婚キ! お多福結婚相談所

滴浬密

文字の大きさ
上 下
7 / 10

二つの条件

しおりを挟む
 菅生環が彼氏と別れて二回目の休日。
 うららかな午後の日差しが市街地の建物を照らす中、環は中層のオフィスビル内にあるお多福結婚相談所のカウンセリングルームにいた。
 
「大げさじゃないわ。データに基づいた事実よ」

 山口美祢子は環からの質問、レポートに書かれていた『35歳までに結婚が決まらなければその後結婚できる可能性はほぼない』の記述はさすがに大げさではないか? という問いに淡々と答えた。
  同じ質問を何度もされているのか「またきたか」と言いたげな表情だ。
 
「じ、事実だとしても個人の具体的な状況を考慮したら結果は違うんじゃないですか? 年収や資格、学歴とか趣味などによって変わるのでは? 例えば私のようなプロフィールの女性の成婚率はどうなんです?」

 環は食い下がる。
 五秒の沈黙の後、美祢子は口を開いた。

「データから答えを得ることは可能よ。でもあなたが期待するような答えではないでしょうね」

「どういう事ですか?」

「プロフィールを読む男性にとってそういった情報は重要ではないって事よ」

「じゃあ何が重要なんです?」

 美祢子はテーブルの下から電子パッドを取り出すとタッチペンでスラスラと箇条書きした。

「この二つよ」

「これって……」

 画面を一読して環は目を丸くする。

「ウチにいる男性会員の大半はこの二つを重視しているわ。これをクリアしている女性会員にはハイクラスの男性から次々に声がかかる。引く手多数あまた見取みどりって感じね」

(そんな……)

 パッドを見つめながら環はキュッと唇を噛んだ。
 画面には、

 ・年齢は自分より若く20代もしくは30台前半まで
 ・容姿端麗ようしたんれい

 と記されていた。

「重要なのは相手の見た目やスタイル、年齢。それ以外はオマケみたいなもの。場合によってはマイナス要素になる事もあるわ」

「若くて美人じゃなければ検討対象にならないって事?」

「そういう事ね」

 環のはらわたが煮えくり返る。

(大切なのはそれだけ? 生涯の伴侶はんりょになるかもしれないのに性格や相性はどうでもいいの? 教養や社会的地位は関係ないって? この相談所の男どもはどれだけ薄っぺらいの! 俗物ぞくぶつの集まりだわ!!)

 目を吊り上げた環に美祢子は続ける。

「だけど男性の方はまだ単純。相手に対する条件は女性の方が厳しいの。例えば年上はOKだけど40歳を越えたらダメ。眉目秀麗びもくしゅうれいで身長は最低180センチ。年収は少なくとも手取り800万円。さらに結婚後は専業主婦希望、とかね」

「それは……かなり厳しい条件ですね」

 男性と違い二つどころか多岐たきに渡っている。
 環の周りを見ても該当する独身男性は見当たらない。
 当てはまるとすれば既に結婚している上司や得意先の役員、あとは別れた男くらいか?

(アイツはクリアしてるよね? 一応社長だし高い指輪だって買えたんだから)

「女性の方が結婚後の未来を具体的に考えてるって言えるかな? 安くないお金を収めて相談所に入会したのだから自分の希望通りの相手を見つけたい気持ちは理解できるわ。ところで環。男性女性とも相手の容姿や年齢を気にするのはなぜだかわかる?」

「なぜって自分の隣に若くて見栄えのいいパートナーがいて欲しいからでしょう? 周りからも一目でいい相手を見つけたって思ってもらえるし」

「それもあるけど、もっと掘り下げてみて」

 それ以外の答えがあるのか? 
 環が自分の家族や親戚、結婚した友人知人達を思い出しながらしばらく考えるとひらめくものがあった。

「もしかして……子供が関係あります?」

「あるわよ。さすが環、いい所に目をつけるわね」

 かつての部下の回答に美祢子は満足そうな笑顔を浮かべた。

「ウチに限らず結婚相談所に入会する人は自分の子供が欲しいと考えている場合が多い。可能なら兄弟姉妹を授かりたいって人もいる」

「だとしたら……」

「そう。ここであなたに渡したレポートが関係してくるの」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

裏切りの代償

志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。 家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。 連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。 しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。 他サイトでも掲載しています。 R15を保険で追加しました。 表紙は写真AC様よりダウンロードしました。

私の恋が消えた春

豆狸
恋愛
「愛しているのは、今も昔も君だけだ……」 ──え? 風が運んできた夫の声が耳朶を打ち、私は凍りつきました。 彼の前にいるのは私ではありません。 なろう様でも公開中です。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

婚約者の番

毛蟹葵葉
恋愛
私の婚約者は、獅子の獣人だ。 大切にされる日々を過ごして、私はある日1番恐れていた事が起こってしまった。 「彼を譲ってくれない?」 とうとう彼の番が現れてしまった。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

あなたが望んだ、ただそれだけ

cyaru
恋愛
いつものように王城に妃教育に行ったカーメリアは王太子が侯爵令嬢と茶会をしているのを目にする。日に日に大きくなる次の教育が始まらない事に対する焦り。 国王夫妻に呼ばれ両親と共に登城すると婚約の解消を言い渡される。 カーメリアの両親はそれまでの所業が腹に据えかねていた事もあり、領地も売り払い夫人の実家のある隣国へ移住を決めた。 王太子イデオットの悪意なき本音はカーメリアの心を粉々に打ち砕いてしまった。 失意から寝込みがちになったカーメリアに追い打ちをかけるように見舞いに来た王太子イデオットとエンヴィー侯爵令嬢は更に悪意のない本音をカーメリアに浴びせた。 公爵はイデオットの態度に激昂し、処刑を覚悟で2人を叩きだしてしまった。 逃げるように移り住んだリアーノ国で静かに静養をしていたが、そこに1人の男性が現れた。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※胸糞展開ありますが、クールダウンお願いします。  心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。イラっとしたら現実に戻ってください。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

処理中です...