理想の攻め様

ゆまは なお

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「やだ、琥珀」
 不安な声を上げてしまうオレに、琥珀は「いい子だから」とちゅちゅと耳元や首筋にキスをする。あほか、そんなことでごまかされないっつーの。
「嘘つき」
 ほかにも言いたいことはあったと思うが、そんな言葉しか出て来なくて、それを聞いた琥珀は「まいったな」と苦笑して眉を下げた。

「反応いいし、このまま抱いちゃおうかと思ったけど、そんなに嫌がられると罪悪感わいちゃうなあ」
「いいからもう抜けって」
「もうちょっとだけ、ね? ほら、この辺かな?」
 そう言って琥珀はゆるゆると中を探るように指を動かす。まずいと思った瞬間、ビクッと全身が跳ねた。

「あ、よかった」
 よかったじゃねーわ。前立腺を探し当てた琥珀はますます滑らかに指を動かし、オレは一気にボルテージの上がった快感にパニックになる。
「あっ、あ、やめっ……、おい」
「すごいね、セナ。きゅうきゅう締めてくるね」
 耳元で囁く琥珀の声と不穏に動く指にぞくぞくと快感が駆け上った。

「いいよ、そのまま感じて。無理やり抱いたりしないから」
 制御できない快感に翻弄されて、オレは涙目になっていた。
「だめ、こはく、いや……っ、あ、ああっ」
 中を擦られながら絶頂まで導かれて、放出後の脱力感にぐったり倒れこんだ。

「なんつーことをしてくれてんだ」
「えー、気持ちよかったでしょ? 腰揺れちゃっててかわいかった」
「言うな!」
 にやにやしている琥珀に枕をぶつけて、オレは背を向けた。
「まあまあ。ね、この先は知りたくない?」
 肩越しに顎をのせて、琥珀が甘えるようにすり寄ってくる。くそっ、攻め様のくせになんだそのかわいさは。

「気になるよね? せっかく理想の攻め様を試さないなんてもったいないことしないよね?」
 ようやく息を整えたオレはどうにか首を横に振った。
「昭和野郎が強引すぎたの?」
 そんな無茶はしないはずだけどと首を傾げる琥珀にため息交じりに答えた。
「してないっつーの」
「え?」
「キスしただけで返したって」
「あらら、かわいそうに」

「かわいそう?」
「そうだよ。俺たち攻め様はオーナーを喜ばせたいのさ。攻め様はオーナーに喜んでもらって、オーナーは攻め様に愛情を注ぐ。これが正しい攻め様とオーナーの関係だよ」
 だから俺にセナを喜ばせて?とささやいて、人を魅了せずにはいられない笑顔を見せる。くそっ、顔がいいとそれだけで得するよな。
「もう十分、喜んだから」

 そう言ってからふと琥珀を途中で放り出したままだったことに気がついた。触りっこと言われて途中まではそうしていたが、指が入ってきてそれどころじゃなくなったからだ。
 でも琥珀からは切羽詰まっているような感じはまったくなくて、ただオレの体をあちこち優しく撫でているだけだ。それこそ大事なものを扱うときのような手つきだ。
「セナ、抱かれた経験は?」
「ない」
「じゃあ試してみようよ」

「もう十分だって。よくわかったよ」
「だーめ。指二本で満足されちゃ、理想の攻め様の名折れなんだよね」
 困ったな。確かに理想の攻め様のテクを体験して研究してみようと思ったけど、それはデートとか会話とか、そういうコツみたいなものを勉強するつもりだった。
「誰とも経験したことのない快楽をあげるよ」
 琥珀はオレの瞳の奥まで暴くような不思議な目の色でオレを見つめた。
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