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第1章(序章)絶望の果て

第2話 魔法の門

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 結局、ベアスを見失ってしまい、自分の行くべき場所が見つからずウロウロしてしまった。
 だから、一旦、外に出て、騎士の修練場を探すことにした。

 ドアを開けると、そこにはムートの広大な敷地が見えた。
 建物がいくつもあり、指示された赤い屋根の建物だけでも、3棟もあった。


(先に走って行ったベアスは、向こうの赤い屋根の建物に入ったのかもしれない)

 そう思い、いてもたってもおられず、ゆるい坂道を全力で駆け上がった。
 しばらく走り、息が切れて立ち止まると、そこには広場があった。

 周囲を見渡すと、遠くに小さな門が見え、そこに人がいた。
 良く見ると、その門の前にベアスがいて、中に入ろうとしていた。


(やっと見つけた)

 心の中で、安堵の気持ちが湧き上がった。


「おーい、ベアス! 待ってくれよ!」

 俺は手を振って、叫ぶように大声を上げた。

 しかし、ベアスは、俺がいくら呼んでも、振り向きもせず中に入ってしまった。

 俺は、急いで追いかけた。そして、門の前に来て中を覗いた。
 しかし、薄暗がりで良く見えない。不気味に思ったが、勇気を奮い立たせ中に入った。

 外から暗くて良く見えなかったが、中には細い道が続いていた。

「おーい、ベアス!」

 呼んだが、人の気配はない。
 心細くなり泣きそうになったが、何とか歯を食いしばった。

 俺は、仕方なく前を向いて全力で走った。
 だが、不思議な事に、いくら進んでも一向に景色が変わらない。それどころか、振り返ると、背後に見えたはずの門が消えていた。

 俺は、心底、驚いた。

 訳が分からず、今度は引き返して走ったが、やはり、同じ景色の一本道が、どこまでも続くだけだった。


「何だよこれ? 変なところに迷い込んじまった …」

 俺は、独り言を言った後、途方に暮れ座り込んでしまった。
 自然と涙が溢れた。

 とっ、その時である。


「どうしたの?」

 女性の声がした。


「えっ、誰?」

 慌てて聞き返したが、細い道が見えるだけで誰もいない。


「何で、ここに入ったの?」

 再び、声がした。

 俺は、相手が見えず不思議に思ったが、声が聞けて少し安心できた。


「今日からムートで騎士の修練をするんだけど、行き先が分からなくなったんだ。 でも、何で君の声だけが聞こえるの? どこにいるの?」


「近くて遠い場所にいるわ」

 俺は、意味が分からず、また不案になってきた。


「助けて! お願いだから助けて!」

 俺が、不安で泣きそうな声を出した直後、どこからともかく、美しい少女が現れた。

 俺は、驚いて言葉も出せず、ポカーンと口を開けた。


「フフッ」

 俺の顔を見て、少女は可笑しそうに笑った。
 バカにされている気がしたが、彼女に縋るしかない。何も言わず屈辱に耐えていた。

 すると、少女は、今度は怒ったような顔をした。


「あなたは迂闊にも、幻覚を見せて人を誘い込む、魔法の門に入ったのよ。 普通の人が入ったら、永久に出られなくなるわ。 たまたま同軸に私がいたから気配を感じる事ができたけど、死ぬところだったのよ!」

 少女は、厳しい口調で俺を叱った。


「そんな事を言ったって …。 訳が分からないよ …」

 そんなに歳が違わない女の子に言われたため、素直になれず、つい、言い訳をしてしまった。


「今日、来たばかりと言ったよね。 まあ、無理もないか …」

 少女は、同情するような目で俺を見つめた。
 でも俺は、不謹慎にも、その美しい眼差しに見惚れてしまっていた。
 

「私はビクトリアよ。 あなたは?」


「エッ、あっ、俺は、イースだ。 10歳になって、村から選抜されてムートに来たんだ。 それで、さっきも言ったけど、騎士の修練場を探してるんだ。 ところで、君は、ムートに来て長いの?」


「私は、国都出身だから、7歳に入って4年になるわ。 あなたより1つ上ね。 でも、こんなところで道草くってる場合じゃないわよ。 ここから出してあげるから、今度は修練場を見つけるのよ。 広場に出たら、近くの赤い屋根の建物に入るの。 決して外に出ちゃダメ!」

 ビクトリアが話した直後、パッと景色が変わり、不思議な事に、俺は、先ほどの広場に立っていた。 

 そして、ビクトリアの姿はどこにもなく、まるで夢を見ているような気分だった。

 俺は怖くなり、赤い屋根の建物に向かって一目散に走った。

 建物の中に入ると、息が切れて動けなくなり、汗も吹き出してきた。

 そうしていると、どこからともなく、子ども達の掛け声が聞こえてきた。
 俺は、吸い込まれるように、そこへ向かった。


「セヤー、セヤー、セヤー」

 その部屋には、50名ほどの子どもがいて、皆、一心に剣を突いていた。

 また、子ども達の周りには3名の屈強な男が腕組みをして、厳しい目で睨みつけていた。
 多分、教官だろう。


「ムッ、あいつか …」

 その中の1人が、俺に気付いたようだ。
 その瞬間、男は耳をつん裂くような大声を上げた。


「遅い! どこをほっつき歩いていた! 直ぐに、ここへ来い!」

 男の声がすると、修練していた子ども達の動きがピタッと止まり、一斉に俺に注目した。
 凄く恥ずかしい。

 俺は、大勢の前に立たされて酷く緊張した。そして、自分の意思とは裏腹に体がブルブルと震えだした。


「皆、聞け! 今日から、新しい仲間が加わる。 おい、おまえ、皆に挨拶しろ!」

 屈強な男は、俺の首を鷲掴みにすると、皆の前にほうり投げた。
 俺は、うまく着地できず、床に顔をぶつけてしまった。その時に、あちこちから笑い声が聞こえた。

 俺は、痛さと惨めさにより、しばらく起き上がれずにいた。
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