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「よく食べるな」
「だって、乳茶しか飲んでないんだもん」
 馬車に荷物を積むので忙しくて、朝食は抜いてしまった。バリクで食べるからいいやと思ったからだ。
 香辛料の匂いが強い西域料理が多いエリアに入る。
 小麦を薄く焼いた薄餅(バオビン)と呼ぶクレープ生地に、炙り焼きの羊肉や野菜をクミンや唐辛子と一緒に巻いたものが、最近の遼玲のお気に入りだ。
「リャオリンはうまそうに食べるな」
 ほかほかのクレープを頬張る遼玲にタンジュが笑った。
「だっておいしいもん。タンジュも好きだろ?」
「ああ。リャオリンが買うまで食べたことがなかったが、うまいものがたくさんあるんだな」
 お腹いっぱいになって立ち上がる。今日はやることがたくさんあるのだ。

 最初にオユンの祖父母の家に向かった。約束したとおりの灰を受け取って対価を支払う。オユンの祖父は笑顔で叉焼をおみやげにくれた。
「今度はオユンも一緒に来るね」
「ああ、待っとるよ」
 それから市場に行く。小麦を買って醤油や味噌を買い足し、アリマに頼まれた刺繍糸も見つかった。
「娘さんは運がいいよ。この恵州産の刺繍糸は滅多に入荷しないんだ。ほらごらんよ、染めが違うだろう? 丈夫でこんなに色鮮やかな糸はなかなか手に入らないよ」
 それが本当かどうか知らないが、滅多にないと言われれば買おうと思うのが人情だ。
 きれいな染めの入った端切れをおまけしてもらって、ほくほく顔の遼玲にタンジュが半ば呆れた顔で苦笑する。

「本当にリャオリンは交渉上手だな」
「褒めてる?」
「褒めてる。端切れは妹たちが喜ぶ」
「うん、喜んでもらえたらおれも嬉しい」
 みんなの役に立てるのは自分の存在価値が認められた気になる。
 それから薬舗に行って前回頼まれた「咳を抑える処方」を売った。この地域にある薬草でわりと簡単に作れる処方だ。
 李清が「関節痛の処方」がよく効いたと医術師が感謝していたと教えてくれた。患者の痛みが治まってとてもよくなったらしい。
「医術師ってどこにいるの?」
「西と東を結ぶ広場の近くに医院がある。今度行ってみるといい。東方人の若い娘が作った処方だと言っておいたから、行けば歓迎されるよ」

 この時代の医術がどんなものだったのか興味はある。
 草原で倒れたら医術師に診てもらえるかわからないし、一度、顔を出しておいた方がいいな。
「今日は忙しくて時間がないけど、ぜひ会ってみたい」
「ああ、伝えておこう」
 茶舗ではお試しでもらった青茶がおいしかったので自分用に買い足した。すると店主は白茶をおまけにつけてくれた。
 味のわかる遼玲に自分のお勧めを飲ませたいらしい。
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