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第13章-1 信頼の先にあるもの

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「祐樹の手料理って初めてだな」
「そういえば、そうですね」

 ほかほかと湯気のたつ鍋をまえに、祐樹はレンゲやお箸を運んできた。冬はやっぱり鍋だろうと、きょうはキムチ鍋にした。

 大学3年生になってひとり暮らしを始めた大澤の部屋に、祐樹は夏休み中から週に1回、勉強を見てもらいに通ってくるようになった。

 互いに忙しくて必ず毎週とはいかないし、場所もファミレスだったりカフェだったりするときもあったが、それなりに真面目に通って半年以上がたつ。

「ビールでいいか?」
「はい」

 大澤が冷蔵庫から缶ビールを2本出してきて、1本を祐樹に渡す。外で一緒に食事したときには、未成年だからと絶対にアルコールを飲ませないが、家でならビールを出してくれる。

「こたつってやっぱいいですね」
「お前んち、ないのか?」

「はい。こたつ出すと、何度注意してもおれたちがそこで寝ちゃうんで、何年かまえに母親がキレちゃって、こたつ捨てられちゃったんです」

「祐樹のかーちゃんすごいな」
 大笑いしている大澤と缶ビールで乾杯した。

 学年首席だった大澤の教え方は的確でわかりやすく、祐樹の成績はみるみる持ち直した。このまま上昇をキープできれば、大澤の通う大学も狙えるかもしれない。

「大学生でもやっぱチョコとかくれるんですね」

 机のうえに無造作に放りだされたままのパッケージを見て、祐樹がからかった。先週がバレンタインデーだった。

「ああ、あれな。ちょうどサークルの日だったから。高校の頃よりブランドチョコが増えたな。祐樹甘いの平気だろ、持って帰れよ。あ、祐樹も山ほどもらってるか」

「まあそれなりに。この前、彼女と別れちゃったんで、タイミング的にまずかったな、と」

 6人目の彼女とは2月の始めに別れた。

 彼女がいればそれを口実に受取りを断るのも簡単だったが、フリーとなれば断るのも面倒になってひとまずもらっておくことになる。

「オッケー出した子はいたのか?」
「いえ、いません」

「なんだ、めずらしいな。いい子、いなかったのか?」
「ちょっともう疲れてて。しばらく彼女とかいいかなって」

 正直な気持ちだった。1年間、頑張ってみようと決めていろいろなタイプの子を選んでつき合ってみた。どの子も本当に好きになれるかもしれないと祐樹なりの期待をこめてOKした相手だった。

 それでもダメだった。友達以上の感情を持てず、心も体も熱くなることはなかった。

 それなのに、同級生に目を奪われることは増えていた。具体的に誰かを好きになることはなかったが、こういう感じが好きだと思うときは以前より明確になっている。

「ビール、もう1本飲むか? 夕方帰るんなら、これ以上はまずいか?」
「あー、じゃあもう1本だけ。うち、兄たちがやんちゃしてるから、そんな厳しくないですけど」

 いつの間にか1本あけていた。2本目を受け取って、今度はゆっくり飲もうと意識する。

 大澤とこたつでテレビを見ながらキムチ鍋を食べていると、ふと去年のバレンタインデーを思い出した。
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