なるほど……。まぁ、育ててあげるのは、吝かじゃないよ。それで、シュヴァインくんは私に、どんな恩返しをしてくれるの?」

「ど、どんな……? えっと、ど、どうしよう……?」

 私は子供が相手でも、ガッツリと見返りを求める。
 壁師匠で稼がないと、将来が行き詰まっちゃうからね。
 肩を縮こまらせているシュヴァインくんは、どうやって私に恩返しするか、思い付かないみたい。
 だったら、助け船を出してあげよう。

「ルークスは私を守ってくれるって、約束してくれたよ」

「そ、それなら、ボクもそれで……!!」

「シュヴァインくんには、守りたい人がいるんだよね? それって、私なの?」

「ち、違うよ! ボクが守りたいのは、フィオナちゃんで……!! で、でもっ、アーシャちゃんも、守ろうかと……」

 『フィオナちゃん』とは、赤い長髪をツインテールにしている女の子だ。
 私たちと同い年の孤児仲間なんだけど、気が強くてツンツンしているので、私は近寄らないようにしている。
 彼女がシュヴァインくんと一緒にいるところ、かなり頻繁に見掛けるから、相思相愛なのかな……。

 リア充……うっ、頭が……!!

「私とフィオナちゃんが同時にピンチになって、片方しか守れない場合、キミはどっちを守るの?」

「え……あ、う……それ、は……」

 目の前のリア充を困らせたくて、ちょっと意地悪な質問をしてしまった。
 シュヴァインくんが泣きそうになっているので、私は慌てて謝る。

「ご、ごめんごめんっ、答え難いよね! いいよ、その場合はフィオナちゃんを守っていいから! ね、だから泣かないで!」

「う、うん……。ありがとう、アーシャちゃん……」

「それじゃあ、シュヴァインくんも今日から、私の弟子ということで! とりあえず、ステホを見せて貰える?」

「し、師匠……!! お願い、します……!!」

 私はシュヴァインくんのステホを見て、彼の職業とスキルを確認する。

 シュヴァイン 騎士(1)
 スキル 【低燃費】【挑発】

 騎士というのは、誰かを守ることに長けた職業だよ。
 彼が最初に貰った職業スキルは【挑発】で、これを使うと敵視を自分に集められる。
 RPGであれば、パーティーに一人は欲しい前衛の壁役だね。

 少し気になるのは、もう一つのスキル【低燃費】──これは、私の【他力本願】と同様に、先天性のスキルらしい。
 詳細を確かめてみると、『自分が使う様々なエネルギーの消耗を抑えられる』という、常時発動型のスキルだった。

 シュヴァインくんが太っているのは、盗み食いをしているからだと疑っていたけど、違ったんだ。
 このスキルが原因で、カロリーが減り難いみたい……。疑って、ごめんね。

 スキルを使うのに必要な魔力や体力、その他諸々の消耗を抑えられるので、物凄く有用なスキルだと思う。
 ……まぁ、太りやすくなるというデメリットがあるから、私は羨ましいなんて思わないけど。

「──よし、決めた。シュヴァインくんには、当たり強さを鍛えるための修行をして貰うね。それと、走り込みも」

「が、頑張る……!! ボクっ、立派な騎士に、なってみせるから……!!」

 前衛の壁役は、身体を張って敵を止めないといけない。だから、当たり強さが重要だと思う。
 壁師匠に向かって体当たり、一日千回を目標にして貰おう。

 シュヴァインくんに指示を出してから、私は再び【感覚共有】を使って、スラ丸の様子を確かめようとした。
 このタイミングで、トントンと肩を叩かれる。今度は誰かな?

「──って、スラ丸!? 帰って来たの!?」

 私の後ろには、身体の大きさが二倍になっているスラ丸の姿があった。
 心なしか、ぷにぷにな身体がムキムキになっている気が……いや、流石に気のせいかも。
 スラ丸が怒っている様子は……ない、と思う。恭しくお宝を差し出してくる辺り、主従関係は継続していると見て、問題なさそう。

「スラ丸、ご苦労様。私はスラ丸のこと、信じてたよ」

 労いの言葉を掛けてから、ステホでお宝の記念撮影をしておく。
 まず最初は、青い宝石が嵌められている銀の杯。見るからに値打ちものだね。
 撮影した瞬間に、その杯の詳細が表示された。どうやら、ステホで鑑定出来るのは、魔物だけじゃなかったみたい。

 『聖なる杯』──魔力を込めると、聖水が生成される。
 試しに握ってみると、身体からグッと魔力が抜けて、杯の中が水で満たされた。
 これが聖水だと言われても、普通の水にしか見えない。指で触ったり、軽く舐めたりしても、やっぱり普通の水だよ。
 この水もステホで撮影したら、何か分かるのかな?

 『聖水』──不浄を祓う水。
 あっさりと判明した。多分だけど、ゾンビとかにダメージを与えられる水だよね。
 聖水が売り物になるのであれば、それを生成出来る杯は、大金に化けそう……。
 今の私が大金を持っても、絶対に管理出来ないので、聖なる杯は隠し持っておく。

「スラ丸、次のお宝を出して」

 私が命令すると、スラ丸は身体の中から一本の短剣を取り出した。
 その刃は銀色に輝いており、ゾッとするほど美しい。両刃で刃渡りは十五センチ程度。柄は赤黒くて禍々しく、刃の美しさと見比べると、余りにも醜い。

 『渇きの短剣』──刃が血液を吸収して、耐久度が回復する。
 撮影してみると、便利な武器だと判明したよ。これは、ルークスにあげよう。きっと喜んでくれると思う。

「スラ丸、次」 

 私が催促すると、スラ丸は最後のお宝を取り出した。
 それは、手のひらサイズの宝玉だ。神々しい輝きと、無数の白い象形文字を内包している。
 早速、ステホで撮影してみると、驚くべきアイテムであることが判明した。

 『スキルオーブ』──額に押し当てると、スキル【再生の祈り】を取得出来る。
 職業レベルを上げること以外で、後天的にスキルを取得出来る方法があるなんて、全く知らなかったよ。

 私はなんの躊躇いもなく、スキルオーブを自分の額に押し当てる。
 すると、それは一瞬だけ白い光を放って、額に吸い込まれた。

 アーシャ 魔物使い(7) 魔法使い(5)
 スキル 【他力本願】【感覚共有】【土壁】【再生の祈り】
 従魔 スラ丸(分裂可能・進化可能)

 スラ丸が暴れていたおかげで、魔物使いのレベルの上がり方が凄まじい。
 ルークスのために、壁師匠を出し続けているから、魔法使いのレベルもしっかりと上がっているよ。
 スラ丸の進化に関しては、とりあえず後回しで。

「さて、肝心の新スキルは──」
 
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