7年ぶりに私を嫌う婚約者と目が合ったら自分好みで驚いた

小本手だるふ

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第二十一話 アーレントの過去① 

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リガルド王国の王太子。
それがアーレントの肩書だ。

生まれた瞬時から羨望と期待を受けるその位置。
5歳下の弟ライトが産まれるまで周りにいるのは大人ばかりで、求められたのは知性・気品・威厳と子供が持たないものばかり。
いつの間にかアーレントは自分の感情というものを失って人形のような子供になっていた。

アーレントが5歳になったある日、弟のライトと同じ産まれたばかりの赤ちん坊が王城にやって来た。

その子の名前はティアラと言い、王国騎士団団長ケビン・デフェル子爵の愛娘だった。

国王陛下と王妃にライトが眠る部屋にアーレントが呼ばれ、二人の赤ん坊と対面した。

一人は母である王妃の腕の中ですやすや眠るアーレントの弟であるライト。

もう一人は騎士団長のケビンの腕の中で笑顔で「あうあう」としゃべるティアラ。

王妃がアーレントを手招くと、アーレントはおずおずと部屋の中に入って行く。

「アーレント殿下。可愛いでしょう、うちの娘」

デレデレ顔でケビンが言った。
ケビンと全く同じ赤い髪と碧の瞳をしたティアラが不意にアーレントの指を掴んだ。

「かわいい・・・・・・」

アーレントは無意識に笑顔になって声を出す。
その姿に国王陛下と王妃が微笑んでいる事にも気づかないでティアラの手をきゅっと握り返した。

アーレントの小さな手が、更に小さなティアラの手を握る姿に国王陛下と王妃とケビンは目を合わせて微笑み合う。

夕暮れ時ティアラが帰る頃、アーレントは「帰らないでっ」とケビンに泣いてすがりついた。

王妃はアーレントがこんなに子供らしい反応をすることに驚き、ケビンにまたティアラを連れてきてほしいと頼んだ。

アーレントはティアラが来ることを毎日楽しみにしていたが一週間経っても一ヶ月経っても王城にティアラが来ることはなかった。

気付くとアーレントはまた昔の様に感情のない大人びた子供に戻ってしまった。

ただライトと合う時だけは兄として優しい対応をしていたが、子供らしく感情を顕にすることはなかった。

十三年という月日が経ち、アーレントは十九歳になった。
王太子という立場上、婚約者を願う声が度々上がったがアーレントは全く女性に興味を示さなかった。

アーレントの心の中には既にティアラという存在がいたからだった。

デフェル領に視察に行きたいと何度も王妃に取り付くも、あそこは国境付近で危険だと言われ行くことが出来なかった。

そんな時、十四歳になったライトが王国騎士団副団長としてデフェル領に行く事になったと聞きアーレントは心底羨ましかった。

アーレントは、どうにかしてデフェル領に行くことは出来ないかと考えたがいい案は浮かばなかった。

そんなある日、ダレス伯爵家主催のパーティに参加することになった。

ダレス伯爵の娘のオルガが変わった発明品を作っていると言う噂が耳に入ってきて少し興味が湧いた。

夜会が始まっているにも関わらず会場にオルガは来ず、研究室として作った離れで作業をしていた。

どんな人物かと近づけば、王太子であるアーレントに興味はないから発明の邪魔をせずさっさと出ていって、と言い放つ男勝りな女性だった。

「素晴らしい発明品をたくさん作っているらしいね。これは何だい?」

アーレントは作業台の上にある黒い塊を指差して言った。

発明品を褒めたことで、オルガはアーレントに心を開き、ペラペラと喋り出す。

「まあね、私って天才だから。それはさっき完成したばかりの変装マスクよ。モデルはライト殿下の顔・・・・・・って、返してよ」

アーレントは「これだ!」と心で叫んだ。

金髪の自分が黒髪のライトに変装すれば、デフェル領に行くことが出来る。

ティアラに会えるっ!!

「悪いがこれは貰う。御礼は必ずするからっ」

「はぁ?・・・・・・って、待て泥棒っ。マスク返せっ」

アーレントはオルガから奪った変装マスクを握りしめてダレス伯爵邸を脱兎の勢いで抜け出し乗ってきた馬車で王城に戻った。

◇◇◇◇

帰宅してすぐ変装マスクを試したアーレントは、寝室の鏡の前に立ち呆然としている。

「これは凄い。まんまライトだ」

オルガの変装マスクを付けたアーレントが鏡の前でライトの顔になった自分の顔を不思議そうになぞる。

コンコンッ。
誰かがアーレントの部屋をノックした。

騙せるだろうか?という不安と期待を胸に「どうぞ」と答えると使用人が入ってきた。

「ラ、ライト様?アーレント様はどちらでしょう?」

まさかアーレントがライトに扮しているとは思わない使用人が部屋の中を見回す。

「あ、兄上なら外の空気を吸いに行くと言われて出ていったぞ」

声色もできる限りライトに似せてみると、使用人は「ではまた来ます」と何の疑いもなく去っていった。

凄い。これならみんなを欺いて外出が出来る。

アーレントは、嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。
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