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「タンジュ、まあ落ち着きなされ。大事な話をするときは心を鎮めることが肝要じゃ」
 お婆は遼玲を振り向き、何事もなかったかのように言った。
「リャオリン、茶でも淹れてくれるかの」
「はい、すぐに」
 遼玲は部屋の炉で湯を沸かし、茶器を取ってきて青茶を淹れた。茶葉は香り高く、色合いも素晴らしく特級品だとひと目でわかる。。

 四人で卓を囲み、タンジュが口を開いた。
「とにかく、今後はこんなことはやめて欲しい。一切、俺たちに手出ししないでくれ」
 率直な草原の民らしく、タンジュは要点だけを言った。
「俺たちは草原で平穏に暮らしていきたい。言いたいことはそれだけだ」
 高東はタンジュを見て、それから遼玲をじっと見て「不思議だ」と呟く。
「何が?」
「遼玲の香りが違う。気のせいかと思ったがやはり違う。というか消えた感じだな? 昨日と今日で何が変わったんだ?」
 遼玲はほっとしたが、タンジュは意味がわからないという顔をする。伉儷(こうれい)のタンジュには遼玲の香りは消えたりしないからだ。

「着替えたからだろ。この衣裳はオルダで洗ったものだから」
 洗剤のせいだと言い張る遼玲に高東は不審そうな顔をする。
「それよりどうしてタンジュを挑発した? 友好関係を結ぶ気がないのか?」
 遼玲の追及に、高東が茶蓋をずらしながら答えた。
「悔しかったからだ」
「え?」
 意外な返事に遼玲もタンジュも驚いた。悔しかった?

「絶対に見つからないと思ってここに連れてきたのに、あっさり見つかった上にこの宴だぞ? この若造に一つくらい俺が優位に立っていると見せつけたいだろうが」
 そんな子供みたいな理由で?と思って、ふと高東はこれまで誰にも負けたことなんかなかったのだろうと思いつく。体格にも頭脳にも恵まれた貴種の戦士で、きっと周囲からもてはやされてきたに違いない。
 それなのに遼玲はなびかないし、タンジュはこれだけの宴を開いてみせた。それが思いのほか矜持を傷つけたらしい。

「だが今後はわからないがな。それと黙って連れ去ったことについては謝罪する。悪かった」
 思いのほか率直に謝られてタンジュが目を瞬いた。
 面子重視の華人が、しかも都城の長官という職についている高東が一介の草原の民に謝罪するなどあり得ないことだからだ。
 それだけ脅威になったという意味だ。たったひと晩で、これだけのことをしたタンジュを認めたのだ。
 それならこの宴を開いた甲斐があったと遼玲は胸をなでおろした。カオチャ族を敵に回したくないという気にさせたなら、作戦は成功したのだ。
「次はないからな。今度は宴じゃなくて、血祭りに招待だから」
 遼玲が念を押すと高東はなぜか楽しそうな顔になって「心に刻んでおく」と答えた
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