他力本願のアラサーテイマー ~モフモフやぷにぷにと一緒なら、ダークファンタジーも怖くない!~

雑木林

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一章 孤児院卒業編

4話 壁師匠

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 職業選択の儀式が終わって、私たちは無事に孤児院まで帰ってきた。
 帰路を辿っている最中、私はずっとステホと睨めっこをしていたけど、どうして職業が二つもあるのか、答えが見つからない。
 ズルをしたと思われるのも嫌なので、神父様には話さなかったけど、ちょっと不安だよ。

「マリアさん、実は……私の職業が二つもあるんですけど、これって大丈夫なんですか……?」

「二つぅ……? ありゃ、本当だね。職業が二つもある奴なんざ、初めて見たよ……」

 こっそりとマリアさんにステホを見せたら、彼女も困惑してしまった。

「神父様には、黙っていたんです。不味かったですか……?」

「んー、そうさねぇ……。まぁ、あんたの職業が二つあることで、誰かが不利益を被る訳でもなし。気にしなくても、いいんじゃないのかい?」

「そう、ですかね……? うーん……。うんっ、そうですよね!」

 私はマリアさんの言葉に納得して、不安な気持ちをポイッと捨てた。
 もしかしたら、選べる職業が一つ多いのは、前世の私の分かもしれない。
 ほら、前世では無職だったから、『今世では二人分働きなさい!』って、神様が言っているのかも。

「肝心のスキルは、どうなんだい? 最初に一つ、何か貰っているだろう?」

「あ、まだ確認してませんでした」

 私はステホを握り締めながら、スキルを確認したいと念じた。
 こうすることで、ステホに浮かび上がる文字が変化する。

 アーシャ 魔物使い(1) 魔法使い(1)
 スキル 【他力本願】【感覚共有】【土壁】

 職業が二つあるし、スキルも二つあるよねって期待したけど、何故か三つもある。
 一つ目のスキル【他力本願】の詳細を確かめると、『攻撃系以外のスキルの効力が増して、更には特殊効果が追加される』と書いてある。要するに、スキルを改良するスキルだね。
 その代わりに、攻撃系スキルの取得不可、他者への攻撃不可という、大きなデメリットがあって──

「これが原因じゃんッ!!」

 私は思わず、ステホを床に叩き付けそうになった。
 私が呪いだと思っていた現象は、明らかにこのスキルが原因だよ。
 蚊に刺されても、黙って見ていることしか出来ない無力感。それを思い返しながら、地団駄を踏んでいると、マリアさんが私のステホを覗き込んだ。

「スキルが三つってことは、二つが職業スキルで、一つは先天性スキルかい……。こりゃあ、珍しさの大安売りさね」

「先天性スキルって、生まれ持ったスキルってことですか……? そんなものが、あるんですね……」

 どうしよう、全然嬉しくない。デメリットがなければ、諸手を挙げて喜んだのに。

「職業が二つなんて見たことないが、先天性スキルなら何度か見たことがあるさね。大抵、なんらかの欠点があるスキルだよ」

「うへぇ……。その、スキルを削除することって……」

「無理さね。諦めて、上手く付き合っていきな」

 マリアさんにそう諭されて、私はガクッと項垂れた。
 ……でもまぁ、悪いことばっかりじゃないよ。攻撃系以外のスキルが、強化される訳だし。

 気を取り直して、次は【感覚共有】というスキルの詳細を確かめる。
 これは魔物使いの職業スキルで、従属させた魔物──『従魔』と私の感覚を共有出来るらしい。
 自分の従魔以外には使えないし、私と従魔の距離が遠すぎても使えないけど、かなり便利だと思う。

 このスキルに、【他力本願】の影響が及んでおり、感覚を共有出来る距離が大きく伸びていた。
 更に、追加されている特殊効果は、五感を持たない従魔に対して、私と同等の五感を付与出来るというもの。

「目、耳、鼻がない魔物でも、私と同じように、見て、聴いて、嗅ぐことが出来るんだよね……? これ、凄いかも……」

 このスキルに関して少し怖いのは、私が従魔の痛覚を共有してしまうことだ。
 痛覚がない従魔に痛覚を与えたら、弱体化することになるかもだし、よく考えて使わないとね。
 どの感覚を共有するのかは私が選べて、特殊効果はON/OFFの切り替えが出来る。だから、あんまり深刻になることでもないけど、きちんと留意しておこう。

 最後に確認するのは、魔法使いの職業スキル【土壁】の詳細。これは名前の通り、土の壁を出す魔法だった。
 魔法でも体技でも、スキルという大枠に入るんだけど、これらの違いは消耗するリソースだよ。魔力を消耗するか、体力を消耗するか、みたいな感じ。

 【土壁】は【他力本願】の影響で、強度が増している。これは予想通りだったけど、追加されている特殊効果が斜め上だった。
 この特殊効果に、名前を付けるとしたら、『壁師匠』だよ。
 誰かが私の【土壁】を利用して修行すると、その効率が上がるらしい。
 例えば、剣士が剣で【土壁】に攻撃した場合、レベルアップが早くなるってことかな。

「これで、ルークスを鍛えてあげるとか、悪くないのでは……?」

 私はルークスのことが好きだ。恋愛感情は皆無だけど、親愛の情ならバケツ一杯分は溜まっている。
 この世界で、彼に生き抜いて貰うために、後方腕組み師匠面をすることにしよう。
 そう決めたところで、まだ私のステホを覗き込んでいるマリアさんが、渋い顔をしながら呟く。

「土壁とはまた、地味なもんを引いちまったねぇ……」

「もしかして、外れスキルですか?」

「いいや、悪くはないさね。ただ、魔法使いに何よりも求められるのは、攻撃力だからねぇ……。攻撃魔法が使える上で、土壁も使えるってんなら、重宝されるよ」

「残念ながら、攻撃魔法は私とは無縁ですね……」

 マリアさんは【土壁】に低評価を入れたけど、私は特殊効果込みで満足している。
 早速、ルークスを呼んで庭に出よう。 

「──と、そんな訳で、今日はルークスを鍛えるために、協力者をお呼びしました」

「協力者? どこかな、見当たらないよ?」

 私に連れ出されたルークスは、きょろきょろと辺りを見回している。
 私は庭の地面に手を置いて、縦横五メートル、厚さ一メートルの【土壁】を出現させた。
 この際に、身体からフワっとした何かが抜けていく。きっと、これが魔力だね。

「こちら、壁師匠です。まずは壁師匠に、一礼してください」

「う、うん。分かった。よろしくお願いします」

 ルークスは律義に壁師匠へ向かって、深々と一礼した。
 当たり前だけど、これはただの土塊だよ。生きてないからね。
 さて、ここから具体的に、どう鍛えるべきか……。ルークスの職業は暗殺者だから、それっぽい攻撃を壁師匠にぶつけて貰うとか?

 パッと思い付くのは、懐に忍ばせそうな暗器による攻撃。投擲なんかもそれっぽいね。
 短剣があればいいんだけど、調理場にある包丁くらいしか、孤児院には刃物がない。
 包丁を持ち出したら、絶対にマリアさんが怒るので、今のルークスに出来ることは──

「よしっ、決めた! ルークス、壁師匠に石を投げて。真ん中を狙ってね」

「分かった! えいっ、えいっ」

 ルークスの拙い投石を受けても、壁師匠には掠り傷一つ付かない。
 触ってみた感じ、鉄に匹敵するか、それ以上の硬さがある。

「うんうん、良い感じだね。……そういえば、ルークスはどんなスキルを貰ったの?」

「オレは【鎧通し】を貰ったよ! えいっ、えいっ」

 そのスキルの詳細を聞いてみると、『防御力を無視する刺突攻撃を放つ』という、凄そうなものだった。
 暗殺者のスキルって、他にどんなものがあるのか分からないけど、【鎧通し】は大当たりだと思う。防御力無視の攻撃なんて、弱い訳がないよね。

「実際に使っているところ、見てみたいかも。先端が尖った木の棒で、壁師匠を突き刺してみて」

「分かった! やってみる!」

 ルークスは適当な木の棒を拾ってきて、壁師匠にスキル攻撃を行った。
 すると、木の棒の先端が、十センチほど壁師匠に突き刺さる。
 師にダメージを与えるなんて、中々やるね。師を越えて往け、ルークス……!!

「スキルを使った後の疲労感とか、どんな感じ?」

「はぁ……っ、はぁ……っ、かなり、疲れるよ。後三回も使ったら、動けなくなりそう……」

 派手な動きをした訳でもないのに、ルークスは息を乱していた。体技だから、体力を消耗したんだ。
 職業レベルを上げていくと、その職業に応じた能力も上がっていくらしい。
 でも、暗殺者は体力の上昇がメインではないはず……。素早さとか、精神力とか、伸びるならそっちかな。

「うーん……。体力を鍛えるためのトレーニングも、したいよね……」

 このまま、投石と刺突の修行を続けてもいいけど、一つ思い付いたことがある。
 私は休憩を挟んで魔力を回復させながら、壁師匠を地面に寝かせるように生成して、何枚も繋げていった。

「──アーシャ、今度は何をすればいいの?」

「この上を走って。体力を付けるなら、走り込みが一番だからね。それと、足音を立てないように走るのもいいかも。それとそれと、余裕があるうちは走りながら、石も投げてね」

 走るという動作は地面を蹴ることなので、その地面に壁師匠を敷けば、壁師匠が攻撃を受けている判定になる。
 これなら『修行に利用している』から、ルークスの脚力と体力の向上に繋がるはずだよ。

 足音を立てないように走ることは、かなり暗殺者っぽいので、これもレベルアップに繋がりそう。
 走っている最中、起立させている壁師匠に向かって石を投げれば、投擲技術も伸びていく。

 体力、脚力、隠密性、投擲技術を同時に鍛えられるという、素晴らしい効率の修行だ。
 後はルークスの努力に任せて、私は木陰でのんびりする。頑張って、強くなってね。

「はぁ……っ、はぁ……っ、アーシャ……っ、ありがとう! 大好き!!」

「うん、どう致しまして」

 一生懸命に修行しているルークスが、息を切らせながらも爽やかな笑顔で、お礼を言ってきた。
 誇り高い彼には、強さに対する憧れがある。だから、明確に強くなれる道筋が見えて、とっても嬉しそうだ。
 
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