あの日、北京の街角で 番外編 これもほどよく憂鬱な日々

ゆまは なお

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第15章-3

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「勘違いじゃないですか。男が色っぽいって…」

「ほんとだよ。もともときれいな子だなって思ってみてたけど、前回会ったとき、あ、今までと全然違うって思った」

 その東雲の台詞にどきっとする。前回会ったのは6月だ。2月の終わりに大澤と初めて寝てから何度か体を重ねて、すこしは慣れたころだったと思う。

「だからてっきり誰かいるんだと思ったんだけど」

 おそるおそる隣りに立っている東雲を見上げた。その整った顔が近づいたかと思うと、唇にさっと触れて離れていく。現実感がなく、東雲が身を起こすのをぼんやりと見ていた。

「いま…、キス、しました?」
「うん、したね」

「なんで?」
「かわいかったから」

「…かわいいって、男だし」
「そうだね、でもほんとにかわいいんだ。いやだった?」

「いいえ」
 いやじゃないです、という返事は考える前にしていた。

 悪びれずに笑う東雲を見ていると、さっきから動揺している心臓がさらにどきどきし始めた。

「それってなんか、口説かれてるみたいに聞こえます」
「そうだよ、口説いてるつもりなんだけどな。俺、どう?」

 え、これって告白?
 東雲さんはおれが好きなの?

「どうって言われても、え…本気、ですか?」
「もちろん。そうだな、受験が終わったら、俺とつき合ってみる?」

 受験が終わるのは2月だろうか。それまで待ってくれるらしい。

「子供には興味なかったはずなんだけど、祐樹のことはとても気になった。だから何度も誘ってみたんだ」

 あ、呼び捨てにされた。
 とくんとひとつ、胸が鳴る。

「最初から、おれを…好きだった?」
「うーん、そこまでは言わないな。さっきも言ったけど、子供だと思ってたし。でもちょっといいな、気になるなって感じでたまに会いたい、みたいなね」

「つまり成長度合いを確認する感じ?」

 その言葉に東雲が声を上げて笑う。ああ、プライベートの笑い方、となぜかうれしくなる。

「いやまあ、そう言ったら身もふたもないというか。ああでも、うーん、そうなのかも。無意識に俺好みに育つか見守ってたのかな」

 なんか変態おやじっぽいな、とひとりで仏頂面になる。そんなところも悪くないと思う。

「それで、おれは東雲さん好みに育ちました?」

「育ってなきゃ口説かない。一緒にドライブデートしてるだけでも良かったけど、急に大人っぽくなってなんだか憂い顔が色っぽいし、6月に鎌倉に行ったとき、あ、もう恋愛対象になったなって感じたんだ」

 臆面なく口説き文句を繰り出してくる東雲に、祐樹はくらくらしていた。

 東雲みたいな大人の男性に告白されるなんて、現実だとは思えない。からかわれてるんじゃないかと疑うが、東雲にそんなことをする理由がない。

 どうしよう…。

「祐樹は何人か彼女いたみたいだけど、男もオッケー?」

 核心に触れてくる質問に、はいと答えた。大澤以外にじぶんの性癖を打明けるのは初めてだ。

「どっちかというと女の子が苦手みたいで…」
「それはラッキーだな。…どう、俺とつき合ってみる?」

「あの、…時間ください」
 即決できなくて逃げを打ったのに、東雲は余裕の笑みでうなずいた。

「さっきも言ったけど返事はまた今度でいいよ。…そうだな、受験が終わったらまたドライブしようか」
「…はい、すみません」

「謝らなくていいよ。最初から即オッケーが出るなんて思ってない。むしろもう会わないって言われるかもって覚悟してたから」

 東雲みたいな人でもそんな覚悟で告白するのかと驚いた。しかもあいてはじぶんだ。東雲から見たら10歳も年下の子供相手なのに。
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