あの日、北京の街角で 番外編 これもほどよく憂鬱な日々

ゆまは なお

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第11章-2

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 メタリカをBGMに車は南房総方面に向かって走り、途中のPAで休憩をはさみながら富浦ICまで来て一般道に降りた。BGMはボンジョビに変わり、そこからは海沿いの道をのんびり走る。
 
 そういえば車ってある意味、個室だったんだとドライブの途中で気づいたが、心配したような気詰まりな雰囲気にはならなかった。

 東雲の仕事の話や祐樹の学校の話をしているうちに、いつの間にかずっと打ち解けた雰囲気になっていた。東雲は話し上手でもあり、聞き上手でもあった。

「ちょっとお寺に寄ってもいい?」
「はい」 

「面白いお寺があるんだ。通称崖観音って言って絶壁に張り付くみたいに建ってるんだけど、その建物も上からの景色もなかなか見事だから」

 駐車場に車を停めて、下から見上げただけで、その寺が横縞もあらわな地層に張りついているのが見て取れた。どうやってあんなところに建てたんだろうと、思わず考えてしまう。

「ほんとにすごいですね」

 こんなむき出しの地層を見たのは初めてかもしれない。崖に沿って立つ寺まではかなり距離がありそうだ。

「うん。けっこう階段上がるけど、まだ若いし平気だよね」
「東雲さんよりはね」

 そんな軽口をたたけるくらいには2時間ほどのドライブで親しくなっていた。階段を上って本殿まで上がってくると、街の景色のむこうに海が見えた。空が広い。気持ちがよくて思わず、深く息を吸い込んだ。

 息を整えながら絶景に見入っていると、さらりと背中をなでられた。学校でもよくある友人同士のなにげない触れ方だったのに、どくんと心臓が大きく鳴る。

「だいじょうぶ? けっこうしんどかった?」
「…空手やめてから、最近ちょっと運動不足かも」

 動揺を悟られないように、深呼吸して息を整えた。乱れる呼吸を東雲は階段のせいだと思っているのだろう。祐樹は海へと目線を向けたまま、ぎゅっと手を握りしめた。

 立派な観音堂でお参りをすませて駐車場へ戻ると、もう昼を過ぎていた。

「そろそろお腹すかない? ここらへんは漁港近いから海鮮丼とかおいしいけど、それでいい?」

「はい、海鮮好きです」

 漁港の食堂といった気取らない店で、豪快な具の乗った海鮮丼を食べた。かなりのボリュームだったが、新鮮な魚はおいしくてふたりともぺろりと平らげてしまう。

 東雲は祐樹の食べっぷりに、細身でも高校生だねと目を細めていた。

 祐樹はじぶんのぶんは払う気でいたが、それじゃお礼にならないでしょと言われてしぶしぶ財布をしまった。

「ごちそうさまでした。すっごくおいしかったです」
「どういたしまして。やっぱ新鮮な魚はいいよね」

 そこからはさらに海沿いの道を南下していく。

「気持ちいい」
 
 ウィンドウを開けた景色に祐樹がつぶやいた。空が広くて水平線まで見通せる。

「高校生だとドライブはあまりしないかな? ふだん遊ぶときはやっぱり都内?」
「そうですね、免許ないし。学校近くのカラオケとかボーリングが多いかな」

「たまに先輩の車で出かけることもありますけど」
「そうか、大学生と付き合ってるんだったね」

 綾乃のことを思い出したのだろう。

 祐樹も先週のテーマパークのことを思い出して、その時よりずっとリラックスしていることを自覚した。人ごみのなかより気持ちがよくて、ほっと体の力が抜ける。

「こんなふうにドライブってしたことなかったんですけど、ほっとするっていうか気持ちいいです」

「そう言ってもらえてよかったよ」

 海沿いの道をしばらく走ったら、道路脇が一面の黄色い花に変わった。房総フラワーロードの看板が大きく立っていて、祐樹が目を瞠る。見頃ってこれのこと?

「すごい。これ、…菜の花?」
「そうだよ。チューリップと桜以外の花も知ってるじゃない」

「さすがに菜の花はわかります」

 からかわれて唇をとがらせてみたものの、青い空と海と黄色い菜の花のコントラストはとてもきれいで、すぐに笑顔になってしまう。
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