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第2章の2 新天地

第25話 伝説の魔道士

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 ここから本編に戻り、第24話からの続きとなります。お付き合いいただけたら嬉しいです。


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 目が覚めると、俺は、広大な大地に横たわっていた。


(あれ、ここは何処だ? それに、陽射しが眩しい)

 太陽は高く昇り、昼過ぎになっていた。周りには、見渡す限りの平原が広がっている。
 これまで過ごした、木々が生い茂る森は、どこにもない。それに、ジャームの姿もなかった。


(俺が経験した5年は幻だったのだろうか?)

 唖然とした。

 しかし、ジャームと過ごした記憶は鮮明に残っている。また、手元には、ジャームから貰った長剣もある。


(やはり、夢ではなかった。 それにしても分からない。 修行に明け暮れた森や、寝泊まりした小屋は何処に消えたのだろう? 師匠であるジャームは、何処に居るのだろう?)

 しばらくの間、頭が混乱し固まっていたが、ムートの魔法の門を思い出した時、合点がいった。


(恐らくは、ジャームが次元の違う世界に引き込んで、俺を救ってくれたんだ …。 俺も、この世界に戻った以上は、いつまでも立ち止まっては、いられない!)

 俺は、自分自身を鼓舞した。
 
 もう、以前のように弱い自分ではない。この5年が俺を変えてくれた。
 

(空を飛べたなら便利なのに!)


 試しに、強力な風魔法を地面に放って見た。
 すると身体は、木の葉のように宙に浮いた。さらに風を起こし地面に向けると、自分の身体は空に舞い上がった。
 そして眼下を望むと、はるか遠方に街並みが見える。


「あの街に行こう!」
 
 俺は、上空で叫んだ。

 風の方向を変えながら、ゆらりゆらりと、街並みに近づいて行く。
 そして、大きな邸宅がある付近で、風の力を弱め地面に舞い降りた。


「痛ってえ!」

 いや、降りたのではなく、地面に叩き付けられた。

 とっ、その時である。


「おまえは誰だ? 何処から来た?」

 初老の男が、俺を見て驚いていた。腰に剣を携えているから、剣士だろうか?
 それにしても、なぜか会話に違和感を感じる。


「おい、聞いているのか!」

 男は、声を荒げた。
 
 その声を聞いて、いや音を聞いて、違和感の原因に気がついた。
 よく考えて見たら、ジャームは声を出さずに、意志を伝えてきていた。
 つまり、耳で会話を聞くのは5年振りだったのだ。
 普通の会話は、とても懐かしい響きだった。


「もっと、言ってくれよ!」


「何だって!」


「あっ、ゴメンなさい」

 俺は、言って恥ずかしくなった。


「ここは、サイモン伯爵様の敷地の中だ。 おまえ、不法侵入だぞ。 ちょっと来い!」

 男は剣を構え、俺を邸宅の方へ連行した。
 まるでお城のような作りから見ると、ここら一帯を治める貴族の邸宅のようだ。

 
「ここに入れ! 憲兵を呼んでくるから、おとなしくしておれ!」

 俺は、石造りの部屋に放り込まれた。奥には牢屋が見える。

 よく見ると、その中で1人の男がこちらを伺っていた。その人は、風呂に入ってないのか、髪がボサボサで汚らしい。
 でも、汚らしいのは、俺も人の事を言えない状態だった。


「あんた、どうしたんだい?」

 牢屋の方向から、女性の声がした。


「えっ、女性は何処にも居ないが?」


「何言ってんの、私だよ? 見りゃ分かるだろ!」
 
 髪がボサボサで小汚い男が、女性の声で喋った。
 俺は、信じられず、透視の魔法を使って股間を見ようとしたら、モザイクがかかって見えない。


「何すんだよ、このスケベ! あたしゃ女だよ!」

 俺は驚愕した。
 目の前の小汚い男が、予想に反し女だった事よりも、魔法をブロックされた事にショックを受けていた。


「そんなに驚かないどくれ。 魔法が使える事は内緒だよ。 それより、あんたも、見方によっちゃ背の高い女に見えるよね」


「えっ」

 俺は、思わず股間を手で隠した。


「バカだねえ、もう遅いよ。 立派な物を透視で見ちまってるさ」

 そう言うと、彼女は恥ずかしそうに目を逸らした。


ガチャッ


 突然、扉が開き、3人の屈強な剣士が部屋に入って来た。


「ここの決まりだ。 その剣は預かる」

 いきなり長剣を取り上げられてしまった。

 そして、その内の2人が、俺の両脇に立ち、リーダー格の男が俺の正面の椅子に腰掛けた。


「おまえの名前と年齢は?」


「名前はイースと言います。 年齢は20歳です」


「そうか、まだ若いな。 まさか、密入国じゃないだろうな?」


「いえ、違います。 この国の民です」

 俺は、隣国から来たと言えず、咄嗟に嘘を吐いてしまった。


「それにしても、汚い身なりだな。 風呂に入ってないのか? まずは、マイドナンバーカードを見せろ!」


「えっ、無くしました。 再発行中です」

 訳が分からなかったが、取り敢えず嘘を吐いた。


「タント王国の民なら、必ず持っているカードだ。 そんな大切な物を、紛失しただと!」


「すみません」


「なら、住所を言え」


「それが、記憶喪失なんです」


「適当な事ばかり言いやがって! その牢にいる女と同じ、死ぬまで強制労働だな」


「待ってください。 俺はジャームの3番目の弟子なんです。 タント王国の魔道士ですよ! 知ってますよね?」

 ジャームが、高名な魔道士と思えたので、思わず言ってしまった。


「何を言ってる! ジャーム様は、タント王国史上、最も優れた最強の魔道士だ。 それに、6年も前に国民に惜しまれながら亡くなられた」


「そんなはずは …」

 やはり、ジャームは高名な魔道士だった。
 しかし、俺は、耳を疑った。
 ジャームが死んでいたと言うなら、5年もの間、誰に教わったんだろう?
 考えると、恐ろしくなった。


「弟子は2人しかいない。 1番弟子のワムは、この国を裏切ってサイヤ王国に行った憎むべき魔道士だ。 2番弟子のマサン様は、ジャーム様が亡くなられた事を王都で宣言されてから行方知れずだ。 それにしても、何が3番目の弟子だ! 嘘は、通用せんぞ!」


「俺は、マサンを探しているんだ。 どんな感じの女性なんだ?」


「なにッ! マサン様か …。 王都で実際に見たが、スラッとして、目が優しげな美人だったな …。 て言うか、おまえには関係ないだろ!」

 尋問が終わると、3人の剣士に抱えられ、牢屋に放り込まれた。


「だいじょうぶかい?」

 先ほどの男のような女が、心配そうに俺を見た。
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