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第4章-4
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三崎港はまぐろ漁港として有名だ。朝市ではまぐろのぶっかけ丼やマグロ汁、まぐろのモツ煮、マグロバーガーなどのテントが並んで、あたりにはおいしそうな匂いが漂っている。
あちこちの店に行列ができていて、祐樹は人の多さに驚いていた。
「どう? お腹すいてる? 食べたいものあった?」
「やっぱ、ぶっかけ丼かな。あとモツ煮も」
ふたりで手分けして並んで、ぶっかけ丼、マグロ汁、モツ煮、トロの串焼き、サザエのつぼ焼きなどを買ってきた。
「あー、マジでうまい。ぶっかけ丼、やばいな」
「ほんと、おいしい。やっぱ新鮮だからだよね」
祐樹はマグロ汁の味のしみた大根が気に入って、最後の汁まで飲んでしまった。孝弘はサザエをくるくる回してじょうずに引き出している。
「ここ、孝弘は来たことあったの?」
「1回だけ、香港人のアテンドで。プライベートでは初めてだな」
色々うまかったから祐樹に食べさせたくてと言われて、早朝ドライブの理由を知る。
「これもおいしいね。マグロのトロの串焼きって初めて食べた」
孝弘おすすめの串焼きを食べて、向かいの店の看板を見て首をかしげた。
「まぐろちまき?」
「それもうまいよ、醤油煮のトロのちまきなんだけど。今は腹いっぱいだから、買って帰ろ」
見た目には中華ちまきとそっくりの形だ。持ち歩きに便利だからかお土産なのか、たくさんの人が買っていた。
漁港だけあって、新鮮な魚もおおく水揚げされるようで、あちこちで威勢のいい声が飛んでいる。ざるに盛られた小魚やまぐろのさくが飛ぶように売れていた。
魚介だけでなく野菜や花の市場もあるようで、三浦半島の新鮮な野菜をどっさり買っている人もいて、その活気と熱気で見ているだけでも楽しくなる。
朝市ですこし買い物をして、ホテルに帰り着いたのは8時過ぎだった。チェックアウトの用意をするのかと思っていたが、部屋に戻った孝弘はお茶を淹れてくれた。
「レイトチェックアウトで12時まで使えるから。朝早くから付き合ってくれてありがと。疲れた?」
孝弘が祐樹の頬をやさしくなでて口づけた。あまい仕草に祐樹の胸がとくんと跳ねる。こういうことを素でできる孝弘は、やっぱりたらしだと思う。
広めのツインの部屋だったが、ベッドが一つだけしか乱れていないのを見て、なんだか急に恥ずかしさがこみ上げた。ゆうべの痴態を思い起こすと耳まで熱くなってくる。
「こっちのベッドで、ちょっと休憩しよ」
祐樹の顔が赤いのに気づいただろうに、孝弘はあっさり言って、ぱぱっと服を脱ぐと下着だけになって整ったままの上掛けをめくってベッドに入った。
「ほら、来なよ」
欲望を感じさせない無邪気な顔で誘うから、ここで照れるほうが逆に恥ずかしいような気になって服を脱いだ。
シーツのあいだに体をすべりこませると、すぐに孝弘の腕が絡みついて引き寄せられた。すりすりと頬を寄せてきて、素肌に密着されて、気持ちよさにため息をつく。
抱きしめられて、触れるだけの口づけが何度も繰り返される。欲情を煽るものではない、ただ愛情を伝えるためのキス。
好きな人と触れ合うのって、こんなにうれしくて気持ちいいものか。心臓がとくとく鳴って、気持ちがあふれそうになる。
「そういえば、誕生日っていつ?」
「1月27日。急にどうした?」
「そんなことも知らないって思って」
「俺は知ってるよ。10月19日」
「教えてないよね、なんで?」
「パスポート預かっていろいろ手配してたからな」
「ああ、そうか。こっちの個人情報は握られてるんだ」
「そうそう。背中から脇腹にかけてが弱いこと、とかな」
くすぐるように手を這わされて、ぴくんと体が反応する。でもそれ以上する気はないようで、ぎゅっと抱きしめられる。
「それから俺、来週水曜から3日間、出張で日本にいないから」
「そうなんだ、どこ?」
「香港。昨日、ディナーのとき話そうと思ってたら、マジック始まって言いそびれたんだ」
「香港? 孝弘の仕事にしてはめずらしい?」
「うん、あんまりないかな。でも留学時代の元同室(トンウー)からの紹介だから断れなくて。7月からはもう専属契約になるから個人の仕事はできないって言ったら、この日程でってことになったんだ」
「3日間、てことは金曜の夜帰り?」
「そう。週末はデートしてくれる?」
「もちろん、いいに決まってる」
…香港か。
昨日、エビチリを食べながら思い出した男の顔が、またふっと記憶をかすめた。
「じゃあ、それを励みにお仕事がんばるよー」
ふざけて抱きつく孝弘に祐樹からキスをする。
何度もちいさくキスを交わすうちに、記憶をかすめた男の顔は消えていた。
お腹も気持ちも満たされて、やさしく触れられているうちに眠ってしまったらしい。起きて、とささやかれて目を覚ますと、外はすっかり真昼の明るさになっていた。
「ごめん、寝ちゃってた?」
「いいよ、俺もすこし寝た。祐樹の体、気持ちいいな」
間もなくチェックアウトの時刻になる。
離れたくないな、とつぶやいた孝弘におれもだよ、と祐樹はささやき返した。
あちこちの店に行列ができていて、祐樹は人の多さに驚いていた。
「どう? お腹すいてる? 食べたいものあった?」
「やっぱ、ぶっかけ丼かな。あとモツ煮も」
ふたりで手分けして並んで、ぶっかけ丼、マグロ汁、モツ煮、トロの串焼き、サザエのつぼ焼きなどを買ってきた。
「あー、マジでうまい。ぶっかけ丼、やばいな」
「ほんと、おいしい。やっぱ新鮮だからだよね」
祐樹はマグロ汁の味のしみた大根が気に入って、最後の汁まで飲んでしまった。孝弘はサザエをくるくる回してじょうずに引き出している。
「ここ、孝弘は来たことあったの?」
「1回だけ、香港人のアテンドで。プライベートでは初めてだな」
色々うまかったから祐樹に食べさせたくてと言われて、早朝ドライブの理由を知る。
「これもおいしいね。マグロのトロの串焼きって初めて食べた」
孝弘おすすめの串焼きを食べて、向かいの店の看板を見て首をかしげた。
「まぐろちまき?」
「それもうまいよ、醤油煮のトロのちまきなんだけど。今は腹いっぱいだから、買って帰ろ」
見た目には中華ちまきとそっくりの形だ。持ち歩きに便利だからかお土産なのか、たくさんの人が買っていた。
漁港だけあって、新鮮な魚もおおく水揚げされるようで、あちこちで威勢のいい声が飛んでいる。ざるに盛られた小魚やまぐろのさくが飛ぶように売れていた。
魚介だけでなく野菜や花の市場もあるようで、三浦半島の新鮮な野菜をどっさり買っている人もいて、その活気と熱気で見ているだけでも楽しくなる。
朝市ですこし買い物をして、ホテルに帰り着いたのは8時過ぎだった。チェックアウトの用意をするのかと思っていたが、部屋に戻った孝弘はお茶を淹れてくれた。
「レイトチェックアウトで12時まで使えるから。朝早くから付き合ってくれてありがと。疲れた?」
孝弘が祐樹の頬をやさしくなでて口づけた。あまい仕草に祐樹の胸がとくんと跳ねる。こういうことを素でできる孝弘は、やっぱりたらしだと思う。
広めのツインの部屋だったが、ベッドが一つだけしか乱れていないのを見て、なんだか急に恥ずかしさがこみ上げた。ゆうべの痴態を思い起こすと耳まで熱くなってくる。
「こっちのベッドで、ちょっと休憩しよ」
祐樹の顔が赤いのに気づいただろうに、孝弘はあっさり言って、ぱぱっと服を脱ぐと下着だけになって整ったままの上掛けをめくってベッドに入った。
「ほら、来なよ」
欲望を感じさせない無邪気な顔で誘うから、ここで照れるほうが逆に恥ずかしいような気になって服を脱いだ。
シーツのあいだに体をすべりこませると、すぐに孝弘の腕が絡みついて引き寄せられた。すりすりと頬を寄せてきて、素肌に密着されて、気持ちよさにため息をつく。
抱きしめられて、触れるだけの口づけが何度も繰り返される。欲情を煽るものではない、ただ愛情を伝えるためのキス。
好きな人と触れ合うのって、こんなにうれしくて気持ちいいものか。心臓がとくとく鳴って、気持ちがあふれそうになる。
「そういえば、誕生日っていつ?」
「1月27日。急にどうした?」
「そんなことも知らないって思って」
「俺は知ってるよ。10月19日」
「教えてないよね、なんで?」
「パスポート預かっていろいろ手配してたからな」
「ああ、そうか。こっちの個人情報は握られてるんだ」
「そうそう。背中から脇腹にかけてが弱いこと、とかな」
くすぐるように手を這わされて、ぴくんと体が反応する。でもそれ以上する気はないようで、ぎゅっと抱きしめられる。
「それから俺、来週水曜から3日間、出張で日本にいないから」
「そうなんだ、どこ?」
「香港。昨日、ディナーのとき話そうと思ってたら、マジック始まって言いそびれたんだ」
「香港? 孝弘の仕事にしてはめずらしい?」
「うん、あんまりないかな。でも留学時代の元同室(トンウー)からの紹介だから断れなくて。7月からはもう専属契約になるから個人の仕事はできないって言ったら、この日程でってことになったんだ」
「3日間、てことは金曜の夜帰り?」
「そう。週末はデートしてくれる?」
「もちろん、いいに決まってる」
…香港か。
昨日、エビチリを食べながら思い出した男の顔が、またふっと記憶をかすめた。
「じゃあ、それを励みにお仕事がんばるよー」
ふざけて抱きつく孝弘に祐樹からキスをする。
何度もちいさくキスを交わすうちに、記憶をかすめた男の顔は消えていた。
お腹も気持ちも満たされて、やさしく触れられているうちに眠ってしまったらしい。起きて、とささやかれて目を覚ますと、外はすっかり真昼の明るさになっていた。
「ごめん、寝ちゃってた?」
「いいよ、俺もすこし寝た。祐樹の体、気持ちいいな」
間もなくチェックアウトの時刻になる。
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