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第2章

2-7 ご相伴にあずかって

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―――いつものようにやってきた週明け。

満員電車の圧に耐えながら、週末の事を思い返していた。



(……あの後も結局……)

あのカクテルを飲み干した後、隣のロックグラスの中で小気味いい音を立てる丸い氷を何気なく眺めていると……

「……これ、飲みますか?」

「え」

(物欲し気に見えちゃったかな)

「そういうつもりじゃ……ただ、氷が綺麗だなって。丸くて可愛いですよね。

ゆっくり溶けるから、お酒の味も薄くなりにくいんですよね」

「……じゃあ飲みますか」

(なんでそうなるんだろう……まあ興味があったのはあったけど)

だけどこちらが催促したような流れのようで、なんとなく素直に頷けない。

しかも持ち込みのお酒を飲むなんて、お店のルール的には違反してるようなことに乗るのは気が引ける。

マスターをちらりと窺うと、”お好きなように”とでも言いたげに微笑んだ。

秋元さんはグラスの中で、からからと音をたてて氷を回転させている。

(……わざとだ)

「……それじゃあ、お言葉に甘えて……いただきます」

「……じゃあマスター、これと同じものを」

「かしこまりました」

今度はマスターは目の前で、氷の塊をかつかつとアイスピックで器用に削っていく。

みるみるうちに美しい球体が出来上がる様子に、目が離せなかった。

ロックグラスにころりと収まり、私の前にすっと提供される。

「おまたせしました。どうぞお楽しみください」

「わ……ありがとうございます。綺麗ですね……」

「……俺のは作り置きだったのに」

ぼそりと呟く声が聞こえた。

「ボトル持ち込みのお客様にはそれで充分です」

「……夏目さんが飲むのも俺の持ち込みなんだけど」

「拗ねないでください。さあ、注いで差し上げて」

「……」

(秋元さんが飲むように勧めてくれたんだけどな)

微笑ましいような申し訳ないような、目の前のやり取りを複雑な思いで眺めていると、

秋元さんはそれ以上言い返すのを諦めて、ボトルを抱えた。

(……あれ?)

長い指先で蓋をきゅっと開けボトルを構えると、秋元さんの雰囲気が変わった。

流れるような所作でボトルを優雅に傾け、少し高い位置から注がれた液体は、

吸い込まれるようにロックグラスを満たしていく。

最後は少しボトルを回転させ、すいとグラスを差し出した。

「……どうぞ」

グラスの液体が揺れる。

「……あ、ありがとうございます、いただきます」

(……一瞬、見惚れてしまった)

グラスを手にすると、秋元さんはボトルを持つ手をそのままに、自分のグラスにもとくとくと注いだ。

(あ、手酌は、手酌なんだな)

自分の事には頓着しないらしい。

一口飲むと、ウイスキーのほろ苦さと奥にある甘さを感じた。

「! 美味しいです」

さすがにロックで飲むのは喉にきゅっとくるけれど、だからこそ少しずつ味わえる。

「……そう。よかったです」

秋元さんも嬉しそうに自分のグラスを傾ける。

美味しそうに飲み込む喉仏が微かに鳴った。

(……ほんとにこれ、好きなんだな。確かに美味しい)

二口目を口に含み、ゆっくり味わうと、ほっこりした気分になる。

(はあ、美味しい……………………って、普通に楽しんじゃった)

もっと、”糸”について聞きたいことがある。

先程の握手は、私と秋元さんとで同盟を組んだんだと解釈した。

そして、今マイボトルをごちそうになった私は、

秋元さんに多少なりとも心を許してもらえたのではないかとも感じた。

今なら、酔いも加勢していろんな質問に応えてくれそうだ。

三口目を飲み込み、グラスをコースターに戻した私は改めて秋元さんに向き直る。

「……あの、聞いてもいいですか」

おかわりのナッツをつまみながら、秋元さんは視線だけこちらに寄越した。

「……何でしょう」

「”糸”のこと、なんですけど……秋元さん、自分のは”見え”ますか?」
















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