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第十六話 新入生の歓迎舞踏会

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翌日、昼休み。
オルガと私は食堂に来ていた。
今日のランチはトマトソースのスパゲッティとバジルとベビーリーフのシーザーサラダとコーンスープのセット。

「で、流れで一線を超えてしまったと言うわけね」

トマトが飛び散らないようにそっと食べていたのに、オルガがむせるような事をいきなり言い出した。

「ゲホッ。ばっ、馬鹿な事を言わないでよ オルガ!」

昨日セントラル劇場を飛び出してすぐ、殿下と出くわした後で馬車で送って貰った時に、ティアラ嬢の事やお互い好きだと告白し合った話をオルガにしたら、オルガが話を跳躍するものだから思わず大きな声が出た。

「えー、だって今の話の流れだと普通・・・・・・って相手が殿下じゃ、ないかぁ~」

ランチのピザをパクっと食べてチーズをタラーンと伸ばすオルガに「食べ方!」と注意をするも、オルガは全く気にせず「殿下、堅物だもんね~」と笑っっている。

堅物・・・・・・でもないわよね、ライト様は。
意外とグイグイ来ていたような気がするわ。

まあ、一線までとはいかずとも口づけくらいはしてもいい流れではあったわよね。

「なに?キスぐらいしたかったって?」

オルガの言葉に、私の顔が真っ赤になった。

なっ、何で分かるの?
もしかして私、気持ちが顔に出てた!?

真っ赤になった私を見てオルガが「か~わいい」と笑った。

「ライト様がそんなふしだらな事を結婚前にするわけないでしょっ」

「あれ?殿下呼びやめたの?お互い誤解も解けて一歩前進、万々歳じゃん」

「・・・・・・それが、万々歳でもないのよね」

私はオルガに、ティアラ嬢の運命の相手がライト様じゃなかった事を伝えた。

「ティアラ嬢の運命の相手がライト様じゃないなら、一体誰が運命の相手なのかしら」

「え~、別に気にならないけど。興味ないし~」

そう言ってオルガは私の手の上にポンと何かを置いた。
それはいつぞや私が壊したはずのあの眼鏡だった。

「ちょっと、これ、まさか!?」

「量産してるの」とにっこりオルガは笑っているけど、これって犯罪まがいの物よね?
まぁ 悪い事に使わなければいいだけ、かな。

私は「要らない」と、オルガに眼鏡を返した。

「ねえ、アリシア。来週末のあれ・・・・・・面倒くさいね」

そう言ってオルガが食堂の入り口を指さした。
そこには来週末に行われる新入生の歓迎舞踏会のお知らせのポスターが貼ってあった。
それはデカデカと金髪に青い瞳の美男子の描かれたポスターで、まさにその方が我がリガルド王国の王太子アーレント様なのだ。
今年から両陛下に代わってアーレント様が舞踏会のファーストダンスを踊るとデカデカと広告されていて、女子生徒達は王太子殿下のお相手は誰になるのかしらと皆して噂をしていた。

「うん。同感だわ」

アカデミー伝統の新入生の歓迎舞踏会。
それは表の面目で、その実は貴族同士のお見合いパーティ。

有力な貴族達は結婚や婚約を最高のビジネスチャンスとして考えている。

家格の低い者でも舞踏会で王侯貴族に見初められる事だってあり得るから、皆必死になって参加してくるとお父様が以前言っていた。

私も舞踏会とか綺羅びやかな場所はあんまり好きじゃないからオルガの気持ちがよくわかる。

「でも、ライト殿下の婚約者なら参加しないわけにはいかないわね。ご愁傷さま」

「え?オルガは?出席しないの?」

「パートナーいないから無理」

「え?でも今年のファーストダンスって王太子殿下がされるんでしょう?オルガが一緒に踊るんじゃないの?」

何と言っても王国の数多の美しい令嬢を袖に振ってきた女嫌いのアーレント様と唯一話しができるのがオルガなのだ。

「んぁ?アーレントと?・・・・・・ないわぁ」

歓迎舞踏会のファーストダンスは王族が踊るのが習わし。去年までは国王陛下と皇后陛下が踊られていたけど、今年はなんと王太子殿下が踊ると聞いたから、てっきりオルガの入学に合わせて王太子殿下が踊るんだと思っていたけど違うのかしら。

「あれー?やばっ。また逃げられた」

ん?この声は・・・・・・ランディ?

その声は食堂の入り口とは反対の窓の外から聞こえてきた。
私の視線の先には、グラウンドがあってランディが頬に流れる汗を手で拭いながら周りをキョロキョロしていた。

多分、ティアラ嬢を探しているんだろうと察しがつく。

「ランラン!」

ん?ラン・・・ラン?

オルガがランディの方を向いてそう言ったから多分ランランはランディの事なのだろうと思うけど、何その呼び方っ!?

「オルガ?」

私が声をかけてもオルガはピクリともせずにランディを見つめている。

え?どういう関係ですかあなた達?

しばらくするとランディはティアラ嬢を見つけたのか「あ!」と言ってどこかに向かって走り去って行った。

「ねえ、オルガ?もしかしてランディと知り合いなの?」

「しっ、知らないっ!ランドルフ・ジョハンなんて知らない」

・・・・・・知ってるのね。

オルガが真っ赤になった頬に両手を当てて首をブンブンと横に振る。
この反応、紛れもない恋する乙女ではないのかしら?

「ねえ、もしかしてオルガはランディの事が好きなの?」

「なっ!違うっ。あいつはっ、ランランはっ、同じ伯爵家同士で小さい頃からの知り合いなだけでっ、ただそれだけの関係だっ!」

・・・・・・好きなのね。

オルガの元々大きな赤い瞳が更に大きくなって目が泳いでいる。
あのオルガにもこんな一面があるなんて意外だわ。
そして相手がまさかのランディとはね。

そっか。それじゃアーレント様とのダンスに興味がない態度を取るのも納得がいくわ。

「パートナーがいないんなら、舞踏会にランディを誘ってみたら?」

「ばっ、馬鹿言わないで。なんで私が伯爵家の三男坊なんかに声を掛けなきゃいけないのよ。ラ、ランランがどうしてもって言うなら行ってあげてもいいけど」

「それじゃあ、私がランディに聞いてみようかしら。舞踏会のお相手はいるのかって」

「聞いてくれ、是非」

聞いてほしいかったのね。

オルガが私の両手を握り祈るような切実な目で見つめてきた。

そうね。親愛なる従姉妹のためにも一肌脱いでみようかしら。

ティアラ嬢の運命のお相手も、もしかしたら歓迎舞踏会に出席するかもしれないものね。

「うん。分かったわ」

オルガの意外な一面が知れた貴重な昼休みだった。
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