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第四話 アカデミーの通学方法

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まさかのライト殿下の緊急訪問でなんやかんやあったけど、私も平常心を取り戻しお父様とお母様とライト殿下と共に応接室で食事を頂いていたら、不意にお父様が口を開いた。

「そう言えば、二人ともアカデミーの入学の準備は順調かい?もう入学まで一月もないんだ。しっかり準備をしないと行けないぞ」

屈託のない明るい笑顔のお父様がそう言えば、隣で座るお母様が そうね、と優しく微笑んだ。

お父様とお母様はアカデミーで出会って恋に落ちたという貴族にとっては珍しい恋愛結婚。

家柄もお母様は元伯爵令嬢ということもあって特に問題なく結婚に至ったんだとか。

「私は準備万端です。もう学生寮の手筈だって整っていますし・・・・・・」
「え?」

え?と殿下に驚かれて私は殿下の方を向く。
そこには何か裏切られたと言わんばかりの表情の殿下がいた。

「学生寮に入るのか?」

何だか私が学生寮に入るのが意外だったようで、信じられないとか、あり得ないとブツブツ言っている。

「アリシアを馬車で迎えに行って一緒に登校する事を最前線で戦いながら夢にまで見ていたのに・・・・・・」

蚊の鳴くような声で殿下がモゴモゴ呟いていたけど、その言葉は私にはよく聞こえなかった。

「親元を離れて一人の立派な貴族令嬢として成長するいいチャンスなんだもの。殿下、応援してくださいますよね?」

「馬車で通学ではなく、学生寮に入ると?」

「はい。もちろん侯爵家から通うことも距離的に可能なのですが、アカデミーに入学する条件として学生寮に入る事を両親から言われましたので」

ね、とお父様に目配せすればお父様もうんうんと頷いた。

「アリシアには、出来る限り自分の事を自分で出来るようになって欲しいと思っていますので。して、殿下は馬車で通うのですよね?」

「・・・・・・」

お父様が質問しても、何故か下を向いて黙ったままの殿下。
何と言ってもアカデミーは、王城の敷地内にあるのだもの。
歩いても10分位の距離よ。
まあ、殿下の場合は立場上 馬車で登校でしょうけど。

「僕は・・・・・・、僕ももちろん学生寮だ」

「「「え!?」」」

王族が学生寮で生活なんて聞いたことないですけど。

私とお父様とお母様は驚きのあまり声がシンクロした。

「でも、王族と貴族が同じ学生寮で寝食を共にするなんて今までにない事ですよ?それに、お城からアカデミーって、歩いて10分もかからないじゃないですか?」

殿下が学生寮にはいるメリットは何もないのに何故だろうと思いながら私が言えば、殿下が少し拗ねた様に言った。

「なんとでも言えばいい。とにかく僕も学生寮に入るんだ」

私とお父様はとお母様はキョトンとしたまま殿下の話を聞いていたらガタンといきなり殿下が席を立った。

「すまないが緊急の用事を思い出した。すまないが今日はこれで失礼する」

食事もまだ終わっていないというのに、殿下は何やら用事があるそうで急いで帰っていった。

「殿下、忙しいのですね」

ボソッと私が呟けば、お父様が私をじーっと見つめてきた。

「アリシア、お前は毎月殿下に会っているのに、殿下の事を何も知らないんだな」

ズキン・・・・・・。

何故だか、お父様の言葉に物凄く胸が傷んだ。

殿下の事を何も知らないという事実が、ずんと私の心に重くのしかかったかのように感じる。

嫌われていると勘違いして、無駄に過ごしてきた7年間が、本当に勿体ない事をしてきたんだと思えた。

「・・・・・・私、部屋に戻ります」

「アリシア、どうしたんだい?」

急に意気消沈した私を両親が心配した。

私は何だか食欲も無くなってしまい、お父様とお母様に挨拶をして部屋に戻った。

◇◇◇◇

私はベッドの上に仰向けで大の字になった。

殿下の事を何も知らない自分に不安が込み上げてきた。

ただボーッとしているだけも時は過ぎ、いつの間にか窓の外は夕焼けの茜色に染まっていた。

これから殿下はアカデミーでたくさんの素敵な御令嬢に出会う事になるわ。
殿下にとって私は、今のところ真実の愛の相手かもしれないけど、もしかしたら殿下に私以上に気になる相手が出来る可能性もあるのよね・・・・・・。

私がウジウジしていたところ、いきなり頭の上から声が聞こえてきた。

「な~に、湿っぽくしてんの?」

バッと振り返れば、そこにいたのはオルガだった。

「叔母様から、お昼に殿下が来たと連絡があったの。あなたが殿下の帰ったあとで元気がない事も聞いたわ。大丈夫?何かあったの?」

叔母というのは私のお母様の事で、お母様は元ダレス伯爵令嬢。
オルガはお母様の姪っ子で、私とは従姉妹。
だからこうやって私の許可もなく勝手に部屋に入ってこれるわけなのだ。

「何かあったのかって・・・・・・、あ!あの眼鏡。何あれ、犯罪まがいの眼鏡じゃないのっ。全然恋の役に立ってなかったわよ」

オルガの顔を見た瞬間、殿下の上半身裸を思い出して赤面してしまった。

「って事は覗けたのね。あれ、凄いでしょ?上半身だけ服の中が見れる眼鏡なの。もう一回言うけど、全身じゃなくって上半身だけって所がこの眼鏡の肝なのよ」

あたかも偉業を成し遂げたかのように言ってるけど、ただの変態が好む嗜好品みたいな物でしょ、あの眼鏡。

「服の中が覗けるなんて聞いてないしっ。私が覗きたかったのは殿下の心の中なのにっ」

「アリシア」

さっきまでおちゃらけた口調で話していたオルガが急に真面目なトーンで私の名前を呼んだ後、優しくポンポンと頭を撫でてきた。

「あなた本当に鈍感ね。殿下の心の中なんて覗かなくても分かるでしょう?」

分からないから困ってるのに、オルガには分かるってどういうことよ。

「で、でも・・・・・・。殿下にもし他に好きな人が出来たらって思ってしまうんだもの。アカデミーに行けば素敵な御令嬢との出会いがたくさんあるはずよ。もし殿下が他に気になる人が出来たら・・・・・・、迷惑かけたくないじゃないの」

その時は殿下にために自ら引こうと思ってはいるけど・・・・・・。

不安で仕方がない私をオルガがよしよしと頭を撫でてくる。

「その心配は要らないわよ」

「え?」

「だから、次はこれ使ってみて」

「え!?」

「これはね。異性を寄せ付けない指輪よ。アリシアからのプレゼントって事で殿下に渡してみれば」

この人、本当に私を心配して来てるの?
もしや、この怪しい発明品を私に使わせようとしているだけんじゃないの!?

色んな気持ちが浮かんできたけど、その指輪の力がどんなものか知りたい気持ちも正直あるわ。

「もし近寄ったらどうなるの?」

「ビリビリ電気が走ってバリヤが張られるの」

「え?でもそれじゃ私も殿下に近寄れないじゃないの」

「同じ指輪を付けたもの同士なら平気なのよ」

はい、とオルガが指輪を二つ差し出した。

「これ、指に嵌めなくても持っているだけで能力を発揮するから、ペンダントにして渡すのもありよ」

またなんとも奇妙な発明品をしたものね。
これ役に立つのかな。

「当分使わないと思うけど、有り難く借りておくわね。あと、これは・・・・・・」

指輪を貰った時、犯罪まがいのあの眼鏡を私はオルガに返すふりをして床に落とした。

そして足で眼鏡を思いっきり踏んづけた。

パリンッと、爽快な音と共に眼鏡が破壊る。

「あまりにも危険なので破壊させていただきました」

ああ!と嘆くオルガには悪いけど、あんな物はあってはいけないと私は思ったのだ。

問題作ばかり作るマッドサイエンティストな我が従姉妹だけど、オルガの明るさに何だか慰められた私だった。
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