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四章

エピローグ

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 ──俺たちの牧場に新たな住人が増えてから、早いもので数週間が経過した。

 不毛の大地の上空には冬の寒空が広がり始めたが、牧場内は俺の魔法のおかげで暖かいので、とても快適に過ごせている。

 つい先日、住人全員を巻き込んで盛大にパーティーを行ったので、新顔も問題なく牧場に馴染むことが出来た。それと、身近な者に重大な隠し事はしておきたくなかったので、ルーミア、ルビー、ゼニスの三人には、この牧場が抱えている複数の火種について教えてある。

 一つ目は『ウッキーでも分かる錬金術』という、読むだけで誰でも天職を増やせる書物。これは嘗て、人魔大戦の引き金になった『ウッキーでも分かる中級魔法』と、同じシリーズのマジックアイテムだ。これに関しては、ルビーとゼニスは元々知っていたので、ルーミアにだけ説明した形となっている。

 二つ目は食べると若返る世界樹の果実──『仙桃』で、三つ目は『ルーミア=魔王』という図式。

 ルーミアは一つ目の書物の下りで、ムンクの叫びのような反応を見せている。彼女はウッキーでも分かる中級魔法の書を燃やすために、人間に大戦を仕掛けた張本人なのだから、こういう反応をしてしまうのも無理はない。

 ゼニスは二つ目の仙桃の下りで、思考が停止してしまったのか、目を見開いたまま微動だにしなくなった。想像を絶する金銭価値があると瞬時に理解したからか、それとも別の理由があるのか、何にしても酷く驚いていることは確かだ。

 ルビーは三つ目の魔王の下りで、白目を剥いて天を仰いだまま微動だにしなくなった。人類種にとっての最大最強の敵が、こんな身近に居て、あまつさえ『これから仲良くするように』と俺に言われたものだから、頭が真っ白になってしまったのだろう。

「──まあ、各々に色々な葛藤があると思うけど、これからよろしくな」

 俺はルーミアたちに軽く声を掛けてから、意識を別のところに移す。

 大草原に住む獣人たちに関してだが、俺たちの牧場に取り込めなかった氏族とは、彼らが狩りで得た魔物の非可食部(骨や毛皮など)と、牧場産の食べ物を定期的に交換することになった。

 こちらとしては無償で提供しても良かったのだが、最終的に交換レートは2:8くらいで落ち着いた。人間の俺から無償で何かを恵んで貰うというのは、心情的に嫌だったのだろう。

 牧場産の食べ物で胃袋を掴んでしまえば、人間の俺に対する心象も大分良くなると思うので、本格的に懐柔するのはその後になる。

 それから、これが一番重要なことなのだが、各氏族に対して、『どうしても子供を捨てる必要がある場合、アルス牧場で引き取って育てるので、必ずこちらに連れて来るように』という話を飲み込ませた。

 これに関しては、俺が各氏族の集落に足を運んで説得した訳ではなく、レオナがインフィと共に足を運んで、砲艦外交(ドラゴン)を使って約束させたのだ。

 砲艦外交によって、そのまま全ての獣人を牧場に取り込んでしまえば良いという意見もあったが、そこまですると禍根を残すことになりそうなので、俺は首を縦に振らなかった。



 ──当初の予定通り、俺たちはイデア王国の各地に牧場の遠隔地を作り、難民に食糧支援をする活動も開始した。

 この慈善活動ではルーミアが率先して働いており、行く先々で大きな金盥を使って、配給用のスープを沢山作っている。そのため、一部の地域では『炊き出しの聖女ルーミア』とか呼ばれ始めた。三色メイドも当然、ルーミアと一緒に活動中だ。

 ルーミアは俺たちの仲間になる前に、貴族同士の相互援助を目的とした『救援会』なる組織を立ち上げていたので、ホモーダにもヨクバールにも与さなかった中立派貴族の領地で活動する際は、色々と協力して貰うことが出来た。

 一応、俺はイデア王国の王子だったのだが、そんな俺よりもルーミアの方が太いパイプを持っているのは、何だか釈然としない。……まあ、俺の肩書は追放されてから、ほぼほぼ無価値になったので、仕方のないことか。

 ちなみに、パンツァーコッコーのコケちゃんは、引き続きルーミアの傍に付けてある。今度は監視ではなく、護衛だ。ルーミアは今まで通り、コケちゃんを大いに可愛がっており、コケちゃんは無愛想ながらもルーミアの傍から離れないので、この二人──もとい、一人と一羽は今後も仲良くやっていけるだろう。

 慈善活動を行う上で、俺はこの機会に、人間と獣人の関係が良くなるようにと、一つ手を打った。それは、牧場に住む獣人から有志を募って、ルーミアが指揮する配給班に参加させることだ。

 イデア王国の民は獣人を蛮族だと思って嫌厭しているが、窮地に陥っているところを獣人に助けて貰ったら、もう邪険には出来なくなるはずだ。種族の垣根を越えて、皆が仲良くなれるのなら、それに越したことはない。

「……アルス。これ、もっと飲みたい」

「ルゥ……。これは難民のために作ったスープなんだぞ。もう十杯も飲んだんだから、我慢しなさい」

 俺とルゥには、ギャルから貰った豊穣の加護──『緑の手』があるので、ルーミアたちが配給を行っている横で、魔物に荒らされた田畑を豊かにしたり、新しく田畑を作ったりしていた。

 一仕事終えた後は現地の難民たちと一緒に、配給用の具沢山スープを貰っているのだが、ルゥはいつも飲み食いし過ぎて、難民たちを苦笑させている。

 まあ、その場に居る全員が満腹になるまで、スープを作り続けることにしているので、ルゥが幾ら飲み食いしても、難民の分が無くなる訳ではないのだが……。先日まで飢餓で苦しんでいた人たちに、『見ているだけでお腹いっぱいになる』と言わせるのは、流石にどうかと思う。

 ちなみに、現地で魔物に襲われた際はルゥが一蹴しているので、俺たちの英雄様はあっという間に皆の人気者になった。モフモフな獣耳と尻尾が生えた美少女に命を救われて、完全に心がやられてしまった人間は少なくない。

「アルス様っ! こっちの貝殻倉庫の中身、無事に全部売れたのですぅ!!」

「おお、ご苦労様。メルもルーミアからスープを貰って、一緒に休憩しよう」

 俺たちがスープを飲んでいると、商人たちとの商談を終わらせたメルが戻って来た。

 メルには行く先々で、その地域一帯の商人たちに、牧場産の肉、卵、野菜、それからダンジョン産の塩や魚を卸して貰っている。

 転売で大儲けしようとする悪徳商人を選別して弾いたり、地域一帯に満遍なく食料を行き渡らせるために、どの商人にどれくらいの量を売るのか等、その辺りのことを俺はメルに丸投げしたのだ。

 イデア王国の行商人たちは、魔物が活性化しているこのご時世でも、護衛を付けて街や村を行き来してくれるので、感謝の意味も込めて、食料はタダ同然の値段設定にしてある。

 難民からはお金を取っていないので、商人に卸す食料も無償で良かったのだが、多くの商人は『それだとプライドが許さない』と言っていた。このご時世に行商を続けているような商人たちなので、随分と気骨があるらしい。

 商人と言えば、新たに仲間に加わったゼニスだが──彼女が扱う高級品は、このご時世だと中々売れなくなっている。そのため、今は転移魔法を使って、イデア王国の各地に食料を配って回っていた。

 俺がこんなことを思うのは失礼かもしれないが、がめついゼニスが慈善活動に精を出す姿は、とても意外だ。

 本人曰く、『感謝の買い時は今や!』『こういう活動が後から大金に化けるんやで!』とのことらしいので、純粋な善意という訳ではなさそうだが、偽善でも何でも助かる命があるのなら、それは素晴らしいことだろう。

 ちなみに、沢山の白金貨を費やして、俺がゼニスを『有為な人材として買う』という話は、いつの間にか『お嫁さんとして買う』という話にすり替わっていた。

 ……なので、もう気にしないことにした。俺は最初から、有為な人材としてゼニスを欲していたのであって、別にお嫁さんのゼニスは求めていないのだ。

 いつの日か、このことで大いに揉めそうだが、それは未来の俺に解決して貰おう。

 ──こうして、俺たちが寒空の下、毎日のように慈善活動に勤しんでいると、『ホモーダとヨクバールの王位継承争いに決着が付いた』という、重大な知らせが舞い込んできた。

 結果から言えば、剣聖ホモーダは賢者ヨクバールに敗れてしまったらしい。

 なんでも、死んだと思われていたショッパイーナ男爵が、実は生け捕りにされており、ヨクバールは彼を人質として使うことで、ホモーダを封魔の結界の外に誘き出したそうだ。

 全裸で張り付けにされたショッパイーナ男爵を助けるために、ホモーダは全軍を率いて平地へ赴き、そこに布陣していたヨクバール軍に突撃。

 ホモーダは総大将でありながら、誰よりも前に出て、むくつけき男たち(味方)に自らのお尻を見せつけ、彼らを大いに鼓舞したのだとか……。

 ヨクバールが使う大魔法によって、両軍が激突する前にホモーダ軍は甚大な被害を受けたが、それでも激情♂に駆られたホモーダ軍は止まらず、ヨクバール軍を相手に大暴れした。

 しかし、王国の各地から援軍を待つ立場だったホモーダ軍は、元々数が少なかったこともあって、戦局はヨクバール軍が終始優勢。

 ホモーダは最後の一人になっても暴れ続け、満身創痍になりながらもショッパイーナ男爵のもとに辿り着き、二人は熱い抱擁と口付けを交わしながら、ヨクバールの大魔法によって火の海に沈んだ──。FIN

「何と言うか……まあ、その、頑張ったんだな……」

 俺はホモじゃないから、感情移入が非常に難しい。けど、ホモーダが愛に生きて、壮絶な最期を遂げたことは伝わってきた。ここは素直に、ご冥福を祈ろう。

 ちなみに、ホモーダ軍はホモの結束で纏まっていたので、降伏した者は誰一人として居なかったそうだ。そのせいで、ヨクバール軍の被害も甚大なものとなり、結果的に見ればイデア王国の軍事力は、途轍もなく弱体化したことになる。

 つまり、魔物の活性化に対処出来るような力が、この国には殆ど残されていない。

 ……ああ、それと、ヨクバールが最終的な勝者になったことで、ホモバッカ王国は滅び、イデア王国が再興された。新生イデア王国は同性愛を固く禁じており、ヨクバールは『ホモ狩り』なる政策を施そうとしているらしい。きっと、国中の男たちに、良い男の絵を踏ませたりするに違いない。

 ──と、まあ、そんなこんなで、大きな動乱は決着を迎えたが、まだまだイデア王国は荒れそうだ。これは早急に、世界樹を生やしまくって、魔物の出現を抑制する必要がある。
 




※あとがき
書籍化が決定しました。3月下旬に刊行予定です。
書籍化に伴い、タイトルが少し変わります。

旧『第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ。』

新『ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ』
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