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第十話 殿下の気持ちが分からない
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ホームルームが終わり、隣の席のライト殿下がツンツンと私の肘を突いた。
「アリシア、帰り支度が済んだら帰ろう」
私は殿下にコクンと無言で頷いた。
ティアラ嬢との事を全て話すと言っていたけど、一体どんな話をされるのかしら。
内心でソワソワしながら殿下をちらっと見れば、帰り支度をする横顔のライト殿下がかっこいい。
殿下の横顔がかっこ良すぎてボーッとして手が止まっている私を「手、止まってる」と殿下が笑って指摘した。
何だか恥ずかしくて、それを隠すために急いで机の上を綺麗にしてカバンを持って席を立った。
私よりも少し早く帰り支度を終えて既に席を立っていた殿下に手を差し伸べられたので、私は恥ずかしながらもそっと手を添えた。
そして一緒に教室を出ようとしたその時だった。
「殿下、エスコートのお相手を間違えているのでは?」
そうだったわ。
ティアラ嬢の席は廊下側の一番後ろ。
私達が教室を出て行こうとした既のところでティアラ嬢の声がして、私と殿下の足が止まる。
殿下に廊下で待つようにと小声で囁かれ、私は仕方なく一人で先に教室を出た。
5分程して、殿下が深妙な顔付きで教室を出てきた。その後ろからティアラ嬢がひょっこりと満面の笑みで顔を出してきたので私は驚いた。
「アリシア、本当にすまない。話はまた今度でもいいだろうか?」
いいわけない。でも・・・・・・。
私は拳をぎゅっと握りしめ、自分の気持ちを抑えた。
貴族の淑女たるもの、小さな事で苛立ってはいけないのです。
ここで私が我儘を言えば困るのはライト殿下なのだから。
「分かりました 殿下。ではまた、ごきげんよう」
精一杯の笑顔で言えば、殿下はすまなそうに「ありがとう」と言った。
結局、私は学生寮に一人で帰る事となった。
「あーあ。淑女とか、もう嫌だなぁ・・・・・・」
周りはキャアキャアと楽しそうにしているのに、私は物凄く暗い気持ちを抱えながら、すれ違う人達に愛想笑いを返しつつ学生寮に向かって歩いて行った。
◇◇◇◇
女子の学生寮は、アカデミーの建物と同じ色。2階建てで全室個室になっている。
部屋の中は至ってシンプル。
学習机の横に開閉式の棚とベッド。
自宅から持ってきたお気に入りのソファーを窓辺に置いてもまだ少しの余裕がある位の広さ。
先に部屋に運ばれていた荷物の荷ほどきを終え、少し埃っぽさを感じて窓を開けると、グラウンドの向こう側に男子寮が見えた。
「ライト殿下はあそこかぁ・・・・・・」
ふうとため息をついたあと私は備え付けのベッドに仰向けに倒れ込んだ。
殿下はなぜそんなにもティアラ嬢を優先するの?
もしや、ティアラ嬢を助けた時の事を思い出してティアラ嬢の事が気になっているとか?
でも私に好きとか真実の愛とかって言ってしまった手前困っている状態だったりして・・・・・・。
あり得・・・・・・ないと言い切れないのが悲しいわ。
はあぁあぁぁ、と自分の勝手な妄想に深いため息が出てしまう。
初日からこんな調子で私のアカデミー生活大丈夫なのかしら?
そんな私の予感は見事的中した。
次の日もその次の日もライト殿下のいるところに必ずティアラ嬢が現れる。
唯一の救いは教室で隣の席だということ。
ちらっと横を向けば殿下の真剣な眼差しが見れるのはとても嬉しい。
でもお喋りが出来る休み時間になればティアラ嬢がすかさずやって来ては殿下を何処かへ連れて行ってしまう。
その繰り返しだった。
なぜ殿下はティアラ嬢を優先してしまうの?
私よりもティアラ嬢を好きになってしまったなら正直に言ってくれればいいのに・・・・・・。
殿下の幸せの為なら、辛いけどいつだって私は身を引くつもりなのに・・・・・・。
一週間後。
「アリシア、お昼行こ」
お昼休み、オルガに誘われランチを食べに食堂に行った。
今日のランチはオムライスセット。
オルガは「おいしい、おいしい」と言いながらガツガツ食べている。
「・・・・・・はぁあああぁ」
「大丈夫?魂抜けてるわよ」
うなだれる私を心配して言っている冗談だと分かっているけど、私は本当に魂が抜けそうなほど疲弊していた。
「何?何でそんなに重苦しいの?」
「それは・・・・・・」
私はオルガに、ティアラ嬢の妨害で入学式の日以来ライト殿下と全く会話という会話が出来ていない事を伝えた。
「はぁ?全部話すって言われてたんじゃないの?」
「それもティアラ嬢の邪魔があって結局何も聞けてないの」
「・・・・・・そっか。そりゃストレス溜まるわね」
「うん。でもオルガ 一人だけでも理解してくれている人がいると思うだけで何だかホッとしたわ。ありがとう」
とは言ったものの、私の心が晴れることはなく、ボーッと頬杖をついていたらオルガがカバンの中をガサガサ探し出した。
「じゃあさ、今度の休みに気晴らしにこれ行ってみない?」
「?」
オルガは購買で大人気のクリームパンを高々とかかげている。
「これでどんな気晴らしが?」
「え?ああっ、間違えた。違う違う、これこれ」
そう言ってオルガが手に持ち直して私に見せてくれた物は観劇のチケットだった。
「それって、観劇のチケット?」
「ふん(うん)。ひはははひほはんへひはんはっへ(今流行の観劇なんだって)」
オルガがさっき間違って出したクリームパンを開けてかじりながら話すものだからよく聞き取れなかったけど、観劇のチケットであることは分かった。
うじうじしてても仕方ない。
せっかくのオルガの提案だもの、気晴らしに行ってみるのも良いかもしれないわ。
「ありがとう。私、行くわ」
「ほーはい(了解)」
食べながら喋るなんて行儀が悪いわよとオルガに笑いながら言えば、やっと笑ったねと言われた。
確かに私、久々に笑ったかも。
お昼休みは今日もあっという間に過ぎていった。
「アリシア、帰り支度が済んだら帰ろう」
私は殿下にコクンと無言で頷いた。
ティアラ嬢との事を全て話すと言っていたけど、一体どんな話をされるのかしら。
内心でソワソワしながら殿下をちらっと見れば、帰り支度をする横顔のライト殿下がかっこいい。
殿下の横顔がかっこ良すぎてボーッとして手が止まっている私を「手、止まってる」と殿下が笑って指摘した。
何だか恥ずかしくて、それを隠すために急いで机の上を綺麗にしてカバンを持って席を立った。
私よりも少し早く帰り支度を終えて既に席を立っていた殿下に手を差し伸べられたので、私は恥ずかしながらもそっと手を添えた。
そして一緒に教室を出ようとしたその時だった。
「殿下、エスコートのお相手を間違えているのでは?」
そうだったわ。
ティアラ嬢の席は廊下側の一番後ろ。
私達が教室を出て行こうとした既のところでティアラ嬢の声がして、私と殿下の足が止まる。
殿下に廊下で待つようにと小声で囁かれ、私は仕方なく一人で先に教室を出た。
5分程して、殿下が深妙な顔付きで教室を出てきた。その後ろからティアラ嬢がひょっこりと満面の笑みで顔を出してきたので私は驚いた。
「アリシア、本当にすまない。話はまた今度でもいいだろうか?」
いいわけない。でも・・・・・・。
私は拳をぎゅっと握りしめ、自分の気持ちを抑えた。
貴族の淑女たるもの、小さな事で苛立ってはいけないのです。
ここで私が我儘を言えば困るのはライト殿下なのだから。
「分かりました 殿下。ではまた、ごきげんよう」
精一杯の笑顔で言えば、殿下はすまなそうに「ありがとう」と言った。
結局、私は学生寮に一人で帰る事となった。
「あーあ。淑女とか、もう嫌だなぁ・・・・・・」
周りはキャアキャアと楽しそうにしているのに、私は物凄く暗い気持ちを抱えながら、すれ違う人達に愛想笑いを返しつつ学生寮に向かって歩いて行った。
◇◇◇◇
女子の学生寮は、アカデミーの建物と同じ色。2階建てで全室個室になっている。
部屋の中は至ってシンプル。
学習机の横に開閉式の棚とベッド。
自宅から持ってきたお気に入りのソファーを窓辺に置いてもまだ少しの余裕がある位の広さ。
先に部屋に運ばれていた荷物の荷ほどきを終え、少し埃っぽさを感じて窓を開けると、グラウンドの向こう側に男子寮が見えた。
「ライト殿下はあそこかぁ・・・・・・」
ふうとため息をついたあと私は備え付けのベッドに仰向けに倒れ込んだ。
殿下はなぜそんなにもティアラ嬢を優先するの?
もしや、ティアラ嬢を助けた時の事を思い出してティアラ嬢の事が気になっているとか?
でも私に好きとか真実の愛とかって言ってしまった手前困っている状態だったりして・・・・・・。
あり得・・・・・・ないと言い切れないのが悲しいわ。
はあぁあぁぁ、と自分の勝手な妄想に深いため息が出てしまう。
初日からこんな調子で私のアカデミー生活大丈夫なのかしら?
そんな私の予感は見事的中した。
次の日もその次の日もライト殿下のいるところに必ずティアラ嬢が現れる。
唯一の救いは教室で隣の席だということ。
ちらっと横を向けば殿下の真剣な眼差しが見れるのはとても嬉しい。
でもお喋りが出来る休み時間になればティアラ嬢がすかさずやって来ては殿下を何処かへ連れて行ってしまう。
その繰り返しだった。
なぜ殿下はティアラ嬢を優先してしまうの?
私よりもティアラ嬢を好きになってしまったなら正直に言ってくれればいいのに・・・・・・。
殿下の幸せの為なら、辛いけどいつだって私は身を引くつもりなのに・・・・・・。
一週間後。
「アリシア、お昼行こ」
お昼休み、オルガに誘われランチを食べに食堂に行った。
今日のランチはオムライスセット。
オルガは「おいしい、おいしい」と言いながらガツガツ食べている。
「・・・・・・はぁあああぁ」
「大丈夫?魂抜けてるわよ」
うなだれる私を心配して言っている冗談だと分かっているけど、私は本当に魂が抜けそうなほど疲弊していた。
「何?何でそんなに重苦しいの?」
「それは・・・・・・」
私はオルガに、ティアラ嬢の妨害で入学式の日以来ライト殿下と全く会話という会話が出来ていない事を伝えた。
「はぁ?全部話すって言われてたんじゃないの?」
「それもティアラ嬢の邪魔があって結局何も聞けてないの」
「・・・・・・そっか。そりゃストレス溜まるわね」
「うん。でもオルガ 一人だけでも理解してくれている人がいると思うだけで何だかホッとしたわ。ありがとう」
とは言ったものの、私の心が晴れることはなく、ボーッと頬杖をついていたらオルガがカバンの中をガサガサ探し出した。
「じゃあさ、今度の休みに気晴らしにこれ行ってみない?」
「?」
オルガは購買で大人気のクリームパンを高々とかかげている。
「これでどんな気晴らしが?」
「え?ああっ、間違えた。違う違う、これこれ」
そう言ってオルガが手に持ち直して私に見せてくれた物は観劇のチケットだった。
「それって、観劇のチケット?」
「ふん(うん)。ひはははひほはんへひはんはっへ(今流行の観劇なんだって)」
オルガがさっき間違って出したクリームパンを開けてかじりながら話すものだからよく聞き取れなかったけど、観劇のチケットであることは分かった。
うじうじしてても仕方ない。
せっかくのオルガの提案だもの、気晴らしに行ってみるのも良いかもしれないわ。
「ありがとう。私、行くわ」
「ほーはい(了解)」
食べながら喋るなんて行儀が悪いわよとオルガに笑いながら言えば、やっと笑ったねと言われた。
確かに私、久々に笑ったかも。
お昼休みは今日もあっという間に過ぎていった。
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