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第1章
1-10 「も」
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5人ともそれぞれ満足気な様子で、お店を出た。
「はー、美味かった。いい店だったね、また来よう? このメンバーでさ」
松平さんは上機嫌で私の方を振り向く。
「……本当は、次はカノジョ作って連れてこようって思ってますよね?」
「はは、さすが夏目さん。俺のことわかってるー。で、今からどうする? ……っと」
軽口をたたいていると、松平さんのポケットからスマホの着信音が聞こえた。
さっと取り出した画面を見て、松平さんは一瞬固まる。
と同時に、佳奈美と並んで歩いていた高畠さんがこちらを振り向いた。
「それじゃ、悪いけど、俺と佳奈美ちゃんはこの辺で失礼させてもらうよ。
今日は楽しかった。松平の言うように、またこのメンバーで飯食いに行こう」
もちろん、ここでふたりを引き留めるほど野暮じゃない。
「はい、ありがとうございました。佳奈美も、じゃあね」
「うー、依音ぉ……またメールするねぇ」
今は高畠さんの腕にもたれている佳奈美がひらひらと手を振り、高畠さんと微笑み合いながら歩き出した。
そこで松平さんがハッとスマホの画面から顔を上げる。
「あっ、ええっと……ごめん、俺もちょっと……急用が出来たから、また今度ね」
「ああ、はい、また」
挨拶もそこそこに、松平さんは速足で去っていった。
その場に残った私と秋元さんは、どちらからともなく顔を見合せる。
(……よし)
こんなにあっさりとふたりきりで話せる状態になったことをありがたく思いながら、最初の一声を発した。
「……あの」
「……あのさ」
声が重なる。
「あっ、お先にどうぞ」
反射的に譲ると、秋元さんはひとつ息を吐いて再びゆっくりと口を開いた。
「……あなた、俺になんか言いたいことでもあるんですか?」
「えっ!?」
(直球きた!)
脳裏に、秋元さんの前での今までの振る舞いがばばばっと思い起こされた。
(そ、そういや確かに秋元さんからしたら挙動がおかしかったかもしれない)
周囲に興味無さそうだけれども、多分結構観察されてる。ただ、秋元さんはそれを表に出さないだけ。
(覚悟決めるか)
既にいろいろ見透かされているのなら、今更ぐちゃぐちゃ考えて誤魔化すのも滑稽な気もする。
ミットの中で回転し続けていた直球が何とか収まっていくように、気持ちも落ち着いてきた。
「ええっと……おかしなことを言うかもしれないですけど……秋元さんって、何か変なものが見えたりしてます?」
「……変なもの?」
僅かに首を傾げられ、瞬時に ”しまった” と後悔が過る。
「あっ、全然心当たりがないんだったらいいんです!
その、ええっと、”見える人”っていますよね、私そういうのに興味があって……」
無理矢理霊感話っぽい方向に持っていこうとすると、秋元さんの目元が微かに緩んだ気がした。
「……あなたも”見える”人、なんですか?」
(……ん? ”あなた「も」”?)
言葉のあやかもしれないが、言い回しに引っかかる。
私も僅かに首を傾げると、私の瞳を覗きこんでいた秋元さんの目元はますます緩み、口角を上げた。
「……次、どこに行きます?」
「はー、美味かった。いい店だったね、また来よう? このメンバーでさ」
松平さんは上機嫌で私の方を振り向く。
「……本当は、次はカノジョ作って連れてこようって思ってますよね?」
「はは、さすが夏目さん。俺のことわかってるー。で、今からどうする? ……っと」
軽口をたたいていると、松平さんのポケットからスマホの着信音が聞こえた。
さっと取り出した画面を見て、松平さんは一瞬固まる。
と同時に、佳奈美と並んで歩いていた高畠さんがこちらを振り向いた。
「それじゃ、悪いけど、俺と佳奈美ちゃんはこの辺で失礼させてもらうよ。
今日は楽しかった。松平の言うように、またこのメンバーで飯食いに行こう」
もちろん、ここでふたりを引き留めるほど野暮じゃない。
「はい、ありがとうございました。佳奈美も、じゃあね」
「うー、依音ぉ……またメールするねぇ」
今は高畠さんの腕にもたれている佳奈美がひらひらと手を振り、高畠さんと微笑み合いながら歩き出した。
そこで松平さんがハッとスマホの画面から顔を上げる。
「あっ、ええっと……ごめん、俺もちょっと……急用が出来たから、また今度ね」
「ああ、はい、また」
挨拶もそこそこに、松平さんは速足で去っていった。
その場に残った私と秋元さんは、どちらからともなく顔を見合せる。
(……よし)
こんなにあっさりとふたりきりで話せる状態になったことをありがたく思いながら、最初の一声を発した。
「……あの」
「……あのさ」
声が重なる。
「あっ、お先にどうぞ」
反射的に譲ると、秋元さんはひとつ息を吐いて再びゆっくりと口を開いた。
「……あなた、俺になんか言いたいことでもあるんですか?」
「えっ!?」
(直球きた!)
脳裏に、秋元さんの前での今までの振る舞いがばばばっと思い起こされた。
(そ、そういや確かに秋元さんからしたら挙動がおかしかったかもしれない)
周囲に興味無さそうだけれども、多分結構観察されてる。ただ、秋元さんはそれを表に出さないだけ。
(覚悟決めるか)
既にいろいろ見透かされているのなら、今更ぐちゃぐちゃ考えて誤魔化すのも滑稽な気もする。
ミットの中で回転し続けていた直球が何とか収まっていくように、気持ちも落ち着いてきた。
「ええっと……おかしなことを言うかもしれないですけど……秋元さんって、何か変なものが見えたりしてます?」
「……変なもの?」
僅かに首を傾げられ、瞬時に ”しまった” と後悔が過る。
「あっ、全然心当たりがないんだったらいいんです!
その、ええっと、”見える人”っていますよね、私そういうのに興味があって……」
無理矢理霊感話っぽい方向に持っていこうとすると、秋元さんの目元が微かに緩んだ気がした。
「……あなたも”見える”人、なんですか?」
(……ん? ”あなた「も」”?)
言葉のあやかもしれないが、言い回しに引っかかる。
私も僅かに首を傾げると、私の瞳を覗きこんでいた秋元さんの目元はますます緩み、口角を上げた。
「……次、どこに行きます?」
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