7年ぶりに私を嫌う婚約者と目が合ったら自分好みで驚いた

小本手だるふ

文字の大きさ
上 下
12 / 25

第十二話 SIDE:ライト

しおりを挟む
ピチチチッと、小鳥の囀りで目を冷ますと暖かい太陽が僕の部屋に明かりを落としていた。

デフェル子爵令嬢は学生寮に入ってはいないので休日に彼女にベタベタ付き纏われる心配はない。

しかし学業の他に第二王子としての業務が溜まっていて、休みの日に処理しなくてはいけない書類が山積みだ。

これではレティシアと休日にデートに行くことも出来ないではないかっ。

朝食を皆と同じ様に食堂で食べたあと、僕は部屋に戻り机に着く。

ペタンペタンと山積みになっている書類を片付けて一段落ついた時、僕はある男を呼び出した。

「ランディを呼べ」

僕は僕の代わりにティアラ・デフェル子爵令嬢に付けた護衛騎士のランディを呼びつけた。

程なくして部屋がノックされた。
「入れ」と言えば「失礼します」と返事があって扉が開かれた。

ランドルフ・ジョハン。
灰色の髪色に水色の瞳は、腕の立つランディの雰囲気を優しい男に見せている。
ランディは代々優秀な騎士を多く排出してきたジョハン伯爵家の三男だ。

「ライト殿下、お呼びでしょうか・・・・・・ひいっ」

ランディが入室してすぐ驚くのも仕方がない。
今、僕はランディの喉元に剣を突きつけているのだから。

「お前にデフェル子爵令嬢の護衛を任せたのに何故何度も出し抜かれるんだ?まさかお前、裏切りか?」

「ちっ、違いますよ。あの人腕が立つんですってばっ」

「腕が立つ?僕と一緒に多くの戦場を駆け抜けてきたランディよりもデフェル子爵令嬢が強いとは到底思えない。・・・・・・さてはお前」

僕の言葉にランディがギクッと肩を不自然に動かしたから確信した。
僕はランディに近づき、スッとポケットの中に手を伸ばしあるものを取り出した。
ランディのポケットの中から出てきたのは可愛らしいラッピングがされたクッキーの入った袋だった。

「胃袋を掴まれたのか?」

「すすす、すみません。だってあの人めっちゃ旨いお菓子くれるんですよ~。料理の腕が半端なくって。一口だけ食べる間にいつも逃げられて・・・・・・ってすいません!殿下殺さないでっ。でもでも、殿下の隣の席は守ったじゃないですかっ」

ランディのふざけた言い訳を僕は容認出来ず、つい剣を握る手に力が入る。

もちろん本気で殺すつもりはないがこの苛立ちをどうしろと?

「当たり前だろう。もしもあの時、お前が間に入ってなかったら今頃アリシアの隣という楽園の様な場所が奪われていたんだぞ!?」

ランディは腕が立つが甘い物に目がないのが唯一の欠点なのだが、まさかデフェル子爵令嬢に菓子作りの才があったとは誤算だった。
僕は はあ、と溜息をついたあと本題に入った。

「で?脅迫状の件はどうなってる?」

僕がそう聞けばランディはピッと姿勢を正し敬礼の姿勢になった。

「はっ。今のところデフェル子爵令嬢の周りで何か大事が起きた報告はありません」
「そうか」

やはりただのいたずらだったのか?
入学して二週間が経つが、今のところデフェル子爵令嬢が命にさらされる様な事は起きていない。

「ところで殿下。こんなに晴れているのに外出されないのですか?今日アリシア様は観劇を見にセントラル劇場に行かれているそうですよ」
「何っ!?」

ガタンと僕が勢い良く立ち上がれば、ランディが「うわぁ、ビックリした」と大袈裟に驚く。

「ダレス伯爵令嬢が言ってました。チケット2枚ありますけど行きます?」

「アリシアの休日の予定をよく手に入れた。でかしたぞランディ!」

ランディが懐から取り出したチケットをバッと奪って僕は意気揚々とランディと共に部屋を出る。

「ぐずぐずするな、行くぞ!」

◇◇◇◇

セントラル劇場は城下町の中心にある。
休日で人が多いが僕とランディは黒いフードを被り人並みを掻き分けて進んでいった。

キャラメルポップコーンの香りに吸い寄せられたランディが店のショーウィンドウにへばりついたので、耳を引っ張って引き剥がそうとしたその時だった。

「お前、いい加減にしろよ」
「いでででっ。殿下やめてください。痛たたっ・・・・・・あれ?」

ランディが、店のショーウィンドウ越しに何かを発見したようでその視線を僕も追う。

「あ!・・・・・・え!?」

僕が目にしたのは、可愛らしいワンピースに身を包んだアリシア・・・・・・と、見知らぬ男だった。
バッと振り返りアリシアを視線で追う。

ミントグリーンのワンピースが可憐でかわいいな。じゃなくって、アリシアの隣にいる茶髪のやせ細った男は誰だっ。

僕は仲良くセントラル劇場に入っていく二人を呆然と見つめた。

「で、殿下?大丈夫・・・・・・じゃないですね」

ショックを受けた僕に気づいたランディが声をかけてきたが、僕は動くことも出来ずにその場で魂が抜けた廃人の様になった。


    
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

虐げられた令嬢は、耐える必要がなくなりました

天宮有
恋愛
伯爵令嬢の私アニカは、妹と違い婚約者がいなかった。 妹レモノは侯爵令息との婚約が決まり、私を見下すようになる。 その後……私はレモノの嘘によって、家族から虐げられていた。 家族の命令で外に出ることとなり、私は公爵令息のジェイドと偶然出会う。 ジェイドは私を心配して、守るから耐える必要はないと言ってくれる。 耐える必要がなくなった私は、家族に反撃します。

婚約者から妾になれと言われた私は、婚約を破棄することにしました

天宮有
恋愛
公爵令嬢の私エミリーは、婚約者のアシェル王子に「妾になれ」と言われてしまう。 アシェルは子爵令嬢のキアラを好きになったようで、妾になる原因を私のせいにしたいようだ。 もうアシェルと関わりたくない私は、妾にならず婚約破棄しようと決意していた。

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません

天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。 私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。 処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。 魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

妹と婚約者は私が邪魔なようなので、家から出て行きます

天宮有
恋愛
 伯爵令嬢の私アリカが作った魔法道具の評判はよかったけど、妹メディナが作ったことにされてしまう。  婚約者ダゴンはメディナの方が好きと言い、私を酷使しようと目論んでいた。  伯爵令嬢でいたければ従えと命令されて、私は全てがどうでもよくなってしまう。  家から出て行くことにして――魔法道具は私がいなければ直せないことを、ダゴン達は知ることとなる。

他の人を好きになったあなたを、私は愛することができません

天宮有
恋愛
 公爵令嬢の私シーラの婚約者レヴォク第二王子が、伯爵令嬢ソフィーを好きになった。    第三王子ゼロアから聞いていたけど、私はレヴォクを信じてしまった。  その結果レヴォクに協力した国王に冤罪をかけられて、私は婚約破棄と国外追放を言い渡されてしまう。  追放された私は他国に行き、数日後ゼロアと再会する。  ゼロアは私を追放した国王を嫌い、国を捨てたようだ。  私はゼロアと新しい生活を送って――元婚約者レヴォクは、後悔することとなる。

悪いのは全て妹なのに、婚約者は私を捨てるようです

天宮有
恋愛
伯爵令嬢シンディの妹デーリカは、様々な人に迷惑をかけていた。 デーリカはシンディが迷惑をかけていると言い出して、婚約者のオリドスはデーリカの発言を信じてしまう。 オリドスはシンディとの婚約を破棄して、デーリカと婚約したいようだ。 婚約破棄を言い渡されたシンディは、家を捨てようとしていた。

破滅した令嬢は時間が戻ったので、破滅しないよう動きます

天宮有
恋愛
 公爵令嬢の私リーゼは、破滅寸前だった。  伯爵令嬢のベネサの思い通り動いてしまい、婚約者のダーロス王子に婚約破棄を言い渡される。  その後――私は目を覚ますと1年前に戻っていて、今までの行動を後悔する。  ダーロス王子は今の時点でベネサのことを愛し、私を切り捨てようと考えていたようだ。  もうベネサの思い通りにはならないと、私は決意する。  破滅しないよう動くために、本来の未来とは違う生活を送ろうとしていた。

婚約者を奪われた私が悪者扱いされたので、これから何が起きても知りません

天宮有
恋愛
子爵令嬢の私カルラは、妹のミーファに婚約者ザノークを奪われてしまう。 ミーファは全てカルラが悪いと言い出し、束縛侯爵で有名なリックと婚約させたいようだ。 屋敷を追い出されそうになって、私がいなければ領地が大変なことになると説明する。 家族は信じようとしないから――これから何が起きても、私は知りません。

処理中です...