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第3章
3-4 噂
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「……俺がどうかしましたか」
(!!)
恐る恐る声の方を振り返ると、淹れたてのコーヒーをふうふうさせながら啜っている秋元さんがいた。
(……どこから聞かれてた?)
気まずい思いで心臓がばくばくし、どうしようかと焦ってしまう。
「秋元さん! ちょうどよかったです、今度の週末……」
「……っ、佳奈美ぃ?」
ドスを利かせた低い声と鋭い睨みで佳奈美を黙らせる。
「……週末?」
「いえ、なんでもありません」
「……噂話はほどほどにしてください」
「う……すみません」
(って、なんで私が謝る羽目に……)
「ごめんなさい、秋元さん。またこの間のメンバーでご飯に行きたいねって話してたんです」
(! そう来たか)
「……ああ、だから週末」
(納得するんだ)
佳奈美の鮮やかな誤魔化しテクニックに驚かされる。
「いかがですか?」
にっこりと人好きのする可愛い笑顔でさりげなく誘う佳奈美の手腕はさすがだ。
「……別に、構いませんけど」
「え」
思わず声を上げてしまった。
(松平さんに誘われるかもってのには断る一択だったのに)
この対応の違いは何なのだろう。
(……やっぱり、秋元さんも普通の男の人ってことか)
佳奈美のような女性に直接誘われたら、一旦は受け付けてしまうものなのだろう。
自分が男性だったらと想像しても、やはり同じかもしれないと理解する。
(……でも、ちょっと納得がいかないな)
なんとなく、モヤっとしてしまった。
「……何か問題でも」
「いえ、別に。誘いに乗るか乗らないかは自由ですからね」
先程の会話を匂わせるように同じ台詞を言ってみる。
「……はい、自由です」
さらりと答える秋元さんの様子からは、私の含みに気づいたのかどうかさえよみとれない
「ふふ、よかった。高畠さんにも相談して、決まったら連絡します」
うきうきとスマホを取り出し、早速連絡を取り始めた。
「そうだ、秋元さんの連絡先、お聞きしてもいいですか? よかったらグループ作って……」
「……あ、夏目さんが知ってますよ」
「え?」
「う」
私を振り向いた佳奈美の表情が、驚きから意味深な笑みに変わる。
(言わないでよ、秋元さん……)
佳奈美の好奇心に満ちた眼差しに辟易しながら、残っていたコーヒーを啜った。
「……じゃあ、依音から連絡してもらいますね」
含みを持った声で告げると、秋元さんは首だけで小さく会釈をしてその場を後にした。
秋元さんの背中が見えなくなったところで、佳奈美は待ってましたとばかりに早速私に詰め寄る。
「聞いてないんですけど? いつの間に?」
「あー……、ええっと、今朝出社したときに偶然会って……」
ところどころフェイクを織り交ぜ、疑われる要素を最小限に、且つ佳奈美の納得しそうな説明を繰り広げる。
「その時に、こないだ連絡先聞いてませんでしたよねって話になって……」
「なんでわざわざ依音に聞いたんだろうねぇ? ていうかなんで黙ってたの」
「……たまたま逢った時に思い出した、からじゃない? わざわざ佳奈美に言うほどの事でもないし」
佳奈美はわざとらしく大きなため息をつく。
「あのね、たまたま一緒になった人に、たまたま連絡先聞く? 普通」
「……何が言いたいの」
「そりゃあ、秋元さんも依音に興味ありそう、ってことでしょ」
「……も?」
「も」
力強く頷いて、”も”を強調する佳奈美の瞳はいきいきしている。
(まいったな)
佳奈美の言っていることは、半分は合っている。
秋元さんと私は”同盟”を組んだもの同士、上手くやっていく必要があるから、
そういう意味ではお互いに”興味”を持っている。
だから、佳奈美の勘ぐりは、半分間違っている。
色恋とは程遠い関係だってことを、恋愛脳の佳奈美にどうやって説明したものか。
(……ここはビシッと言っておくしかないか)
「佳奈美、この際だからはっきり言っておくけど、本っ当に秋元さんとはなんでもないよ」
真面目な顔で訴えると、佳奈美は不思議そうに小首をかしげる。
「なんでそう言い切れるの? 今はそうかもしれないけど、この先どうなるのかはわからないでしょ。
決めつけちゃうのはどうかと思うんだけど」
「っ、佳奈美の方こそ、そういう目で見て決めつけようとしてるでしょ」
「可能性があるなら、応援したいと思ってるだけなんだけどな。
依音って、自分からはあまり動かないから後押ししたいんだよ。
前からそうだけど、依音って自分に対する好意に鈍感すぎ。自分の気持ちにも鈍感だし」
「……っ」
(!!)
恐る恐る声の方を振り返ると、淹れたてのコーヒーをふうふうさせながら啜っている秋元さんがいた。
(……どこから聞かれてた?)
気まずい思いで心臓がばくばくし、どうしようかと焦ってしまう。
「秋元さん! ちょうどよかったです、今度の週末……」
「……っ、佳奈美ぃ?」
ドスを利かせた低い声と鋭い睨みで佳奈美を黙らせる。
「……週末?」
「いえ、なんでもありません」
「……噂話はほどほどにしてください」
「う……すみません」
(って、なんで私が謝る羽目に……)
「ごめんなさい、秋元さん。またこの間のメンバーでご飯に行きたいねって話してたんです」
(! そう来たか)
「……ああ、だから週末」
(納得するんだ)
佳奈美の鮮やかな誤魔化しテクニックに驚かされる。
「いかがですか?」
にっこりと人好きのする可愛い笑顔でさりげなく誘う佳奈美の手腕はさすがだ。
「……別に、構いませんけど」
「え」
思わず声を上げてしまった。
(松平さんに誘われるかもってのには断る一択だったのに)
この対応の違いは何なのだろう。
(……やっぱり、秋元さんも普通の男の人ってことか)
佳奈美のような女性に直接誘われたら、一旦は受け付けてしまうものなのだろう。
自分が男性だったらと想像しても、やはり同じかもしれないと理解する。
(……でも、ちょっと納得がいかないな)
なんとなく、モヤっとしてしまった。
「……何か問題でも」
「いえ、別に。誘いに乗るか乗らないかは自由ですからね」
先程の会話を匂わせるように同じ台詞を言ってみる。
「……はい、自由です」
さらりと答える秋元さんの様子からは、私の含みに気づいたのかどうかさえよみとれない
「ふふ、よかった。高畠さんにも相談して、決まったら連絡します」
うきうきとスマホを取り出し、早速連絡を取り始めた。
「そうだ、秋元さんの連絡先、お聞きしてもいいですか? よかったらグループ作って……」
「……あ、夏目さんが知ってますよ」
「え?」
「う」
私を振り向いた佳奈美の表情が、驚きから意味深な笑みに変わる。
(言わないでよ、秋元さん……)
佳奈美の好奇心に満ちた眼差しに辟易しながら、残っていたコーヒーを啜った。
「……じゃあ、依音から連絡してもらいますね」
含みを持った声で告げると、秋元さんは首だけで小さく会釈をしてその場を後にした。
秋元さんの背中が見えなくなったところで、佳奈美は待ってましたとばかりに早速私に詰め寄る。
「聞いてないんですけど? いつの間に?」
「あー……、ええっと、今朝出社したときに偶然会って……」
ところどころフェイクを織り交ぜ、疑われる要素を最小限に、且つ佳奈美の納得しそうな説明を繰り広げる。
「その時に、こないだ連絡先聞いてませんでしたよねって話になって……」
「なんでわざわざ依音に聞いたんだろうねぇ? ていうかなんで黙ってたの」
「……たまたま逢った時に思い出した、からじゃない? わざわざ佳奈美に言うほどの事でもないし」
佳奈美はわざとらしく大きなため息をつく。
「あのね、たまたま一緒になった人に、たまたま連絡先聞く? 普通」
「……何が言いたいの」
「そりゃあ、秋元さんも依音に興味ありそう、ってことでしょ」
「……も?」
「も」
力強く頷いて、”も”を強調する佳奈美の瞳はいきいきしている。
(まいったな)
佳奈美の言っていることは、半分は合っている。
秋元さんと私は”同盟”を組んだもの同士、上手くやっていく必要があるから、
そういう意味ではお互いに”興味”を持っている。
だから、佳奈美の勘ぐりは、半分間違っている。
色恋とは程遠い関係だってことを、恋愛脳の佳奈美にどうやって説明したものか。
(……ここはビシッと言っておくしかないか)
「佳奈美、この際だからはっきり言っておくけど、本っ当に秋元さんとはなんでもないよ」
真面目な顔で訴えると、佳奈美は不思議そうに小首をかしげる。
「なんでそう言い切れるの? 今はそうかもしれないけど、この先どうなるのかはわからないでしょ。
決めつけちゃうのはどうかと思うんだけど」
「っ、佳奈美の方こそ、そういう目で見て決めつけようとしてるでしょ」
「可能性があるなら、応援したいと思ってるだけなんだけどな。
依音って、自分からはあまり動かないから後押ししたいんだよ。
前からそうだけど、依音って自分に対する好意に鈍感すぎ。自分の気持ちにも鈍感だし」
「……っ」
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