7年ぶりに私を嫌う婚約者と目が合ったら自分好みで驚いた

小本手だるふ

文字の大きさ
上 下
6 / 25

第六話 入学式当日の朝

しおりを挟む
晴れ渡る青空の一日。

一人早めに朝食を終えた私は自分の部屋に戻り、ふと窓の外を見ると、中庭に咲く満開の桜の花が見えた。

それもそのはずね。昨日で3月も終わって今日から4月なんだもの。

今日が王立アカデミーの入学式のため、暫くの間この家ともお別れとなる。

視線を部屋の方に戻せば壁際にハンガーラックに掛かった真新しいアカデミーの制服と通学用のカバンがあった。

アカデミーの制服は白を貴重にしたワンピースに短めのボレロをまとうシンプルなもの。
学年によってボレロの色が違っていて、私は一年生だから桃色のボレロ。
ちなみに二年生は黃緑で、三年生になると紺色と、だんだん落ち着いた色になっていく。

アンナがそろそろ来る頃だけど、時間もあったので自分で身支度を整えることにした。
髪の毛は三つ編みでひとつ纏め。

鏡台に座ってもう一度自分の姿を確認していた時、コンコンと扉がノックされた後に、どうせ着替えもせずのんびりしているだろうと思って入室してきたのか、アンナは身支度を終えた私見て言葉を失い、持っていた櫛と髪飾りなどが入った小箱を落とした。

「・・・・・・」
「なにアンナ。私が自分で身支度をした事がそんなに驚きだったの?」

感動の涙だろうか、ハンカチで涙を拭いながら落とした物を拾った後「お嬢様ぁ~」とアンナが叫びながら走り寄ってきた。

「お嬢様、制服の横のファスナーが開いています。ああ、こんな調子でお嬢様は本当に学生寮で一人暮らしが出来るのでしょうか?アンナは気が気ではありませんっ」
「えっ!?」

驚いて見てみれば、確かに制服の脇がパックリ開いていたて、アンナが泣きながら私の制服のファスナーを上げてくれた。

完璧だと思っていただけに、私は物凄く恥ずかしかった。

気を取り直して通学用のカバンを持ち、「似合うかしら?」と聞けばアンナは満面の笑みになる。

「桃色のボレロ良く似合っておりますよ、お嬢様」

でも、何故か悲しそうな表情で涙を浮かべるアンナにがいた。

「アンナ、泣かないで」

「お嬢様としばしのお別れだというのに、これが泣かずにいられますかぁ」

「私だって寂しいのよ?ほら、笑顔で送り出してちょうだい」

私も本当はすごく寂しい。
15年もずっとここにいたんだから。
そう思うと私もじんわり涙が溢れて来て、アンナにギュッと抱きついた。

「夏休みには帰ってくるからね」

アンナはコクンコクンと首を縦に振った。
暫くして私とアンナは部屋を出て両親が待つダイニングへ向かうべく階段を降りる。

なかなか降りてこない私を心配したのか両親が階段下で私を待っていた。

「おはよう、アリシア。昨日は良く眠れたかい?」

「はい、よく眠れました。お父様は如何でしたか?」

如何でしたかと聞いたと同時だった。

「アリシアーーーッ」

涙をたくさん浮かべたお父様が私に抱きついてきたのだ。全く、アンナといいお父様といいすぐ泣くんだから・・・・・・。

「今生の別れというわけでもないのに、父親のあなたがそんなでどうするんですか?外には馬車がもう停まっているのよ」

「しかし、明日からアリシアが家にいないと思うだけでこの父の胸は張り裂けそうなんだぁ」

子供の様に号泣するお父様を私から引き離し、お父様をよしよしするお母様。

泣いたままお母様に手を引かれて歩いて来るお父様の他に、アンナをはじめたくさんの使用人達が見送りのために外に出てきてくれた。

馬車に乗り窓を開けるとお父様とお母様が近付いて来た。

「アリシア、アカデミーで色んな事を学んでくるのよ」
「気をつけてなぁ~」
「はい、お父様 お母様。行ってまいります」

馬車がゴトゴトと動き出し次第にスピードが上がっていく。
だんだん小さくなっていく皆の姿が見えなくなるまで私は手を振り続けた。

みんなが見えなくなった後、馬車道に心地よい風が吹き、風の吹く方を向けばアカデミーのある王都の町並みがうっすら見えて、私の胸はドキドキと高鳴った。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

婚約者から妾になれと言われた私は、婚約を破棄することにしました

天宮有
恋愛
公爵令嬢の私エミリーは、婚約者のアシェル王子に「妾になれ」と言われてしまう。 アシェルは子爵令嬢のキアラを好きになったようで、妾になる原因を私のせいにしたいようだ。 もうアシェルと関わりたくない私は、妾にならず婚約破棄しようと決意していた。

虐げられた令嬢は、耐える必要がなくなりました

天宮有
恋愛
伯爵令嬢の私アニカは、妹と違い婚約者がいなかった。 妹レモノは侯爵令息との婚約が決まり、私を見下すようになる。 その後……私はレモノの嘘によって、家族から虐げられていた。 家族の命令で外に出ることとなり、私は公爵令息のジェイドと偶然出会う。 ジェイドは私を心配して、守るから耐える必要はないと言ってくれる。 耐える必要がなくなった私は、家族に反撃します。

妹と婚約者は私が邪魔なようなので、家から出て行きます

天宮有
恋愛
 伯爵令嬢の私アリカが作った魔法道具の評判はよかったけど、妹メディナが作ったことにされてしまう。  婚約者ダゴンはメディナの方が好きと言い、私を酷使しようと目論んでいた。  伯爵令嬢でいたければ従えと命令されて、私は全てがどうでもよくなってしまう。  家から出て行くことにして――魔法道具は私がいなければ直せないことを、ダゴン達は知ることとなる。

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません

天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。 私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。 処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。 魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

他の人を好きになったあなたを、私は愛することができません

天宮有
恋愛
 公爵令嬢の私シーラの婚約者レヴォク第二王子が、伯爵令嬢ソフィーを好きになった。    第三王子ゼロアから聞いていたけど、私はレヴォクを信じてしまった。  その結果レヴォクに協力した国王に冤罪をかけられて、私は婚約破棄と国外追放を言い渡されてしまう。  追放された私は他国に行き、数日後ゼロアと再会する。  ゼロアは私を追放した国王を嫌い、国を捨てたようだ。  私はゼロアと新しい生活を送って――元婚約者レヴォクは、後悔することとなる。

悪いのは全て妹なのに、婚約者は私を捨てるようです

天宮有
恋愛
伯爵令嬢シンディの妹デーリカは、様々な人に迷惑をかけていた。 デーリカはシンディが迷惑をかけていると言い出して、婚約者のオリドスはデーリカの発言を信じてしまう。 オリドスはシンディとの婚約を破棄して、デーリカと婚約したいようだ。 婚約破棄を言い渡されたシンディは、家を捨てようとしていた。

私が張っている結界など存在しないと言われたから、消えることにしました

天宮有
恋愛
 子爵令嬢の私エルノアは、12歳になった時に国を守る結界を張る者として選ばれた。  結界を張って4年後のある日、婚約者となった第二王子ドスラが婚約破棄を言い渡してくる。    国を守る結界は存在してないと言い出したドスラ王子は、公爵令嬢と婚約したいようだ。  結界を張っているから魔法を扱うことができなかった私は、言われた通り結界を放棄する。  数日後――国は困っているようで、新たに結界を張ろうとするも成功していないらしい。  結界を放棄したことで本来の力を取り戻した私は、冒険者の少年ラーサーを助ける。  その後、私も冒険者になって街で生活しながら、国の末路を確認することにしていた。

婚約者を奪われた私が悪者扱いされたので、これから何が起きても知りません

天宮有
恋愛
子爵令嬢の私カルラは、妹のミーファに婚約者ザノークを奪われてしまう。 ミーファは全てカルラが悪いと言い出し、束縛侯爵で有名なリックと婚約させたいようだ。 屋敷を追い出されそうになって、私がいなければ領地が大変なことになると説明する。 家族は信じようとしないから――これから何が起きても、私は知りません。

処理中です...