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二つの条件
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菅生環が彼氏と別れて二回目の休日。
うららかな午後の日差しが市街地の建物を照らす中、環は中層のオフィスビル内にあるお多福結婚相談所のカウンセリングルームにいた。
「大げさじゃないわ。データに基づいた事実よ」
山口美祢子は環からの質問、レポートに書かれていた『35歳までに結婚が決まらなければその後結婚できる可能性はほぼない』の記述はさすがに大げさではないか? という問いに淡々と答えた。
同じ質問を何度もされているのか「またきたか」と言いたげな表情だ。
「じ、事実だとしても個人の具体的な状況を考慮したら結果は違うんじゃないですか? 年収や資格、学歴とか趣味などによって変わるのでは? 例えば私のようなプロフィールの女性の成婚率はどうなんです?」
環は食い下がる。
五秒の沈黙の後、美祢子は口を開いた。
「データから答えを得ることは可能よ。でもあなたが期待するような答えではないでしょうね」
「どういう事ですか?」
「プロフィールを読む男性にとってそういった情報は重要ではないって事よ」
「じゃあ何が重要なんです?」
美祢子はテーブルの下から電子パッドを取り出すとタッチペンでスラスラと箇条書きした。
「この二つよ」
「これって……」
画面を一読して環は目を丸くする。
「ウチにいる男性会員の大半はこの二つを重視しているわ。これをクリアしている女性会員にはハイクラスの男性から次々に声がかかる。引く手多数、選り取り見取りって感じね」
(そんな……)
パッドを見つめながら環はキュッと唇を噛んだ。
画面には、
・年齢は自分より若く20代もしくは30台前半まで
・容姿端麗
と記されていた。
「重要なのは相手の見た目やスタイル、年齢。それ以外はオマケみたいなもの。場合によってはマイナス要素になる事もあるわ」
「若くて美人じゃなければ検討対象にならないって事?」
「そういう事ね」
環のはらわたが煮えくり返る。
(大切なのはそれだけ? 生涯の伴侶になるかもしれないのに性格や相性はどうでもいいの? 教養や社会的地位は関係ないって? この相談所の男どもはどれだけ薄っぺらいの! 俗物の集まりだわ!!)
目を吊り上げた環に美祢子は続ける。
「だけど男性の方はまだ単純。相手に対する条件は女性の方が厳しいの。例えば年上はOKだけど40歳を越えたらダメ。眉目秀麗で身長は最低180センチ。年収は少なくとも手取り800万円。さらに結婚後は専業主婦希望、とかね」
「それは……かなり厳しい条件ですね」
男性と違い二つどころか多岐に渡っている。
環の周りを見ても該当する独身男性は見当たらない。
当てはまるとすれば既に結婚している上司や得意先の役員、あとは別れた男くらいか?
(アイツはクリアしてるよね? 一応社長だし高い指輪だって買えたんだから)
「女性の方が結婚後の未来を具体的に考えてるって言えるかな? 安くないお金を収めて相談所に入会したのだから自分の希望通りの相手を見つけたい気持ちは理解できるわ。ところで環。男性女性とも相手の容姿や年齢を気にするのはなぜだかわかる?」
「なぜって自分の隣に若くて見栄えのいいパートナーがいて欲しいからでしょう? 周りからも一目でいい相手を見つけたって思ってもらえるし」
「それもあるけど、もっと掘り下げてみて」
それ以外の答えがあるのか?
環が自分の家族や親戚、結婚した友人知人達を思い出しながらしばらく考えると閃くものがあった。
「もしかして……子供が関係あります?」
「あるわよ。さすが環、いい所に目をつけるわね」
かつての部下の回答に美祢子は満足そうな笑顔を浮かべた。
「ウチに限らず結婚相談所に入会する人は自分の子供が欲しいと考えている場合が多い。可能なら兄弟姉妹を授かりたいって人もいる」
「だとしたら……」
「そう。ここであなたに渡したレポートが関係してくるの」
うららかな午後の日差しが市街地の建物を照らす中、環は中層のオフィスビル内にあるお多福結婚相談所のカウンセリングルームにいた。
「大げさじゃないわ。データに基づいた事実よ」
山口美祢子は環からの質問、レポートに書かれていた『35歳までに結婚が決まらなければその後結婚できる可能性はほぼない』の記述はさすがに大げさではないか? という問いに淡々と答えた。
同じ質問を何度もされているのか「またきたか」と言いたげな表情だ。
「じ、事実だとしても個人の具体的な状況を考慮したら結果は違うんじゃないですか? 年収や資格、学歴とか趣味などによって変わるのでは? 例えば私のようなプロフィールの女性の成婚率はどうなんです?」
環は食い下がる。
五秒の沈黙の後、美祢子は口を開いた。
「データから答えを得ることは可能よ。でもあなたが期待するような答えではないでしょうね」
「どういう事ですか?」
「プロフィールを読む男性にとってそういった情報は重要ではないって事よ」
「じゃあ何が重要なんです?」
美祢子はテーブルの下から電子パッドを取り出すとタッチペンでスラスラと箇条書きした。
「この二つよ」
「これって……」
画面を一読して環は目を丸くする。
「ウチにいる男性会員の大半はこの二つを重視しているわ。これをクリアしている女性会員にはハイクラスの男性から次々に声がかかる。引く手多数、選り取り見取りって感じね」
(そんな……)
パッドを見つめながら環はキュッと唇を噛んだ。
画面には、
・年齢は自分より若く20代もしくは30台前半まで
・容姿端麗
と記されていた。
「重要なのは相手の見た目やスタイル、年齢。それ以外はオマケみたいなもの。場合によってはマイナス要素になる事もあるわ」
「若くて美人じゃなければ検討対象にならないって事?」
「そういう事ね」
環のはらわたが煮えくり返る。
(大切なのはそれだけ? 生涯の伴侶になるかもしれないのに性格や相性はどうでもいいの? 教養や社会的地位は関係ないって? この相談所の男どもはどれだけ薄っぺらいの! 俗物の集まりだわ!!)
目を吊り上げた環に美祢子は続ける。
「だけど男性の方はまだ単純。相手に対する条件は女性の方が厳しいの。例えば年上はOKだけど40歳を越えたらダメ。眉目秀麗で身長は最低180センチ。年収は少なくとも手取り800万円。さらに結婚後は専業主婦希望、とかね」
「それは……かなり厳しい条件ですね」
男性と違い二つどころか多岐に渡っている。
環の周りを見ても該当する独身男性は見当たらない。
当てはまるとすれば既に結婚している上司や得意先の役員、あとは別れた男くらいか?
(アイツはクリアしてるよね? 一応社長だし高い指輪だって買えたんだから)
「女性の方が結婚後の未来を具体的に考えてるって言えるかな? 安くないお金を収めて相談所に入会したのだから自分の希望通りの相手を見つけたい気持ちは理解できるわ。ところで環。男性女性とも相手の容姿や年齢を気にするのはなぜだかわかる?」
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「あるわよ。さすが環、いい所に目をつけるわね」
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「ウチに限らず結婚相談所に入会する人は自分の子供が欲しいと考えている場合が多い。可能なら兄弟姉妹を授かりたいって人もいる」
「だとしたら……」
「そう。ここであなたに渡したレポートが関係してくるの」
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