上 下
36 / 56

第11章-2

しおりを挟む
 メタリカをBGMに車は南房総方面に向かって走り、途中のPAで休憩をはさみながら富浦ICまで来て一般道に降りた。BGMはボンジョビに変わり、そこからは海沿いの道をのんびり走る。
 
 そういえば車ってある意味、個室だったんだとドライブの途中で気づいたが、心配したような気詰まりな雰囲気にはならなかった。

 東雲の仕事の話や祐樹の学校の話をしているうちに、いつの間にかずっと打ち解けた雰囲気になっていた。東雲は話し上手でもあり、聞き上手でもあった。

「ちょっとお寺に寄ってもいい?」
「はい」 

「面白いお寺があるんだ。通称崖観音って言って絶壁に張り付くみたいに建ってるんだけど、その建物も上からの景色もなかなか見事だから」

 駐車場に車を停めて、下から見上げただけで、その寺が横縞もあらわな地層に張りついているのが見て取れた。どうやってあんなところに建てたんだろうと、思わず考えてしまう。

「ほんとにすごいですね」

 こんなむき出しの地層を見たのは初めてかもしれない。崖に沿って立つ寺まではかなり距離がありそうだ。

「うん。けっこう階段上がるけど、まだ若いし平気だよね」
「東雲さんよりはね」

 そんな軽口をたたけるくらいには2時間ほどのドライブで親しくなっていた。階段を上って本殿まで上がってくると、街の景色のむこうに海が見えた。空が広い。気持ちがよくて思わず、深く息を吸い込んだ。

 息を整えながら絶景に見入っていると、さらりと背中をなでられた。学校でもよくある友人同士のなにげない触れ方だったのに、どくんと心臓が大きく鳴る。

「だいじょうぶ? けっこうしんどかった?」
「…空手やめてから、最近ちょっと運動不足かも」

 動揺を悟られないように、深呼吸して息を整えた。乱れる呼吸を東雲は階段のせいだと思っているのだろう。祐樹は海へと目線を向けたまま、ぎゅっと手を握りしめた。

 立派な観音堂でお参りをすませて駐車場へ戻ると、もう昼を過ぎていた。

「そろそろお腹すかない? ここらへんは漁港近いから海鮮丼とかおいしいけど、それでいい?」

「はい、海鮮好きです」

 漁港の食堂といった気取らない店で、豪快な具の乗った海鮮丼を食べた。かなりのボリュームだったが、新鮮な魚はおいしくてふたりともぺろりと平らげてしまう。

 東雲は祐樹の食べっぷりに、細身でも高校生だねと目を細めていた。

 祐樹はじぶんのぶんは払う気でいたが、それじゃお礼にならないでしょと言われてしぶしぶ財布をしまった。

「ごちそうさまでした。すっごくおいしかったです」
「どういたしまして。やっぱ新鮮な魚はいいよね」

 そこからはさらに海沿いの道を南下していく。

「気持ちいい」
 
 ウィンドウを開けた景色に祐樹がつぶやいた。空が広くて水平線まで見通せる。

「高校生だとドライブはあまりしないかな? ふだん遊ぶときはやっぱり都内?」
「そうですね、免許ないし。学校近くのカラオケとかボーリングが多いかな」

「たまに先輩の車で出かけることもありますけど」
「そうか、大学生と付き合ってるんだったね」

 綾乃のことを思い出したのだろう。

 祐樹も先週のテーマパークのことを思い出して、その時よりずっとリラックスしていることを自覚した。人ごみのなかより気持ちがよくて、ほっと体の力が抜ける。

「こんなふうにドライブってしたことなかったんですけど、ほっとするっていうか気持ちいいです」

「そう言ってもらえてよかったよ」

 海沿いの道をしばらく走ったら、道路脇が一面の黄色い花に変わった。房総フラワーロードの看板が大きく立っていて、祐樹が目を瞠る。見頃ってこれのこと?

「すごい。これ、…菜の花?」
「そうだよ。チューリップと桜以外の花も知ってるじゃない」

「さすがに菜の花はわかります」

 からかわれて唇をとがらせてみたものの、青い空と海と黄色い菜の花のコントラストはとてもきれいで、すぐに笑顔になってしまう。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

年上の恋人は優しい上司

木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。 仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。 基本は受け視点(一人称)です。 一日一花BL企画 参加作品も含まれています。 表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!! 完結済みにいたしました。 6月13日、同人誌を発売しました。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

【完結】嘘はBLの始まり

紫紺(紗子)
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。 突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった! 衝撃のBLドラマと現実が同時進行! 俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡ ※番外編を追加しました!(1/3)  4話追加しますのでよろしくお願いします。

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。 「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」 魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。 俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/11……完結 2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位 2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位 2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位 2023/09/21……連載開始

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

処理中です...