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「もしかして覚えてないのか?」
男は悲しげに俺を見る。
子供みたいに感情がわかりやすい。そんな顔をされると申し訳ない気分だ。
「ここでかくれんぼしただろう?」
「それは覚えてる」
「敏明がかくれんぼの途中でいなくなったから、どうしたのかと心配していた」
「えーと、それはいつ頃の話?」
「敏明が十歳の夏だ」
「…ああ」
夏休み中に母が交通事故にあったと連絡がきて、急に自宅に帰ったのだ。幸い骨折だけで後遺症も残らなかったが、看病が必要でここには戻れなかった。
「それからずっと待ってたのか?」
「ああ」
男は大まじめな顔でうなずく。
ともかく男が自分を座敷わらしだと思いこんでいるのは理解した。
一体どうしたもんだろう? 困惑のため息が出る。
と、男の体がぐらりと揺れて前に倒れ込む。
「え、大丈夫?」
支えた体は驚くくらい軽かった。顔色も白くて体温がやけに低い。
病気? いや頭の話ではなく。
「ああ。敏明、すこし生気をくれ」
「せいき?」
訊ねた瞬間、首の後ろに腕が回って口づけられていた。
は? 何これ。
驚いていると舌が入って来た。
「おいっ!」
思わずつき飛ばしたら男はあっさり床に倒れ込んだ。
「あ、ごめん」
「ひどいじゃないか。十年以上も放っておいて、もうすぐ消えるかもしれないと覚悟までしたのに」
恨みがましい目で睨まれると、その迫力にすうっと背筋が冷えた。言うことを聞いた方がいいかもしれない。
「あの、生気って?」
「座敷わらしは人がいない家には住めない。その家に住む人の生気で生きているから」
つまり半年以上人がいないこの家で、飢えながら過ごしていたって?
「それなら引っ越したらよかったんじゃないか?」
「それはできない。俺は敏明に見つかったから、もうこの家を出て行けない」
「どういう意味?」
「座敷わらしが見える人に会えたらその人と縁ができる。縁ができたらその家から動けない」
「つまり俺と一緒じゃないとダメって?」
「そうだ。敏明がかくれんぼの途中でいなくなったから、ここで待っているしかない」
えーと、俺はこいつをこの家に縛りつけて、そのままいなくなったってこと?
ていうか、さっきから俺の思考もおかしい。
本当に座敷わらし? まさか!
男は悲しげに俺を見る。
子供みたいに感情がわかりやすい。そんな顔をされると申し訳ない気分だ。
「ここでかくれんぼしただろう?」
「それは覚えてる」
「敏明がかくれんぼの途中でいなくなったから、どうしたのかと心配していた」
「えーと、それはいつ頃の話?」
「敏明が十歳の夏だ」
「…ああ」
夏休み中に母が交通事故にあったと連絡がきて、急に自宅に帰ったのだ。幸い骨折だけで後遺症も残らなかったが、看病が必要でここには戻れなかった。
「それからずっと待ってたのか?」
「ああ」
男は大まじめな顔でうなずく。
ともかく男が自分を座敷わらしだと思いこんでいるのは理解した。
一体どうしたもんだろう? 困惑のため息が出る。
と、男の体がぐらりと揺れて前に倒れ込む。
「え、大丈夫?」
支えた体は驚くくらい軽かった。顔色も白くて体温がやけに低い。
病気? いや頭の話ではなく。
「ああ。敏明、すこし生気をくれ」
「せいき?」
訊ねた瞬間、首の後ろに腕が回って口づけられていた。
は? 何これ。
驚いていると舌が入って来た。
「おいっ!」
思わずつき飛ばしたら男はあっさり床に倒れ込んだ。
「あ、ごめん」
「ひどいじゃないか。十年以上も放っておいて、もうすぐ消えるかもしれないと覚悟までしたのに」
恨みがましい目で睨まれると、その迫力にすうっと背筋が冷えた。言うことを聞いた方がいいかもしれない。
「あの、生気って?」
「座敷わらしは人がいない家には住めない。その家に住む人の生気で生きているから」
つまり半年以上人がいないこの家で、飢えながら過ごしていたって?
「それなら引っ越したらよかったんじゃないか?」
「それはできない。俺は敏明に見つかったから、もうこの家を出て行けない」
「どういう意味?」
「座敷わらしが見える人に会えたらその人と縁ができる。縁ができたらその家から動けない」
「つまり俺と一緒じゃないとダメって?」
「そうだ。敏明がかくれんぼの途中でいなくなったから、ここで待っているしかない」
えーと、俺はこいつをこの家に縛りつけて、そのままいなくなったってこと?
ていうか、さっきから俺の思考もおかしい。
本当に座敷わらし? まさか!
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