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第16章-2
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合格発表のあと、受験が終わったので時間があるうちにと、祐樹は毎日アルバイトに明け暮れていた。学校はすでに自由登校になっていて、次に行くのは卒業式だ。
大学生になったら親から小遣いはもらえないのが高橋家のルールなので、お金を貯めておかなくてはならない。
大学生の小遣いがいくら必要なのかまだよくわからないが、自宅住まいなのでバイト代はすべて小遣いに使えるのはありがたい。
次兄の紹介で引越し屋のアルバイトをしていたが、何しろ引っ越しシーズンだ。毎日2,3件の引越しを掛け持ちする忙しさだった。
学生が移動する時期でもあるので、単身の引っ越しパックにつくことも多かった。古びた学生アパートに行くと大澤を思い出した。
今ごろは会社の研修所で頑張っているのだろう。きっと仕事のできるきちんとした大人の男性になるんだろうなと、大澤の大きな背中を思い出す。
そして、東雲とは合格発表の4日後に会った。
車で遠出する時間はないけど、とりあえず合格祝いをしようというので食事の約束をして、東雲の指定した駅で待ち合わせた。
祐樹が店を選ぶとどうしてもがっつり男飯になるので、東雲さんのお勧めに連れて行ってくださいとお願いしたら、路地裏にひっそりと構えた関西風のおでん屋に連れて行かれた。
カウンター席と半個室の座敷の席がある小料理屋のような作りの店で、ファミレスやラーメン屋などとは違う大人の店という感じがした。お出汁のいい匂いが店中に漂う。
おでんを外で食べるという感覚が祐樹にはなかったので、おでん屋に行こうかと言われたとき、内心ではレストランでおでん?とふしぎだったが、店についてじぶんの思い違いを知った。
「こんなお店、初めてです」
「そうか、高校生だとおでん屋には来ないか。ここのだしが本当においしいから祐樹に食べさせたくて」
そんなことをやさしく微笑みながら言うから、ほんとうにこの人は油断がならないと思う。
「なにを食べてもおいしいんだけど、好きな具をまずは3つ、選んで」
冷めるから、という理由で3つらしい。こまめに注文して持ってきてもらうものだそうだ。
注文をすませ、電車なので東雲は熱燗を頼み、祐樹はウーロン茶でまずは合格を祝う乾杯をした。
ほどなく運ばれてきた素朴な焼き物のお椀には、大根とはんぺんと厚揚げが透き通っただし汁にほかほかと浸かっていた。
「これ、すごくおいしいです」
大根を一口食べて、祐樹は目を丸くした。見た目からは味が薄そうな頼りない感じがしたのに、味はちゃんと染み込んでいてしっかりしただしの味が生きていた。
「でしょう。ここは京都に本店があるんだけど、そこで食べたおでんが忘れられなくて。そしたら2年前にこの店ができて、それからけっこう通いつめてる」
東雲が本当に気に入っている店に連れてきてくれたのだとわかって、祐樹の胸の奥がじんわりとうれしくなった。
高校生同士で行く店など限られているし、そんなに外食する家でもなかったので食事をする店などあまり知らない。
だから本当にどこでもよかったのだが、こうしてお気に入りに連れてきてもらえるのは、特別な感じがしてそれがうれしかった。
リラックスしているじぶんを祐樹はふしぎな気分で、他人事のように感じていた。東雲といるのは気が楽なのに、でもなぜかどきどきすることも結構ある。
大学生になったら親から小遣いはもらえないのが高橋家のルールなので、お金を貯めておかなくてはならない。
大学生の小遣いがいくら必要なのかまだよくわからないが、自宅住まいなのでバイト代はすべて小遣いに使えるのはありがたい。
次兄の紹介で引越し屋のアルバイトをしていたが、何しろ引っ越しシーズンだ。毎日2,3件の引越しを掛け持ちする忙しさだった。
学生が移動する時期でもあるので、単身の引っ越しパックにつくことも多かった。古びた学生アパートに行くと大澤を思い出した。
今ごろは会社の研修所で頑張っているのだろう。きっと仕事のできるきちんとした大人の男性になるんだろうなと、大澤の大きな背中を思い出す。
そして、東雲とは合格発表の4日後に会った。
車で遠出する時間はないけど、とりあえず合格祝いをしようというので食事の約束をして、東雲の指定した駅で待ち合わせた。
祐樹が店を選ぶとどうしてもがっつり男飯になるので、東雲さんのお勧めに連れて行ってくださいとお願いしたら、路地裏にひっそりと構えた関西風のおでん屋に連れて行かれた。
カウンター席と半個室の座敷の席がある小料理屋のような作りの店で、ファミレスやラーメン屋などとは違う大人の店という感じがした。お出汁のいい匂いが店中に漂う。
おでんを外で食べるという感覚が祐樹にはなかったので、おでん屋に行こうかと言われたとき、内心ではレストランでおでん?とふしぎだったが、店についてじぶんの思い違いを知った。
「こんなお店、初めてです」
「そうか、高校生だとおでん屋には来ないか。ここのだしが本当においしいから祐樹に食べさせたくて」
そんなことをやさしく微笑みながら言うから、ほんとうにこの人は油断がならないと思う。
「なにを食べてもおいしいんだけど、好きな具をまずは3つ、選んで」
冷めるから、という理由で3つらしい。こまめに注文して持ってきてもらうものだそうだ。
注文をすませ、電車なので東雲は熱燗を頼み、祐樹はウーロン茶でまずは合格を祝う乾杯をした。
ほどなく運ばれてきた素朴な焼き物のお椀には、大根とはんぺんと厚揚げが透き通っただし汁にほかほかと浸かっていた。
「これ、すごくおいしいです」
大根を一口食べて、祐樹は目を丸くした。見た目からは味が薄そうな頼りない感じがしたのに、味はちゃんと染み込んでいてしっかりしただしの味が生きていた。
「でしょう。ここは京都に本店があるんだけど、そこで食べたおでんが忘れられなくて。そしたら2年前にこの店ができて、それからけっこう通いつめてる」
東雲が本当に気に入っている店に連れてきてくれたのだとわかって、祐樹の胸の奥がじんわりとうれしくなった。
高校生同士で行く店など限られているし、そんなに外食する家でもなかったので食事をする店などあまり知らない。
だから本当にどこでもよかったのだが、こうしてお気に入りに連れてきてもらえるのは、特別な感じがしてそれがうれしかった。
リラックスしているじぶんを祐樹はふしぎな気分で、他人事のように感じていた。東雲といるのは気が楽なのに、でもなぜかどきどきすることも結構ある。
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