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「でも今でも信じられないんだ。叔父の弓は本当に凄かった。狼が十匹襲ってきても負けないほどの腕をしていた」
「狼が十匹? それはすごいね」
 オルダでは狼対策に犬を数匹、飼っている。狼は草原の民に尊敬される天神であると同時に怖れられる存在でもある。
「ああ。剣の腕もすごくて、だから死んだとは信じられないんだ」
「そっか」
 タンジュは軽く頭を振って、競技の後には結婚式があると話題を変えた。

「誰の結婚式?」
「チハチョのお祝いだ」
 遼玲の結婚式にも来ていたタンジュの従妹だ。
「ああ、あの子。踊りが得意な子だよね」
「チハチョは去年の宴で旋舞を踊って、メルクト族に見初められて婚約したんだ」
 そういえばタンジュの婚約者もメルクト族だった。集会で顔を合わせる幼なじみだったんだろう。

「そっか。集会は出会いの場にもなるのか」
「普段は一族以外になかなか会えないからな」
 親同士で婚約を決めたり本人から売りこみがあったり、見合いの場でもあるのだ。

 夜は一族が集まっての大宴会だった。遼玲が見知っているのはセタンの長男次男一家とブルミテ家族くらいだったが、セタンの兄弟やその子供たちも集まっていて、総勢百人以上の大部族だった。
 遼玲には誰が誰やらわからない状態だが、相手は遼玲を知っていた。東方人がタンジュの第一の妻だとカオチャ族では知れ渡ったらしい。

 宴会の準備は昼過ぎから始まり、ヤギや羊やロバがさばかれて内臓の煮込みが作られていく。草原の民は血の一滴まで無駄にしないで腸詰めや煮込みに使う。
 大きなかたまり肉は明日の結婚式のために塩やハーブをすり込んで風通しのいい日陰に吊るされた。
 子供たちが次々と乳を搾ってチーズやヨーグルトを作り始め、大鍋では骨付き肉がぐつぐつと煮込まれている。

 心配していたが、あからさまな蔑視の目は向けられなかった。オユンがそっと耳打ちしたところによると、セタンが「リャオリンは東方人だがとても役に立ついい娘だ」と話してくれたらしい。
 族長のひと言の影響力は大きく、インシやアリマも遼玲を誉めたので「リャオリンはいい妻だ」と評価されたのだ。それを聞いた遼玲はオルダでの頑張りを認められた気になった。

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