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第1章
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「何かあったらいつでも言えよー」
見た目が怖い人ほど仲はいい人という説はあながち間違いではないのかもしれないな。ピロロン。さっきの人からメールだ。『なにもなくても連絡していいからな。』
「何ー?」
「いい人だね」
死なすには惜しいひとだ。だけど、僕は最悪シヅさえ助けられればそれでいい。まぁ、でも余裕があれば絶対に救う。そう僕は誓った。
しばらくしてから紫月さんがひとこと、
「ねぇ、ちょっとだけ愚痴言っていい?」
「へっ…… あ、はい」
「ありがと」
「私ね、昔の記憶がないんだ」
過去の話を始めるのいきなりすぎないか、愚痴じゃないのかよ。
「幼少期っていうのかな?7歳ぐらいまでの記憶、一切ないんだ」
重い、いきなり重くなったな。まぁ、僕は慣れてるしいいけど。
「親との思い出とか全然なくてね、親に会ったことないんだ。あっ、記憶がないって話だよ」
それくらい分かるよ。
「ずっとずっと、寂しくて、構って欲しくて、ゲームに没頭した。ネット依存に近い感じなのかな?現実の人は怖かったの。アバターならたとえ中は現実の人でも平気だった。だから、ソウや先輩、先生は特別なの」
これは愚痴、なのか?
「だからね、ソウ。何かあったら相談して欲しい。私は壊すことしかきっとできないけど、それでも…… って何熱くなってるんだろうね」
違う。シヅは僕を救ってくれた。違う。シヅは壊すことしかできない存在じゃない。むしろ……
「愚痴はね、私に何も言ってくれない周りの大人って酷すぎるよねってこと。親のことに関して、何も誰も教えてくれないんだよ」
それは…… 仕方ない気もする。
「愚痴言ってごめんね。欠陥品の私にも唯一ちゃんとした心はあるんだよ。ねぇ、ソウ、大好き。生きてたら結婚しようとかフラグなことは言わないよ。ただね、今、私と」
「結婚しよ」
シヅが驚いた顔でこちらを見つめる。この言葉は絶対僕が言いたかった。前は言えなかった、言いそびれた、逆になったプロポーズ。
「返事はもらえるのかな?」
「取られちゃったな、ソウのこと驚かせたかったのにーー」
頬をリスのように膨らませたシヅも可愛い。毎回毎回違う表情(かお)を見せてくれる彼女のことが愛おしい。僕は何をしても何度やっても彼女には勝てない。少し悔しくて、そして、すごく幸せだ。たとえこの幸せが長く続かなくても僕は今この一瞬の記憶で、この記憶だけだろうとも狂わずに、壊れずに、生きていけるだろう。
「大好きだよ、旦那様。今から結婚式しにいこっ!」
「あぁ、でも勝負はどうするんだ?」
「続行するよ。そして私が勝って、みんなにも祝ってもらうんだ。ダブルのお祝いだよ」
いいでしょーー、と言ってそれはそれは幸せそうに楽しそうに笑ってくる。
「なら、勝つか」
「もっちろん!」
愚痴要素はほとんど無かった会話は終わり、ある建物に着く。いつみても嫌な場所だ。
「さぁ、行こっか」
今度こそは絶対に死なせない。僕が守る。
「ソウは私が守るから、隠れててもいいよ」
「僕だって戦え、るから」
「分かったよ」
少し呆れてないか?
「わぁ、すごいねーー」
そう言いつつ銃に手をかける。
「アハハ、アハハ」
アレって死なないんだよなぁ。はぁ、めんどくさっ。
「紫月さん、交代」
ナイフ片手に背後に回り込み片付ける。返り血を浴びないように避ける。アレの返り血はなるべく浴びたくない。
「さすがは私の旦那様」
さすがはシヅ。よくこんなセリフを言えるよな。僕は何回やっても言えないのに。
「チャペル着いたー、ねぇ、結婚式しよ」
「いいけど、勝負は?」
「するけど、ここに1番に着いたの私だし、私の勝ちだもん」
「なら、黒幕はココにいると?」
「それは分かんない。でもココに来るはず」
「なら、黒幕が来るまで僕に説明してくれないか?」
「いいよー。先輩と先生くるまで暇だし。結婚式は全て片付けてからみんなに見てもらいたいから、もうちょっと後でもいいかな?」「もちろんです。花嫁の同意がない結婚式なんてあり得ないし、祝って欲しいのは僕も同じですから」
「良かった。なら、話すね」
シヅは今回はどこまで掴んでるのかな?
「ことの発端は何者かによって人をゾンビと思われるものに変えてしまう薬をばら撒いたこと。言わば、生物兵器。政府の対応が早かったのが実は他国の事例を知っているからではなく、元々政府が所持しているものだとしたら?他国とは違い強力な兵器を持たないこの国ならあり得ない話ではないでしょ?理由もちゃんとあるんだよ。他国の事例を知っていただけにしては銃の携帯が許可されるまでの時間が早すぎる。それに政府の人間の避難が早すぎる。これは普通ならあり得ないもん。」
すごいな、ここまできちんと考えているなんて。
「なら、どうやって政府からその黒幕は生物兵器を持ち出したんだ?」
「さぁ、そこまでは、興味ないし」
「えっ?」
「今日の勝負は手段を推理する『ミステリー大会』じゃないもん」
そう言えばそんなのもあったな。未解決事件の謎を解こう、ってのだったか。
「だから、真相は黒幕に吐いてもらおうかなって。ダメかなぁ」
「駄目ではないけど…… 紫月さん、尋問できるの?」
「無理」
ならなんで言ったんだ。
「えっ」
紫月の身体が急に傾く。
「紫月さん?紫月?シヅ」
「うるさいよ、ソウ」
「仕方ないじゃん。僕はまた」
「私はソウに生きていてほしいの、だ、か、ら」
「シヅ?シヅ?返事してよ、お願いだから返事してくれよ」
この世界は不公平だ。そんなの分かっていた、分かっていてけどさ、何回も何回も頑張ったんだよ。自己満足だらけだし、シヅが望まないことかもしれないけどさ、僕はシヅに生きていて欲しかったんだよ。
「ねぇ、何で?何で、何で、いつも僕を庇うの。何で、いつも死んじゃうの?ねぇ……」
足音?あぁ、そうか。
「よくもシヅに手、出したな」
「オレは悪くねぇ、勝手にその女が飛び出してきただけだろ」
「はぁ?」
「オレはお前を殺せって、だから、全部全部、お前のせいだろう、『雪時雨』」
なるほど、SNS絡みか。僕のアカウントを特定するとは、今回の政府は珍しく優秀だな。いや、そうでもないか。この程度で怯むようなのを刺客に使ってるしな。
「な、なんだよ」
「僕の相手がお前とはな……」
「ば、バカにすんなよ、これでも」
「馬鹿になんかしてないですよ」
銃を向ける。そして引き金に手をかける。
「ひ、人を殺したら犯罪だぞ」
「あぁ、そうだな」
そう言って右手で銃を持ったまま、急所をナイフで殴る。これなら、まぁ、正当防衛だろ。人殺しが何言ってやがる。僕が言えたことではないか……
見た目が怖い人ほど仲はいい人という説はあながち間違いではないのかもしれないな。ピロロン。さっきの人からメールだ。『なにもなくても連絡していいからな。』
「何ー?」
「いい人だね」
死なすには惜しいひとだ。だけど、僕は最悪シヅさえ助けられればそれでいい。まぁ、でも余裕があれば絶対に救う。そう僕は誓った。
しばらくしてから紫月さんがひとこと、
「ねぇ、ちょっとだけ愚痴言っていい?」
「へっ…… あ、はい」
「ありがと」
「私ね、昔の記憶がないんだ」
過去の話を始めるのいきなりすぎないか、愚痴じゃないのかよ。
「幼少期っていうのかな?7歳ぐらいまでの記憶、一切ないんだ」
重い、いきなり重くなったな。まぁ、僕は慣れてるしいいけど。
「親との思い出とか全然なくてね、親に会ったことないんだ。あっ、記憶がないって話だよ」
それくらい分かるよ。
「ずっとずっと、寂しくて、構って欲しくて、ゲームに没頭した。ネット依存に近い感じなのかな?現実の人は怖かったの。アバターならたとえ中は現実の人でも平気だった。だから、ソウや先輩、先生は特別なの」
これは愚痴、なのか?
「だからね、ソウ。何かあったら相談して欲しい。私は壊すことしかきっとできないけど、それでも…… って何熱くなってるんだろうね」
違う。シヅは僕を救ってくれた。違う。シヅは壊すことしかできない存在じゃない。むしろ……
「愚痴はね、私に何も言ってくれない周りの大人って酷すぎるよねってこと。親のことに関して、何も誰も教えてくれないんだよ」
それは…… 仕方ない気もする。
「愚痴言ってごめんね。欠陥品の私にも唯一ちゃんとした心はあるんだよ。ねぇ、ソウ、大好き。生きてたら結婚しようとかフラグなことは言わないよ。ただね、今、私と」
「結婚しよ」
シヅが驚いた顔でこちらを見つめる。この言葉は絶対僕が言いたかった。前は言えなかった、言いそびれた、逆になったプロポーズ。
「返事はもらえるのかな?」
「取られちゃったな、ソウのこと驚かせたかったのにーー」
頬をリスのように膨らませたシヅも可愛い。毎回毎回違う表情(かお)を見せてくれる彼女のことが愛おしい。僕は何をしても何度やっても彼女には勝てない。少し悔しくて、そして、すごく幸せだ。たとえこの幸せが長く続かなくても僕は今この一瞬の記憶で、この記憶だけだろうとも狂わずに、壊れずに、生きていけるだろう。
「大好きだよ、旦那様。今から結婚式しにいこっ!」
「あぁ、でも勝負はどうするんだ?」
「続行するよ。そして私が勝って、みんなにも祝ってもらうんだ。ダブルのお祝いだよ」
いいでしょーー、と言ってそれはそれは幸せそうに楽しそうに笑ってくる。
「なら、勝つか」
「もっちろん!」
愚痴要素はほとんど無かった会話は終わり、ある建物に着く。いつみても嫌な場所だ。
「さぁ、行こっか」
今度こそは絶対に死なせない。僕が守る。
「ソウは私が守るから、隠れててもいいよ」
「僕だって戦え、るから」
「分かったよ」
少し呆れてないか?
「わぁ、すごいねーー」
そう言いつつ銃に手をかける。
「アハハ、アハハ」
アレって死なないんだよなぁ。はぁ、めんどくさっ。
「紫月さん、交代」
ナイフ片手に背後に回り込み片付ける。返り血を浴びないように避ける。アレの返り血はなるべく浴びたくない。
「さすがは私の旦那様」
さすがはシヅ。よくこんなセリフを言えるよな。僕は何回やっても言えないのに。
「チャペル着いたー、ねぇ、結婚式しよ」
「いいけど、勝負は?」
「するけど、ここに1番に着いたの私だし、私の勝ちだもん」
「なら、黒幕はココにいると?」
「それは分かんない。でもココに来るはず」
「なら、黒幕が来るまで僕に説明してくれないか?」
「いいよー。先輩と先生くるまで暇だし。結婚式は全て片付けてからみんなに見てもらいたいから、もうちょっと後でもいいかな?」「もちろんです。花嫁の同意がない結婚式なんてあり得ないし、祝って欲しいのは僕も同じですから」
「良かった。なら、話すね」
シヅは今回はどこまで掴んでるのかな?
「ことの発端は何者かによって人をゾンビと思われるものに変えてしまう薬をばら撒いたこと。言わば、生物兵器。政府の対応が早かったのが実は他国の事例を知っているからではなく、元々政府が所持しているものだとしたら?他国とは違い強力な兵器を持たないこの国ならあり得ない話ではないでしょ?理由もちゃんとあるんだよ。他国の事例を知っていただけにしては銃の携帯が許可されるまでの時間が早すぎる。それに政府の人間の避難が早すぎる。これは普通ならあり得ないもん。」
すごいな、ここまできちんと考えているなんて。
「なら、どうやって政府からその黒幕は生物兵器を持ち出したんだ?」
「さぁ、そこまでは、興味ないし」
「えっ?」
「今日の勝負は手段を推理する『ミステリー大会』じゃないもん」
そう言えばそんなのもあったな。未解決事件の謎を解こう、ってのだったか。
「だから、真相は黒幕に吐いてもらおうかなって。ダメかなぁ」
「駄目ではないけど…… 紫月さん、尋問できるの?」
「無理」
ならなんで言ったんだ。
「えっ」
紫月の身体が急に傾く。
「紫月さん?紫月?シヅ」
「うるさいよ、ソウ」
「仕方ないじゃん。僕はまた」
「私はソウに生きていてほしいの、だ、か、ら」
「シヅ?シヅ?返事してよ、お願いだから返事してくれよ」
この世界は不公平だ。そんなの分かっていた、分かっていてけどさ、何回も何回も頑張ったんだよ。自己満足だらけだし、シヅが望まないことかもしれないけどさ、僕はシヅに生きていて欲しかったんだよ。
「ねぇ、何で?何で、何で、いつも僕を庇うの。何で、いつも死んじゃうの?ねぇ……」
足音?あぁ、そうか。
「よくもシヅに手、出したな」
「オレは悪くねぇ、勝手にその女が飛び出してきただけだろ」
「はぁ?」
「オレはお前を殺せって、だから、全部全部、お前のせいだろう、『雪時雨』」
なるほど、SNS絡みか。僕のアカウントを特定するとは、今回の政府は珍しく優秀だな。いや、そうでもないか。この程度で怯むようなのを刺客に使ってるしな。
「な、なんだよ」
「僕の相手がお前とはな……」
「ば、バカにすんなよ、これでも」
「馬鹿になんかしてないですよ」
銃を向ける。そして引き金に手をかける。
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