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第1章
1-8 いわゆる”歓迎会”
しおりを挟む「佳奈美ちゃん、夏目さん」
爽やかに手を挙げた高畠さんの横には―――
「……」
予想していたとおり、秋元さんが軽く会釈をする。
(やっぱり……って、あれ? あの人も……?)
その場にはもうひとり、高畠さんと同じ部署の男性がいた。
「松平も一緒だけど、いいかな?」
にこにこと人好きのする笑顔で私と佳奈美を迎える松平さんは、
高畠さんの同僚で、違うタイプのそこそこイケメンだ。
私も佳奈美も普通に話をする間柄で、ノリが軽いけれどどこか憎めない。
「高畠と秋元くんが話してるの聞いちゃってさ、だったら俺も、って無理やりついてきちゃった。ごめんね?」
「いえいえ、賑やかになるのは大歓迎です、全然構いませんよ、ね」
すんなり受け入れて私に同意を求める佳奈美に、こくりと頷き返す。
(確かに、松平さんは場を明るくしてくれるだろうけど……秋元さん、居心地悪くないかな)
ちらりと窺うと、秋元さんは俯いてスマホを弄っていた。
(マイペース……心配することもないか)
「それじゃ、行こうか。一応予約してあるんだ」
「俺もその店気になってたんだよね。楽しみだな」
「……」
三者三様の男性陣の背中を眺め、佳奈美と肩を並べて歩き出す。
(それにしても、秋元さんはよくこの誘いに乗ったなぁ……こういうの苦手そうなのに。私と同じで)
「……松平さんが来るとは思わなかったね」
佳奈美がそっと耳打ちする。
「……私は高畠さん以外の人が来るとは思わなかったけど?」
私もそっと言い返すと、佳奈美は悪戯がバレた子どものように笑った。
「秋元さんの歓迎会も込みだよ。少しでもウチの会社に馴染めるようにと思ってね」
「随分と規模の小さい歓迎会だね」
「そんなにツンツンしないでよ」
「歓迎会って言うなら、松平さんが来てくれたのはうってつけなんじゃない?めちゃくちゃ社交的じゃん」
「あー、そうかも」
「秋元さんにウザがられなければ、ね」
「どういう印象なの。わかるけど」
内緒話でくすくすと笑い合いながら、皆それぞれの左手小指に視線を走らせる。
―――誰の指にも、”糸”は見えなかった。
「……でさぁ、とうとうカノジョと別れちゃったんだよねえ」
「そうなんですねー」
「寂しいよねえ、いて当たり前と思ってた人がいなくなっちゃうのって」
(……松平さんも傷つくんだ)
失礼なことを考えながら、しんみり語る松平さんに頷く。
私の向かいに座った松平さんは、必然的に正面の私に向かって話をする格好になっていた。
「そうだ、秋元くんはカノジョとかいないの?」
(! いきなりそういうこと聞いちゃうんだ)
松平さんの隣で黙々とピザを頬張っていた秋元さんのグラスにワインを注ぎながら、さらっと質問を投げかける。
(……ある意味羨ましくはあるけど)
私自身、他人に踏み込まれるのが苦手だから、他人に対してもそういうことが出来ずにいる。
松平さんみたいに何の他意も感じさせず尋ねることが出来るのは、純粋にすごいと思った。
「……いませんね」
咀嚼したものをごくりと飲み込んだ後、秋山さんはついでのようにあっさり答え、ワイングラスに口を付ける。
(いないんだ)
秋元さんと松平さんに”糸”が見えないのは納得した。
(でも、佳奈美と高畠さんは……)
ピザをシェアするふたりの指にも、あれっきり”糸”の存在はないままだ。
(”運命の糸”なんて思ったのが間違いだったのかな)
他の席にもさっと視線を走らせると、カップルらしき男女の指に”糸”が絡まっているのが確認できた。
だけど、”糸”の見えないカップルらしき人たちもいて、ますます混乱する。
「夏目さんもおかわり、どう?」
デキャンタを掲げ、松平さんがにっと笑う。
「あ、いただきます、ありがとうございます」
空になっていたグラスに赤ワインが注がれ、ゆらゆらと波打つ。
「追加注文とかは? 俺、もっとピザ食べたいから頼むつもりだけど、1枚全部は多いかなって思ってさ」
「あ、でしたらシェアしましょうか? ……秋元さんは?」
「……俺も」
「秋元くん、なかなかいい食べっぷりだよね。じゃあ2種類頼んで3人で分けようか」
「依音、私には聞いてくれないの?」
「佳奈美は高畠さんとシェアしてるでしょ」
アルコールに弱い佳奈美は、眼のふちをほんのり染めて私の腕に絡みつく。
既に酔いが回っている証拠だ。
「食べられるなら私のを分けてあげるから」
「やった」
(て言いながら、もうお腹いっぱいで食べられないんだよね、知ってる)
こんな光景はいつものことで、高畠さんもにこにこと見守っていた。
絡みつく佳奈美をそのままに、秋元さんと松平さんと3人でメニューを広げて種類を選ぶと、
松平さんは手早く店員にオーダーしてくれた。
気軽なイタリアンのリストランテは、期待以上にいい雰囲気で、料理も美味しい。
(だけど……)
今日この場に来た目的の半分が、まだ果たせずにいる。
(……よし)
おしぼりで手を拭いている秋元さんに、思い切って話しかけてみた。
「―――あの、秋元さん」
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