父に代わり、悪魔に身を捧げることになりまして…。

卯月終

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私のせいで、私のせいでまた…

「ありがとう。」

ありがとう?今、そう、

「ありがとう、セインちゃん。」

頭を撫でられている?抱きしめられている?何で?
私、泣いてないよ。

「ありがとう、ありがとう。」

ぎゅーっとされる。嬉しいけど少し苦しい。
うぐっってなる。

「メーフェ、力入りすぎだ。」

「あわわわわ。セインちゃん、ごめんね。
大丈夫だった?」

首を縦に振った。

「よかったーー。」

私、泣かせた?
メーフェさんに渡した。

「違うよ、大丈夫。」

手ではてなマークを作る。

「うん、本当に、大丈夫だよ。」

「そうそう、メーフェは気にしてないし大丈夫だ。」

メーフェさんにもトイさんにもそう言われた。
ディーナーさんの方を見ると、うんうんと頷いていた。

良かった。

安心したせいかしゃがみ込んでしまった。

「大丈夫か?」

頷く。立ち上がろうとして、
力が入らないことに気づいた。

何回やってもダメだった。

カツカツカツ。
トイさんがこちらに向かって歩いてきた。

何だろう?

そして、私の前で止まったかと思うと

「ほいっ。」

そう言いながら持ち上げられた。

抱っこ?
抱っこしてもらうのは久しぶり。
父様は忙しそうだったから。
母様に抱っこは頼めなかったから。
ぬいぐるみを抱っこすることはあっても
誰かに抱っこされるのは久しぶり。

何だかくすぐったい。変な感じがする。

「やっと笑ったな。」

私、笑ってる?

「さっきまで泣いてたからな。
笑ってる方がいい。」

笑顔をつくる。

「あぁ、言い方が悪かったな。
無理して笑わなくてもいいさ。誰も責めはしない。」

分からないよ。何でそんなこと言うの?
父様、言ってた。
泣いていいのは身内を相手にするときだけだって。
家族といる時、1人でいる時、それは泣いてもいい時間。
他者といる時。それは笑うべき時間。
いつも、にこにこ誰かを出迎える。それが私の仕事。
笑わない時間も必要。そこは相手に合わせるように
言われた。

でも、自分のために泣くのはだめ。当たり前。
それが当たり前じゃ、普通じゃないの?
笑わなくてもいい?なら無表情でも怒ってても
何してても許される??
許すって誰が。何で。何の為に。

コンコンコン。

誰だろう?
メーフェさん、いる。
ディーナーさん、いる。
トイさん、いる。

誰?私の知らない人?お客さん?
もしかして、"あいつ''さん?

「よぉ、トイ。
よくもこんな時間に呼び出したな。」

「こんな時間ってなぁ。
まだ夜だろ。文句言われる筋合いはねぇよ。」

「あるっての。
せっかく人が狩りでも楽しもうと考えているときに。」

「考えてるだけだろ。
ならまだ大丈夫だな。」

そう言ったトイさんがにこり、いや、にやりと笑った。
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