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第1章
1-2 私が変?
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「あ、おっはよ、依音」
同じ部署の同僚、春野佳奈美が元気に挨拶を返してくれるのだが……
「……佳奈美、それ、おまじないか何か?」
ひらひらと振る左手の小指に、赤い糸が絡まっている。
「え? 何のこと?」
「その小指。 ミサンガにしてはそんなとこに付けるの珍しいんじゃない?」
「……なんにもついてないけど? ほら」
佳奈美も自分の両手を改めて確認し、私に見せつけながら不思議そうに首を傾げた。
私も、見間違いかも、と目の前の佳奈美の左手小指をじっくり見つめる。
けれど、いくら瞬きをしても、そこには細くて赤い糸が緩く何重にも巻き付いているようにしか見えない。
(……確かに赤い糸が巻き付いてるんだけどな……)
だけど、佳奈美が嘘を言っているようにも思えないし、佳奈美がそんな誤魔化しをしたところで意味がないだろう。
わけがわからないけれど、小指の主がなにもつけていないと言っている以上、
こちらが言い張っても仕方がないと思い直した。
「ああ、見間違いだったみたい。 最近目が疲れちゃっててさ」
「大丈夫? 無いものが見えるなんて相当だよ?」
「ええっと、指の関節のシワがブレて見えてたみたい。 乱視? かな?」
「それって私の手のシワが深いってこと? ひっど」
「そんなこと言ってないってば」
くすくすとひとしきり笑い合うと、佳奈美は改めて言った。
「……今日のランチさ、あそこのカフェに行かない?」
もの言いたげな瞳で見つめられ、なんとなく察する。
(相談か何か……話があるのかな)
「うん、私も行きたいと思ってた。今日のランチは何だろうね」
「ね。 私も楽しみ」
お昼休みを心待ちにしながら、私たちは午前中の業務に勤しんだ。
同じ部署の同僚、春野佳奈美が元気に挨拶を返してくれるのだが……
「……佳奈美、それ、おまじないか何か?」
ひらひらと振る左手の小指に、赤い糸が絡まっている。
「え? 何のこと?」
「その小指。 ミサンガにしてはそんなとこに付けるの珍しいんじゃない?」
「……なんにもついてないけど? ほら」
佳奈美も自分の両手を改めて確認し、私に見せつけながら不思議そうに首を傾げた。
私も、見間違いかも、と目の前の佳奈美の左手小指をじっくり見つめる。
けれど、いくら瞬きをしても、そこには細くて赤い糸が緩く何重にも巻き付いているようにしか見えない。
(……確かに赤い糸が巻き付いてるんだけどな……)
だけど、佳奈美が嘘を言っているようにも思えないし、佳奈美がそんな誤魔化しをしたところで意味がないだろう。
わけがわからないけれど、小指の主がなにもつけていないと言っている以上、
こちらが言い張っても仕方がないと思い直した。
「ああ、見間違いだったみたい。 最近目が疲れちゃっててさ」
「大丈夫? 無いものが見えるなんて相当だよ?」
「ええっと、指の関節のシワがブレて見えてたみたい。 乱視? かな?」
「それって私の手のシワが深いってこと? ひっど」
「そんなこと言ってないってば」
くすくすとひとしきり笑い合うと、佳奈美は改めて言った。
「……今日のランチさ、あそこのカフェに行かない?」
もの言いたげな瞳で見つめられ、なんとなく察する。
(相談か何か……話があるのかな)
「うん、私も行きたいと思ってた。今日のランチは何だろうね」
「ね。 私も楽しみ」
お昼休みを心待ちにしながら、私たちは午前中の業務に勤しんだ。
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