父に代わり、悪魔に身を捧げることになりまして…。

卯月終

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「やっぱり分かるんだな。」

何が?そう聞きたいのに声が出ない。
ぱくぱく、口は動くのに音が出ない。

「セイン?」

何があった、トイさんがそんな目でこちらを見る。
口をぱくぱく動かしながら
右の人差し指で喉を指さす、
そして、両手を交差させる。ばつを作るみたいに。

「声が出ないのか?」

こくこくと首を縦に振る。
良かった、伝わった。

「何か分かるか?」

そう言ったトイさんは2人の方へ向き直る。

「私にはさっぱり。」

「私も人間の身体には疎くて…。」

「そうか。

そんな、不安そうな顔をしなくても平気だ。
さっきまで問題なく話せていたのを考えると
一過性のものだろう。

念のため、あいつを呼んでくれ。」

「かしこまりました。」

何で今驚いた顔をしたの?
あいつ ってトイさんとディーナーさんの
知り合いの人?お医者様なのかな?
それとも研究者さん?

メーフェさんがディーナーさんと共に
部屋を出ようとしている。

待って。慌てて追いかけてメーフェさんの
服の裾を引っ張る。

「どうした?」

トイさんにそう聞かれた。
空中に字を書く仕草をする。

「何か書くものか?」

こくこく。

「それならこちらを。
先程、セイン様に頼まれたものです。」

ありがとうございます。心の中でお礼を言いながら
ディーナーさんの方を向いて頭を下げる。

「いえいえ、セイン様が頭を下げるような事では
ありませんよ。」

首を横に振る。そんな事ない、そう伝えるために。
そして、メモにペンで字を書く。

(メーフェさん、ごめんなさい。
怪我、痛くないですか?
本当にごめんなさい。)

そう書いて、渡した。

「大丈夫ですよ。
悪魔は怪我の治りも早いし、痛みにも強いんです。
だから大丈夫です。

こちらこそ驚かせて怖がらせちゃったわよね。
ごめんなさい。もう2度と抱き着いたり
頭を撫でようとしたりとしないから。」

違う。違う。首を横に振る。
慌てて字を書く。

(違う。怖くない。メーフェさん怖くない。嫌じゃない。だからやめないで。もう2度としないなんて言わないで。わがまま言ってるのは分かってる。でも嫌だ。私、メーフェさんと仲良くなりたい。メーフェさん綺麗。明るい。可愛い。好き。)

伝えたい言葉をただただ書く。
とても読みづらいと思う。
でも、メーフェさんは端から端まで読んでくれた。
父様みたいに適当に読まないでしっかり読んでくれた。
優しい、やっぱりみんな優しいよ。

ぽたっ、何かがこぼれ落ちる。
思わず目を触る。

私じゃない?

メーフェさんの方を見る。
泣いてるの?何で、どうして?
私、何かした?傷つけた?また間違えた?
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