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 セレッティはすぐにタンジュに顔を戻した。
「リャオリンだったわね。彼女に訊いてもいい?」
「いいよ、なあに?」
 遼玲の返事を聞いたセレッティは目つきを鋭くした。タンジュに通訳してもらおうと思ったのに草原の言葉が返ってきたことに驚いたのだ。

「言葉がわかるの?」
「すこしなら。いま教えてもらってるところ」
「ふうん。あなたはタンジュの第一の妻が自分に務まると思うの?」
 遼玲は首をかしげた。

 ていうか、第一の妻って何をするんだ?
 セタンの第一の妻はインシで、確かに女たちの作業の割り振りをしたり指示を出したりするが、アリマとも相談するし、特に偉そうにしているわけじゃない。
 ウムリの第一の妻のリーナは第二の妻のオユンとは姉妹のような関係だ。
 これが普通だと思っていたが、ほかの部族ではまた違う? 他の妻よりやっぱり偉い?

 でもここでそれを訊いたらセレッティの機嫌はもっと悪くなるよな。まあ、セレッティを第二の妻に迎えるつもりはない。べつに好きなように答えたらいいか。
「草原の民のように務まるとは思わない。でもおれのやり方で精一杯、頑張ってるよ。カオチャ族のオルダではそれでいいって言われてるし」
 正直なところを述べたが、セレッティはきりっとした目つきのまま「セタン様もインシ様も優しい方だものね」と短く言って、さらっと訊ねた。

「タンジュには第二の妻が必要だと思わない?」
「思わない。さっきタンジュがそう返事したよな」
 遼玲の返事にセレッティは真っ赤になった。そこへ男の声が割り込んだ。
「セレッティ、何をしてる? 父さんが呼んでるぞ」
 セレッティによく似た群青色の目をした若い男を見て、彼女は顔をしかめた。

「兄さん、何もしてないわよ。タンジュに挨拶してただけ」
「そうか、早く戻れ。さっきから父さんが探してる。ホイラト族のラムリケが挨拶したいそうだ」
「ラムリケなんて会いたくない」
「わがまま言うな。さっさと行け、いとこたちも待ってるんだ」
 セレッティが急いでユルトに向かい、周囲の緊張したような空気がゆるんだ。
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