座敷わらしのプテロ

ゆまは なお

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「…そうだったか」
「ああ、覚えるのが大変だった」
「ごめんな」
「構わない。敏明が一番好きなものの名前をくれたんだろう?」
 五歳の俺は能天気にも自分が一番好きな恐竜の名前をつけたらしい。プテロダクティルスはジュラ紀に生息した翼竜だ。
 ミスマッチにもほどがある。

「覚えておけるか不安だったから自分で呼んでいた。嬉しくて、忘れないように毎日呼んでいたんだ」
 そんなことを極上の笑顔で話すから、俺はうかつにも鼻の奥がつんとなる。
 ここで俺を待ちながら誰も呼ばない名前を忘れないように、ひたすら自分で呼んでいる姿を想像したら、切なくて胸がいっぱいになってしまった。

「ごめん」
「なんで謝る? 敏明はプテロと呼んでいた」
 俺はもう一度過去に帰って五歳の俺に頼むから別の名前にしてと言いたくなる。
 この外見でプテロ?
 でも男は懐かしそうに微笑む。

「ええと、プテロは何歳?」
「さあ…、二百歳くらい?」
「え? 二百歳?」
 この家そこまで古くないよな。
「ずっとここにいたのか?」
「いや。前は別の家にいた。その家の子供に見つかってここに移った」
 俺はぱっと顔を上げた。
「じゃあ引っ越せるんだ」
「え? 俺が引っ越すのか?」
 思いもよらない事を言われたという顔で男が俺を見た。

 俺としてはそこまで具体的に考えたわけじゃなく一応確認したと言うか、口からぽろりと出た言葉だったのだが、そうは聞こえなかったらしい。
 今までにこにこしていたのが嘘みたいに不穏な雰囲気になった。なまじ端正な顔をしているから、眉を寄せて不機嫌な空気を出されてドキッとした。

「その、今すぐどうこうじゃなくて」
「じゃあ、いつか出て行けという意味か?」
「え、あの」
「敏明が突然いなくなってずっと待っていたのにお前は俺を忘れて、その上、出て行けと言うんだな」
「いや、その、そういうつもりじゃなくて」
「じゃあどういうつもりだ?」
「あの…」
 何と言えばいいのか迷う間に、プテロは怒りをにじませた目で俺を見据えた。

「いいだろう。でも責任を取れ」
「せ、責任?」
「家を移るには生気が足りない」
「どういう意味?」
「この家を出たらおそらく消える」
「え、そうなのか?」
「だから生気をもらわないと出て行けない」
 言ったと同時に俺はまた布団に押し倒されていた。
 
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