父に代わり、悪魔に身を捧げることになりまして…。

卯月終

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「顔を上げろ。」

そっとこちらを伺いながら片手で母親と弟を守る仕草をしながら、顔を上げる。
やはり綺麗だな。見た目も中身も、清らかで美しい。

「礼儀正しいのは嫌いじゃない。」
むしろ好ましい。

「母親と弟の命を奪うことは止そう。
ただし……タダと言うわけにはいかない。」

「分かっているつもりです。
父様が払わないというなら私が払います。」

「娘がそう言っているが貴公は何か言うことはあるか?」

「よく出来た子だ。
そうだ。われが殺される必要などないのだ、
その娘は貴様にやるさ。」

これで文句ないだろうとこちらを見てくる。
はぁ、嫌になる。

「あぁ、そうだな。」

ズシャッ、返り血が壁に服に赤黒いシミを作る。

「な、ぜ、だ。」

「何故?貴公が愚かだからだ。」

「う、そ、つ、き。」

「嘘など言っておらん。
代償にこの娘を頂くと言っただけだ。
偶然居合わせた人間をどうしようが我の勝手だろう。」

「ひっ、こ、の、あ、く、ま。」

「あぁ、我は悪魔だ。
その悪魔を喚び出したのは貴様だろう。
この人間のクズが。」

「な、ん、だ、と、き、さ、ごはっ。」

ドバッと血が吐き出される。
床がドンドン赤く色を変えていく。

「悪魔を喚んだ落とし前ぐらいは自分でつけろよな。
大人なんだから。」

少女の方を見る。
「悪かったな。
ガキに見せるものでも無かったし。」

「私は平気です。」

「無理しなくてもいい、身体、震えてるぞ。」

うるうるとした瞳に怯えた表情、
震えを必死に抑えようとして強がる少女。
どうしてそこまで純粋でいられる?

「約束は守って頂けますか?」

「約束?約束などした覚えはないな。」

「そんなっ、」

「指切りもしていなければ、契約書もない。
それに支払いがお前で良いとも言っていない。」

「お願いします。母様と弟には手を出さないでください。お願いします。」

少し苛めすぎたか。
「冗談だ。母親にも弟にも手は出さない。
約束だ。不安なら誓約書も用意しよう。

代償はお前からいただく、それは構わないのか?」

「はい。」

「セインちゃん?」

「母様、私なら平気です。
この方、思っていたよりも優しそうです。
だから心配しないでください。」

悪魔相手に優しそうか。
変わった娘だ。

「警察が来たら言え。

旦那が悪魔を喚びだしたが揉めて、
悪魔が旦那を殺して娘を連れ去った。
そう言え。

私は見逃してもらえたが…
娘を助けてくれ、
そう頼め。」

そうすれば、警察はこの母親は悪魔召喚には
無関係な被害者だと判断するだろう。
そうすればまだ世間の目もましだろうからな。
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