父に代わり、悪魔に身を捧げることになりまして…。

卯月終

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「私なら平気です。」
良かった、叩かれるとかそういう類の事じゃないんだ。
頬が熱い、ぽたぽたと何かが落ちる音がする。

「セイン様?大丈夫ですか、何処か怪我を?」

「ねぇ、大丈夫?」

メイド服のお姉さん、メーフェさん?が
不安そうな表情で近づいてくる。
そして手が伸びてくる。しなやかで美しい、
真っ白い手が。

「やだっ。」

思わず、その手を振り払う。
そして、トンっと彼女の体を押す。
一歩後ろに下がる。

「いたたー。」

私、今何を?
私が突き飛ばしたの?
私が手を振り払ったから血が流れているの?

「あっ、あっ、ごめんなさいごめんなさい。」
ぽろぽろと涙が溢れる。
必死に両目を擦る。それなのに涙は止まってくれない。
むしろさらに流れる。
私より辛い人が目の前にいるのに。
私のせいで怪我をした人がいるのに。

「何かあったのか?」

「旦那、様。」

トイさん?何でここに?
当たり前だ。ここはトイさんの部屋なんだから。

「セイン、大丈夫か?」

今、名前で……。

「どうした、何があった?」

そう言いながら髪を撫でてくれる、抱きしめてくれる。
目を擦ろうとしたら「やめておけ。」そう言われた。
冷たい言い方なのにどこかあたたかい。

「涙、落ち着いたか?」

「はい。」

「何があったのだ、ディーナー、メーフェ。」

「申し訳ありません。
私の監督不行届です。」

「謝れとは言っておらん。
我は何があったのか説明しろと言っておるのだ。」

「私が悪いんだ。
旦那様のお客様が可愛くてな。
思わず近づいちゃったんだよ。
この娘は人間だもんな。怖がって当然だよ。
悪かったな、お客様。」

「そうなのか、ディーナー。」

「えぇ。メーフェがセイン様に
抱き着こうとしているのは見ました。」

「そうか、メーフェが…。」

トイさんの視線がメーフェさんの方へ向く。
だめっ、このままじゃ。

「違うっ!」

「セイン?」

「違う、メーフェさんは悪くない。
私がメーフェさんの手を振り払ったの。
メーフェさんを突き飛ばしたの。だからっ!」

「分かってる。
我はメーフェを責めてなどいない。」

良かった。

「もちろん、セインのこともだ。」

私も?何で?

「安心しろ、ディーナーのこともだ。
誰も悪くはないさ。

ただ、メーフェはその力を消せ。
セインが怖がっているのはメーフェじゃない。
その力だ。」

「えっ、あっ、これ!?」

メーフェさんが何かしてる。
空中に文字を書いてるの?

「怖く無くなっただろ。」

大きく首を縦に振る。
さっき大きな声を出したせいか、
言葉がうまく紡げなかった。
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