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第1章
1-9 タイミング
しおりを挟むおしぼりで手を拭いている秋元さんに、思い切って話しかけてみた。
「―――あの、秋元さん」
「……」
目線だけこちらに向け、じっと見つめ返される。
(……っ、また、この視線……意外と人の目をしっかり見る人なんだな)
普段は周りの事には興味ないという雰囲気を纏っているのに、対峙した相手には容赦ない視線を投げかける。
私の瞳の奥まで覗き込まれているようで、一瞬怯んでしまった。
「……っと、趣味は何ですか?」
(いやいや、合コンかよ!)
自分の口から咄嗟に飛び出た言葉に心の中でツッコみながら、慌てて言い訳をした。
「あっ、ほら、せっかくこうしてご一緒してるから、
どういうことに興味あるのかなー、ってちょっと聞いてみたかったんです」
「そうだねー、秋元さんの歓迎会なんだもんねー」
佳奈美はふわふわとした微笑を浮かべながら私の肩にもたれる。
「あー、俺も気になるな、休みの日とか何してんの?
ちなみに俺は昼まで寝てたり動画見たりしてダラダラ過ごしてる!
高畠はジム通いだっけ?」
「そうだな、あと釣りにもいったりしてるかな」
松平さんも高畠さんも、秋元さんが話しやすいようにと気を利かせたのか、
順番に自分の事を紹介していった。
「はいはーい、私はお買い物に行ったり、お菓子とかパンとか作ったりしてまーす」
佳奈美も察したのか、にこにこと休日の過ごし方を披露した。
流れを読んで、私も口を開く。
「私は……本読んだり、ゲームしたり……ですかね」
言葉を切ると同時に、皆の視線が秋元さんに集まった。
「……俺も、ゲーム」
「わあ、そうなんですねー、依音と話が合うんじゃないですかー?」
「いや、ゲームっていってもいろいろあるから!」
余計な事を言いそうな佳奈美に慌てて釘を刺す。
「俺もスマホゲームでちょっとハマってるやつあるなー。
ストレスなく楽しみたいから、アイテムとか金で解決できるもんならついつい課金しちゃうんだよね」
松平さんが違う方向に話を広げてくれてホッとする。
「ですね、イベで推しのランキング特典なんかあると気合入ります」
「はは、夏目さんガチ勢じゃん」
「……ゲームしてる間は余計なこと考えなくて済みますから」
(……!)
ぽつりと呟く秋元さんに、ひどく共感してしまった。
「なるほど、気分転換って意味もあるのか。俺が身体動かすのもそんな感じだな」
「高畠はそれでいいかもしれないけどさ、春野さんと共通の趣味もあった方がいいんじゃない?」
「あ、そこは、佳奈美が作ったお菓子食べて、ジムでカロリー消費するってことですよね? 繋がってますよ」
「依音、いいこと言ってくれるー」
「あーはいはい、なんだかんだ言ってお似合いのカップルってことね」
賑やかなおしゃべりの中秋元さんをちらりと窺うと、
話題の中心から外れたからか、どことなくホッとした様子でグラスに残っていたワインを飲み干していた。
(……うーん、少しでも打ち解けようと思ったんだけど……どうしようかな)
いずれにせよこの場じゃ”糸”の事なんて聞けやしない。
(お店を出てから、かな)
こっそり声を掛けることができそうなタイミングを窺いながら、私も残っていたワインをぐいっと流し込んだ。
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