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「タンジュはお前さんをとても気に入っておるがうまくやれそうかの?」
 その問いかけに左腕の腕輪を見た。結婚する時にタンジュがくれたフーティエ玉の腕輪だ。タンジュの瞳のような明るい翠の腕輪はずっとつけているから、もうしっくりとなじんでいる。
 当然だが、タンジュは貴種の自覚がない。理由はわからないが男でもいいと遼玲を受け入れて結婚してくれた。
 他に選択肢はなかったが、遼玲自身もタンジュが夫でよかったと思う。

 現代にいた時の遼玲は、貴種なんかと結婚するのも男に抱かれるのも絶対にごめんだと思い、自立して研究者になろうと決心していた。
 それなのに貴種と結婚して、案外、楽しく過ごしている。そのことに戸惑いはある。
「何か気に入らないことがあるかね?」
「そうじゃないけど、正直言って、予想外の人生になって困惑してる。本当にここで一生を過ごすのかなって」
「それはお前さん次第じゃな。お前さんが腰を据えてここで生き抜くと覚悟を決めれば、おのずと人生が決まる」

 お婆の言うことはもっともだ。結局は自分の気持ちの問題だ。
「いずれにしても、ここに来るのはお前さんの運命だった」
「それはタンジュがおれの伉儷(こうれい)だから?」
「ほお、そんな言葉をどこで知ったやら」
 遼玲も驚いていた。流暢な華語を話し、香種を知っている。お婆の出身はどこなんだろう。
「お婆こそ、どこで伉儷を知ったの? 華語がじょうずだけど喬国に住んでた?」
「むかーしむかしの話じゃよ。お前さんのようにふた月に一度、満月の頃に熱を出す若君を知っていたよ」
 声に懐かしそうな響きが混じる。

「若君は身分のあるお方だった。その方に従って私は草原に来たんじゃよ」
 身分があるって、ひょっとして皇族男子か? 学芸員は公子たちも互いに交流目的で滞在させたと言っていた。
「その人は伉儷に出会って子供を生んだってこと?」
 老婆は開いてるかわからない細い目で遼玲を見て、やさしくほほ笑んだものだった。若君や生まれた子供がどうなったのかは聞けなかった。やさしい笑みの向こうに深い悲しみが見えたからだ。

「そうじゃ、これをやろう」
 お婆が玉佩(ぎょくはい)を取り出した。時代劇でよく見る腰につける装身具で、高貴な身分の証明にもなる品物だ。
 クリーム色の玉佩は飴細工のようにも見えて、手に取るとつるりと石の感触がした。
「これ、すごく大事なものだよね? おれなんかに渡していいの?」
 おそらく仕えていたという公子の形見だろう。

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