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第15章-2

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 ふしぎなことに、東雲とのつき合いも切れなかった。

 祐樹から電話したことは一度もないが、東雲からはごくたまにドライブしようと誘いがかかる。高校2年の2月には梅を見ようと誘われて偕楽園まで行き、見事な梅の庭園を堪能した。

 3年生になってからは6月の鎌倉にアジサイを見に行き、10月には紅葉を見に奥日光まで出掛けた。

 東雲とのドライブはじぶんを繕う必要もなく気詰まりにもならず、回を重ねるごとに祐樹には心地よい時間になっていった。それが祐樹にとっていいことなのかどうか、よくわからずにいる。

 大人の男性で余裕のある東雲のそばにいるのは居心地がいいが、これは恋愛感情とは違うと思う。

 東雲に対してはこうなりたいという憧れのようなものもあるし、甘やかされたいという祐樹の気持ちを東雲が汲んでくれている部分もあるだろう。

「なんでおれを誘うんですか?」

 奥日光の雄大な景色は見事の一言だった。絶好のデートスポットだろうに、なぜ東雲はじぶんを連れてくるのだろう。黄色や赤の紅葉でモザイク色の山を眺めながら、祐樹はそう尋ねてみた。

「祐樹くんがかわいいからかな」

 東雲のやわらかな微笑みでそんなことを言われると、おかしな解釈をしてしまいそうだ。

 かわいいもきれいも祐樹は言われ慣れていて、今さらそのくらいでは照れないが、東雲から言われると特別な響きを探してしまうのはどういうわけなのか。

「でも、もっとかわいい女性が東雲さんの周りにはいっぱいいるでしょ?」
「そんな人は誘うとあとが大変になるから、祐樹くんと出かけるほうが気楽で楽しいね」

 そんなことを言いながら、祐樹の髪をさらりと撫でたりもする。これはなにか誘いかけられてる? それともおれが自意識過剰なだけ? 

 じぶんの性癖を自覚した祐樹は、東雲の行動をつい深読みしてしまう。

 東雲はいつもごく自然に祐樹の肩や髪に触れるので、さわり癖があるのかもしれない。どうやら子供だと思われているようだし、とくに意味はないのだろう。

 そう思ってもなんとなく心がざわざわとするのだ。

「祐樹くんはいま、特定の人はいるの?」

 東雲から恋愛絡みの質問をされたのは初めてだった。心のなかでは緊張感が漂うが、去年から鍛えたポーカーフェイスで平静な顔を作ることに成功する。

「いえ、特には」
「彼女、いないんだ?」

「はい」
「そう。じゃあ彼氏はいる?」

 やわらかな微笑みで平然と訊かれ、祐樹はなんとか平静を保とうとするが、心臓が急速に鳴りだすのは抑えられない。

 祐樹が同性に惹かれるタイプだと気づいている? というよりここはジョークで笑うところ? 本気で返事するところ? 

 わからないまま平坦な口調で答える。

「いえ、それもないです」
「そう? それはよかった」

 にっこり笑う東雲に、なにがよかったのか問うべきなのか流すべきなのか祐樹はさらに困惑する。

 警戒して身を固くする祐樹に、東雲はなんでもないように手を伸ばし祐樹の前髪をかきあげる。動揺する祐樹にいたずらっぽい笑みを見せたあと、目線をまえの秋色の山に向けた。つられて祐樹も前を向く。

「祐樹くん、雰囲気変わったよね」
 話題が変わってほっとする。

「去年から思ってたけど、ぐっと大人っぽくなったね」
「そうですか? …まあ、もうすぐ18になるし」

 東雲と出会ったのは高1の夏の終わり、15歳のときだ。たしかにまだ子供っぽかったのかもしれない。初めての彼女ができたばかりでまだ童貞で、じぶんの性癖に疑問を持っていなかった頃。

「もうすぐ? いつ?」
「来週、誕生日なので」

「そうか、もう18歳か。…たしかに大人だね。それになんだか、色っぽくなったよね」
「ええ?」
 
 色っぽいなどと言われ、動揺して頬に血が上ってしまう。
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