2 / 2
閉鎖病棟の窓際で
しおりを挟む
病棟の窓から見る外の景色は、特に風情がある訳ではない。別棟のカンファレンス室とただの木々。もっと癒されるような景色だといいのに。
わたしは今、外がどのくらい暑いのか知らない。
そういえば先に退院していったあいつとの会話を思い出す。
「あそこ(カンファレンス室の扉の前)に傘立てがあります。あれを見て何を思いますか?」
「…特に何も」(わたし)
「残念。あれには改善の余地があります。隣のカンファレンス室の前の傘立てには仕切りがあって、傘がばらばらにならないようにしてあります。あの傘立てにも仕切りがあるといいと思いませんか?」
「…」
(ちなみに彼は本当にこんな風な口調で話した)
思い出すにはあまりに内容の無い会話だった。そして今、ふとあの傘立てを見ると、なんと仕切りがついていたのだ!あいつは預言者か何かだったのだろうか。元気でやってるといいなあ。
そんなことを考えることしか今のわたしにはできないのだと、改めて気付かされる。
傘立ての前でセミが死んでいる。
わたしは、外の気温も、木々を撫でる風もその行方も、太陽の眩しさも、外の空気の匂いや心地良さも、知れないのだ。
病棟内の換気扇の音やせわしいナースの様子や患者の叫び声などにはもう飽きた。
逃げ出してしまいたいとは思わない。
ただわたしには、まだ知らないことがたくさんある気がして、窓の開かない閉鎖病棟の窓際で、思いを馳せてしまうのだ。
わたしは今、外がどのくらい暑いのか知らない。
そういえば先に退院していったあいつとの会話を思い出す。
「あそこ(カンファレンス室の扉の前)に傘立てがあります。あれを見て何を思いますか?」
「…特に何も」(わたし)
「残念。あれには改善の余地があります。隣のカンファレンス室の前の傘立てには仕切りがあって、傘がばらばらにならないようにしてあります。あの傘立てにも仕切りがあるといいと思いませんか?」
「…」
(ちなみに彼は本当にこんな風な口調で話した)
思い出すにはあまりに内容の無い会話だった。そして今、ふとあの傘立てを見ると、なんと仕切りがついていたのだ!あいつは預言者か何かだったのだろうか。元気でやってるといいなあ。
そんなことを考えることしか今のわたしにはできないのだと、改めて気付かされる。
傘立ての前でセミが死んでいる。
わたしは、外の気温も、木々を撫でる風もその行方も、太陽の眩しさも、外の空気の匂いや心地良さも、知れないのだ。
病棟内の換気扇の音やせわしいナースの様子や患者の叫び声などにはもう飽きた。
逃げ出してしまいたいとは思わない。
ただわたしには、まだ知らないことがたくさんある気がして、窓の開かない閉鎖病棟の窓際で、思いを馳せてしまうのだ。
0
お気に入りに追加
1
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
フリー朗読台本
𝐒𝐀𝐘𝐀𝐊𝐀
エッセイ・ノンフィクション
これは、私の心に留まる言葉たち。
この言葉たちを、どうかあなたの声で生かしてあげて。
「誰かの心に残る朗読台本を。」
あなたの朗読が、たくさんの人の心に届きますように☽・:*
この台本は、フリー朗読台本となっております。
商用等、ご自由にお使いください。
Twitter : history_kokolo
アイコン : 牛様
※こちらは有償依頼となります。
無断転載禁止です。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ホラー愚痴就活ノート
野花マリオ
エッセイ・ノンフィクション
ホラー小説書きながら仕事を見つけていく、作者の個人的活動記録です。たまに愚痴るので苦手な方はご注意下さい。
ホラー寝る習慣ノートとは違い仕事や日常生活がメインです。
2024年10月21日作成。
生成AIも活用してます。
表紙は生成AI
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる