父に代わり、悪魔に身を捧げることになりまして…。

卯月終

文字の大きさ
上 下
4 / 10

4

しおりを挟む
「分かりました。
娘に、セインに酷いことしないでください。
セインのこと、よろしくお願いします。」

なっ、悪魔相手に娘をよろしくだ?
頭を下げるか!?

「母様。」

「セインちゃん、愛してる。
辛くなったらいつでも助けをもともに来て。
貴方はいつまでも大切な私の娘です。
辛いことがあれば信頼できる相手に言いなさい。
泣きなさい。頼りなさい。甘えなさい。
そして不審者にはついていかない事、分かった?」

「はい、私も愛しています。
弟のこと、お願いします、母様。」

「名前、セインちゃんが決めて。ねっ。」

「名前……。」

「あ、悪魔さん。」

小声で呼ばれた。

「何だ。」

こちらも声を抑えて返す。

「名前、フィンってどう思いますか?」

「いいんじゃないか。」
アイルランド語で明るい、か。
それをこの娘は知っているのか、
それとも知らないのか。
どっちにしろいい名前をつけるな。

「母様、名前考えました。
フィンです。」

「フィン、いい名前ね。
セインちゃんとも少し似てる。」

えへへ。そう嬉しそうに笑う少女を見ていると
少し心苦しく思う。

仲のいい親子を引き離そうとしている。
その上、魂を悪魔に喰われれば転生出来なくなる。
もう2度と親子が一緒にいられることは
ないかもしれない。
悪いな…。セイン。 

ドタバタ、人の近付く気配。
悪魔祓いエクソシストでも来たか。

「そろそろいかないと面倒な事になる。」

「行くって、どこに?」

「さっき我が言った言葉をこれから来る奴らに言え。」

「ひとまずここを離れる。
支払い云々はその後だ。
ただ逃げるなよ。逃げたらお前の大切な人から
代償を頂くまでだ。」

「分かってます。
今更逃げる気はありません。」

「なら、行くぞ。」

「行ってらっしゃい。」

「はい、行ってきます。」

行ってきます、か。
帰せない気がするんだが、まぁいいか。

「邪魔したな。」

戸を引くように右手を左から右に動かす。

「すごい。」

すごいか?禍々しいと言うならわかるが…

「こっから屋敷に行ける。
逸れないように気をつけろよ。」

ギュッと服の裾を掴まれる。
服、伸びないか。伸びてもまぁ…

「行くか。」

コクリ、不安そうな顔で少女、セインがうなずく。

一歩一歩ゆっくりと歩く。
セインはキョロキョロとあたりを見渡している。
変わったものはないんだが、
この状況そのものが人には不思議なんだろうな。

「あの、」

「どうした?」

疲れたのか?それとも何かあったか?

「何で歩けるんですか?
床も壁も天井も見た感じないのに…」

「それは……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

おかけになった電話番号は。

由宇ノ木
恋愛
全四篇完結※この作品は過去に公開した、『おかけになった電話番号は。』と、『真珠の色は透きとおり。』の詩二作品を合わせて新たに書きたした作品です。 裏切った側、裏切られた側のその後を書いています。 詩として公開した二作は削除しています。 他のサイトでも公開しています。

処理中です...